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クリムゾン・ヘル
November-2
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呼出しチャイムが鳴った。
蜂谷は席を立つと、インターホンで応答した。
「はい、どういったご用件でしょうか?」
『…久井竹祐さん、ここに居ますか?』
若い男の声。覚えはない。蜂谷は答えた。
「居りません。お名前伺ってもよろしいでしょうか?」
『…“唐土”から来ました。“カレノ”の使いです』
その言葉に、蜂谷は息を呑んだ。
スタジオで新曲クリムゾン・ヘルの練習に付き合っていた久井の携帯に着信があった。柏木所長だ。
「はい」
『休みのとこ済まない。今、何処に居る?』
「中野のスタジオです。何かありましたか?」
『雨天から使いがあった。話したい事がある』
「判りました。事務所ですね、今から向かいます」
事務所で久井を待っていたのは、15,6歳くらいの少年だった。
空気感で判る。自分と同じ一族の者だ。
少年は立ち上がり一礼すると、口を開いた。
「初めまして。枯野の孫の空五倍子と言います」
「久井です。初めまして。遠い所からわざわざありがとう」
「こっちで判った事がありましたので、報告と相談に参りました」
ウツブシはそう言うと、持って来たスポーツバッグからファイルを取り出し、開いてみせた。
「これは?」
「父と祖母が書きまとめた『暴徒化』した人々の、出自に関する資料です。色を塗ってあるのは血縁関係の筋です」
書類には、各世帯ごとに書き分けられた人名が家系図の様に記載されていた。
ここまで書きまとめるのに、一体どの位の時間を要した事か。
一同はある事に気付いた。
「『茶』と『紫』…?」
柏木が口を開く。
「その2つの血筋の者が多いな。従来から『暴徒化』した者の子孫も『暴徒化』があるのが顕著で、遺伝病が疑われていたが、となると単独での『暴徒化』の説明がつかなかった。
この資料を見ると単独の『暴徒化』が、元を辿ると『茶』と『紫』の血筋と判る」
別紙にはもっと詳しく書いてあり、2つの血筋出身で外部に嫁いだり、養子になった者の子孫も『暴徒化』しているのが一目瞭然だった。
久井が目を細め呟く。
「『平成』の…、ほぼ全員がこの筋出身?」
ウツブシは頷いた。
「そうです。祖母がある仮説を立てました」
一呼吸おいて、続けた。
「式獣が関係してるのではないか、と」
圭太郎が質問する。
「『茶』と『紫』では何体扱っているんだね?」
「直系で扱っているのは、『茶』が3、『紫』が2です。『二代目』で扱ってる人も居るので、詳しく言い切れませんが」
式獣は基本的には先祖代々伝わり、受け継ぐ能力だ。
例えば『A』家で『a』の式獣を使ってる場合、その家の人間は皆『a』を召喚し、使役する事ができる。
なので『B』家で『b』の式獣を使う人間は『A』家へ嫁いだり養子になっても、血の上では他人なので『a』は使えない。
けれども、『A』家生まれの父と『B』家生まれの母との間に生まれた子は、『a』と『b』の両方を使える(これが先に出た『二代目』)。
更に3代目、孫世代になると強い方の血筋の式獣どちらかしか、使えない(勿論例外も有る)。
蜂谷が口を開く。
「例えば制約として、精神を蝕む式獣が存在してるのですか?」
「もっと詳しく調べてみないと判らないが、式獣が関係してるのであれば、外の家に入った子世代の『暴徒化』の合点がいく」
柏木は目を細めた。久井も言った。
「じゃあ、使用を禁ずれば『暴徒化』も無くなる…?」
だがウツブシは口を開いた。
「使用禁止は簡単なんですが、気になる証言があります」
「証言?」
「シオンと仲の良かった友人が、今年の春に『式獣ってボケたりするのか?』と訊かれたそうです。『別人の様な口調と立ち回りをした、けどその時の記憶が無いのか訊いても忘れている』と。
…別の『暴徒化』した人は、失踪前に自問自答の様な独り言や不必要な召喚を、度々していたと証言がありました」
以前から精神・脳疾患は疑われていたが、そこに式獣が絡むとは…。
簡単に思えた解決の糸口が、また遠ざかってしまった。
ウツブシが続ける。
「式獣が召喚者を乗っ取る前に、何者かが式獣を乗っ取っているのでは、と」
「…誰かが式獣を操って、更に式獣所有者を乗っ取る、ねえ…」
柏木は腕組みをして椅子に座った。
有り得ない話では無いが、いささか無理やりな理論だ。
圭太郎も言った。
「式獣にも色々居るからな。人語を話せるやつ、話せないけど理解できるやつ。高い知性を持っているやつ、コミュニケーションに難の有るやつ…。
所有者から主導権を奪うなんて聞いた事もないな」
「そこで提案があるんですが…」
ウツブシは皆の目を見て言った。
「俺を実験に使って下さい」
「「はあ⁈」」
「可能性のある、5つの式獣を使用禁止にして下さい。俺は『茶』の血筋なので、俺だけ召喚可能な状況を作って下さい。
仮説が本当なら、俺を乗っ取ろうと動く式獣が居る筈です」
「バカな事言わないで!! おばあさんはあなたに実験台になれって言ったの? そうじゃないでしょ⁈ もしもの事があったらどうするのよ!!」
珍しく大声を出した蜂谷はウツブシを睨んだ。ウツブシは反論した。
「仮説だから違うかもしれない。証明するには『血』を持つ人じゃないと判らないんです。俺で良いので、こんな出来事を終わらす為の役に立ちたいんです!!」
久井も皆、反対だった。未来ある少年に、命を賭けた実験をしてもらいたくない。
ウツブシは言った。
「…シオンの彼女さん、妊娠5か月なんです」
泣きそうな顔をしていた。
「周りから『父親が死んでるから堕ろした方がいい』って言われたけど、『彼がこの世に残したたった1つの証だから産みたい』って…。
仮説通りなら、産まれて来る子も、血を継いでいるからいつかは『暴徒化』して、誰かを傷つけたり悲しませる事になります。
…産まれる前から、不慮の死を遂げるのが決まってるなんて、そんなのおかしいです!!」
ウツブシは大粒の涙を零した。
圭太郎はゆっくりとウツブシの背中をさすった。久井も、気持ちは痛いほどよく分かっていた。
視線。
ふとその先を見ると、バツの悪そうな表情を浮かべたヘルファイアの面々が居た。
久井は柏木へ目配せすると、5人を廊下へ連れ出した。
申し訳なさそうな顔をして鉄也が弁解する。
「…すみません。タイミング悪くて」
「それはいい。スタジオは終わったのか?」
「はい。時間になったので、帰るついでにこっち寄りたいって…」
恭一がチラッと陸を見た。
「え? 俺のせい? いやまさか、こうなってると思わなくて」
陸が歩の影に隠れようとする。歩が溜息をつく。
「だから行く前に電話しようって言ったのに…」
「あの…。話、途中から聞こえちゃったんすけど…あの子、アッチの使者ですか? 随分若いんですね」
隆平もすまなそうに言った。
(やはり聞かれてたか)
年少班には、あまり関わって欲しく無かった。
蜂谷がドアから顔を出し、言った。
「久井さん、所長が話したいそうです。
…あとあなた達、暇なら談話室でお客様をもてなして頂戴!」
久井がドアの向こうに消えると、陸は小声で呟いた。
「…朱美ちゃん怒ってるー。やだコワーイ!」
「えっと、とりあえず自己紹介するわ。俺『翡翠』。齢は18で、バイトしながらバンドやってる」
微妙な空気の中、後は若い者でと当てがわれた部屋で、鉄也は口を開いた。
目を少し赤くした少年は会釈した。
オレンジジュースをコップに注ぐ恭一が、首を竦める。
「え、そっち? ステージネームで紹介すんの?」
「いいっしょ。『色つき』の方が馴染み深いし。ほら、キョウさんも!」
「う。えーと『桔梗』です。所長と一緒に居た、眼鏡のおじさんの息子です…」
「うはは! バンドっぽさカケラも無え。ボーカルの『琥珀』です!」
キメポーズの陸が言い終わると、恭一はデコピン制裁をしてから、ジュースを出した。
陸の悲鳴を気にせず、歩が口を開く。
「『紫苑』です」
「『臙脂』です。紫苑と俺は、高3で、学校行きながらバンドやってる」
「…空五倍子です。齢は16です。今日は急に失礼しました」
少年はそう言うと会釈した。鉄也は言った。
「俺達、晴天生まれで、親の仕事手伝いながらバンドやってるから、ここに出入りしてるんだ。ウツブシは?」
「俺は…」
口を閉ざしたウツブシに、恭一は言った。
「大丈夫。事情は久井さんから少し聞いてるから。雨天の人なんでしょ?」
ウツブシは静かに頷いた。半端無く警戒して、口を開く。
「皆さんは…、偏見無いんですか?」
「無いよ。親も昔からこういう仕事してたし。曇天と晴天では状況違うからね」
歩が答えた。
特にこの5人の親に関しては、雨天が近い仕事しているから事実だ。
鉄也が尋ねる。
「ウツブシは学生? それとも働いてる?」
「通信制行きながら働いてます。皆さんは天番なんですか?」
「いやいや。正式な天番じゃない。家業の手伝いっちゅうか、何ていうか…」
隆平が首を傾げると、陸も口を添えた。
「うーん、久井さんのパシリ?」
「せめてアシスタントって言えよ」
歩の突っ込みに、陸は豪快に笑う。
恭一がドアに目をやりつつ言った。
「所長達、まだもめてんのかな。未成年が捜査班に入るとなんちゃらって」
「そんなんさ、俺らも班に居んだしさっさと許可すりゃいいのに」
鉄也の言葉に、ウツブシは伏せてた顔を上げた。鉄也が笑って続けた。
「立ち聞きしちゃったけど、俺はウツブシの捜査協力すごく嬉しい。ぶっちゃけ所長も、雨天の状況判る人居てくれたら、助かると思うんだよね」
「多分さ、力不足だからダメって言ってんじゃなくて、若い犠牲者これ以上出したくないから言ってんだよ」
恭一もそう言うと、ウツブシの硬かった表情も解れてきた。
陸が言った。
「ねえ、うーちゃんって呼んでいい? ダメ?」
蜂谷は席を立つと、インターホンで応答した。
「はい、どういったご用件でしょうか?」
『…久井竹祐さん、ここに居ますか?』
若い男の声。覚えはない。蜂谷は答えた。
「居りません。お名前伺ってもよろしいでしょうか?」
『…“唐土”から来ました。“カレノ”の使いです』
その言葉に、蜂谷は息を呑んだ。
スタジオで新曲クリムゾン・ヘルの練習に付き合っていた久井の携帯に着信があった。柏木所長だ。
「はい」
『休みのとこ済まない。今、何処に居る?』
「中野のスタジオです。何かありましたか?」
『雨天から使いがあった。話したい事がある』
「判りました。事務所ですね、今から向かいます」
事務所で久井を待っていたのは、15,6歳くらいの少年だった。
空気感で判る。自分と同じ一族の者だ。
少年は立ち上がり一礼すると、口を開いた。
「初めまして。枯野の孫の空五倍子と言います」
「久井です。初めまして。遠い所からわざわざありがとう」
「こっちで判った事がありましたので、報告と相談に参りました」
ウツブシはそう言うと、持って来たスポーツバッグからファイルを取り出し、開いてみせた。
「これは?」
「父と祖母が書きまとめた『暴徒化』した人々の、出自に関する資料です。色を塗ってあるのは血縁関係の筋です」
書類には、各世帯ごとに書き分けられた人名が家系図の様に記載されていた。
ここまで書きまとめるのに、一体どの位の時間を要した事か。
一同はある事に気付いた。
「『茶』と『紫』…?」
柏木が口を開く。
「その2つの血筋の者が多いな。従来から『暴徒化』した者の子孫も『暴徒化』があるのが顕著で、遺伝病が疑われていたが、となると単独での『暴徒化』の説明がつかなかった。
この資料を見ると単独の『暴徒化』が、元を辿ると『茶』と『紫』の血筋と判る」
別紙にはもっと詳しく書いてあり、2つの血筋出身で外部に嫁いだり、養子になった者の子孫も『暴徒化』しているのが一目瞭然だった。
久井が目を細め呟く。
「『平成』の…、ほぼ全員がこの筋出身?」
ウツブシは頷いた。
「そうです。祖母がある仮説を立てました」
一呼吸おいて、続けた。
「式獣が関係してるのではないか、と」
圭太郎が質問する。
「『茶』と『紫』では何体扱っているんだね?」
「直系で扱っているのは、『茶』が3、『紫』が2です。『二代目』で扱ってる人も居るので、詳しく言い切れませんが」
式獣は基本的には先祖代々伝わり、受け継ぐ能力だ。
例えば『A』家で『a』の式獣を使ってる場合、その家の人間は皆『a』を召喚し、使役する事ができる。
なので『B』家で『b』の式獣を使う人間は『A』家へ嫁いだり養子になっても、血の上では他人なので『a』は使えない。
けれども、『A』家生まれの父と『B』家生まれの母との間に生まれた子は、『a』と『b』の両方を使える(これが先に出た『二代目』)。
更に3代目、孫世代になると強い方の血筋の式獣どちらかしか、使えない(勿論例外も有る)。
蜂谷が口を開く。
「例えば制約として、精神を蝕む式獣が存在してるのですか?」
「もっと詳しく調べてみないと判らないが、式獣が関係してるのであれば、外の家に入った子世代の『暴徒化』の合点がいく」
柏木は目を細めた。久井も言った。
「じゃあ、使用を禁ずれば『暴徒化』も無くなる…?」
だがウツブシは口を開いた。
「使用禁止は簡単なんですが、気になる証言があります」
「証言?」
「シオンと仲の良かった友人が、今年の春に『式獣ってボケたりするのか?』と訊かれたそうです。『別人の様な口調と立ち回りをした、けどその時の記憶が無いのか訊いても忘れている』と。
…別の『暴徒化』した人は、失踪前に自問自答の様な独り言や不必要な召喚を、度々していたと証言がありました」
以前から精神・脳疾患は疑われていたが、そこに式獣が絡むとは…。
簡単に思えた解決の糸口が、また遠ざかってしまった。
ウツブシが続ける。
「式獣が召喚者を乗っ取る前に、何者かが式獣を乗っ取っているのでは、と」
「…誰かが式獣を操って、更に式獣所有者を乗っ取る、ねえ…」
柏木は腕組みをして椅子に座った。
有り得ない話では無いが、いささか無理やりな理論だ。
圭太郎も言った。
「式獣にも色々居るからな。人語を話せるやつ、話せないけど理解できるやつ。高い知性を持っているやつ、コミュニケーションに難の有るやつ…。
所有者から主導権を奪うなんて聞いた事もないな」
「そこで提案があるんですが…」
ウツブシは皆の目を見て言った。
「俺を実験に使って下さい」
「「はあ⁈」」
「可能性のある、5つの式獣を使用禁止にして下さい。俺は『茶』の血筋なので、俺だけ召喚可能な状況を作って下さい。
仮説が本当なら、俺を乗っ取ろうと動く式獣が居る筈です」
「バカな事言わないで!! おばあさんはあなたに実験台になれって言ったの? そうじゃないでしょ⁈ もしもの事があったらどうするのよ!!」
珍しく大声を出した蜂谷はウツブシを睨んだ。ウツブシは反論した。
「仮説だから違うかもしれない。証明するには『血』を持つ人じゃないと判らないんです。俺で良いので、こんな出来事を終わらす為の役に立ちたいんです!!」
久井も皆、反対だった。未来ある少年に、命を賭けた実験をしてもらいたくない。
ウツブシは言った。
「…シオンの彼女さん、妊娠5か月なんです」
泣きそうな顔をしていた。
「周りから『父親が死んでるから堕ろした方がいい』って言われたけど、『彼がこの世に残したたった1つの証だから産みたい』って…。
仮説通りなら、産まれて来る子も、血を継いでいるからいつかは『暴徒化』して、誰かを傷つけたり悲しませる事になります。
…産まれる前から、不慮の死を遂げるのが決まってるなんて、そんなのおかしいです!!」
ウツブシは大粒の涙を零した。
圭太郎はゆっくりとウツブシの背中をさすった。久井も、気持ちは痛いほどよく分かっていた。
視線。
ふとその先を見ると、バツの悪そうな表情を浮かべたヘルファイアの面々が居た。
久井は柏木へ目配せすると、5人を廊下へ連れ出した。
申し訳なさそうな顔をして鉄也が弁解する。
「…すみません。タイミング悪くて」
「それはいい。スタジオは終わったのか?」
「はい。時間になったので、帰るついでにこっち寄りたいって…」
恭一がチラッと陸を見た。
「え? 俺のせい? いやまさか、こうなってると思わなくて」
陸が歩の影に隠れようとする。歩が溜息をつく。
「だから行く前に電話しようって言ったのに…」
「あの…。話、途中から聞こえちゃったんすけど…あの子、アッチの使者ですか? 随分若いんですね」
隆平もすまなそうに言った。
(やはり聞かれてたか)
年少班には、あまり関わって欲しく無かった。
蜂谷がドアから顔を出し、言った。
「久井さん、所長が話したいそうです。
…あとあなた達、暇なら談話室でお客様をもてなして頂戴!」
久井がドアの向こうに消えると、陸は小声で呟いた。
「…朱美ちゃん怒ってるー。やだコワーイ!」
「えっと、とりあえず自己紹介するわ。俺『翡翠』。齢は18で、バイトしながらバンドやってる」
微妙な空気の中、後は若い者でと当てがわれた部屋で、鉄也は口を開いた。
目を少し赤くした少年は会釈した。
オレンジジュースをコップに注ぐ恭一が、首を竦める。
「え、そっち? ステージネームで紹介すんの?」
「いいっしょ。『色つき』の方が馴染み深いし。ほら、キョウさんも!」
「う。えーと『桔梗』です。所長と一緒に居た、眼鏡のおじさんの息子です…」
「うはは! バンドっぽさカケラも無え。ボーカルの『琥珀』です!」
キメポーズの陸が言い終わると、恭一はデコピン制裁をしてから、ジュースを出した。
陸の悲鳴を気にせず、歩が口を開く。
「『紫苑』です」
「『臙脂』です。紫苑と俺は、高3で、学校行きながらバンドやってる」
「…空五倍子です。齢は16です。今日は急に失礼しました」
少年はそう言うと会釈した。鉄也は言った。
「俺達、晴天生まれで、親の仕事手伝いながらバンドやってるから、ここに出入りしてるんだ。ウツブシは?」
「俺は…」
口を閉ざしたウツブシに、恭一は言った。
「大丈夫。事情は久井さんから少し聞いてるから。雨天の人なんでしょ?」
ウツブシは静かに頷いた。半端無く警戒して、口を開く。
「皆さんは…、偏見無いんですか?」
「無いよ。親も昔からこういう仕事してたし。曇天と晴天では状況違うからね」
歩が答えた。
特にこの5人の親に関しては、雨天が近い仕事しているから事実だ。
鉄也が尋ねる。
「ウツブシは学生? それとも働いてる?」
「通信制行きながら働いてます。皆さんは天番なんですか?」
「いやいや。正式な天番じゃない。家業の手伝いっちゅうか、何ていうか…」
隆平が首を傾げると、陸も口を添えた。
「うーん、久井さんのパシリ?」
「せめてアシスタントって言えよ」
歩の突っ込みに、陸は豪快に笑う。
恭一がドアに目をやりつつ言った。
「所長達、まだもめてんのかな。未成年が捜査班に入るとなんちゃらって」
「そんなんさ、俺らも班に居んだしさっさと許可すりゃいいのに」
鉄也の言葉に、ウツブシは伏せてた顔を上げた。鉄也が笑って続けた。
「立ち聞きしちゃったけど、俺はウツブシの捜査協力すごく嬉しい。ぶっちゃけ所長も、雨天の状況判る人居てくれたら、助かると思うんだよね」
「多分さ、力不足だからダメって言ってんじゃなくて、若い犠牲者これ以上出したくないから言ってんだよ」
恭一もそう言うと、ウツブシの硬かった表情も解れてきた。
陸が言った。
「ねえ、うーちゃんって呼んでいい? ダメ?」
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