【完結】僕たちのアオハルは血のにおい ~クラウディ・ヘヴン〜 

羽瀬川璃紗

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クリムゾン・ヘル

August-1

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 ヘッドフォンを付けると、男はギターをつま弾いた。


 男は呪われし一族の末裔。呪われてると言われるのには、理由があった。

 人々に存在を認められず、そして時折行方不明になり、罪を犯す者が居るため『謎の発狂を遂げる』危険な一族とされた。


 その昔。

 一族の存在を認める動きがあった。長く疎外されていたが、来たる大きな時代の波を越える為に、共に力を合わせようではないか。

 そんな折。事態が急変した。

    先陣に居た30名が『狂暴化』したのだ。彼らは仲間の声も聞かず、次々と人を殺害し、遂には処刑されてしまった。

    それで危険な一族と認定され、存在を認める動きは白紙になった。


 けれども、その出来事には不可思議な事象がとりついていた。タイミング、不自然な出来事、不可解な事案…。

    男は心に誓った。絶対に解明してやる、と。犠牲となった仲間達に、その時何が起こったのか。

 男には2つの異なる血筋の血が流れていて、その血筋に倣い名前が2つあった。『その』為に名が2つあると男は考えた。


    男はギターを弾く手を止めるとヘッドフォンを外した。





「家出、でしょうか?」

 久井竹祐ひさいたけひろが尋ねると、老婆は首を捻った。

「一般的には家出、でしょうな。ただ、話では少し前から頻繁に、それも1日居なくなって4日は居る、3日居なくなって2日居るみたいな、おかしな外出をしておってな」

「日雇いで働いてましたから、遠方に派遣されとると周りは思ったそうで」

 老婆の息子も言った。久井は腕組みした。

「…また唐土とうどで」

「まあ、アレが起きてからはだいだい末黒野すぐろの、唐土の3か所で30人以上は消えてる。ここは人口が多いですから」

「…存じております。引き続き調べますので、何かあったらお知らせ下さい」

 久井が頭を下げると、2人もお辞儀した。


 今回『暴徒化』したのは、建設関係の日雇いをしていた18歳の少年だった。日増しに外出回数が増え、戻らなくなり、大事件を起こした。

    勿論、彼はそんな事件を起こすような人物では無かったのにだ。


 久井はある機関に所属していながら、ある事件の黒幕を6年前から追っていた。
    この6年、証拠になりそうなものは幾つか見つけたものの、線で繋ぐ事が出来ずにいた。


 車の運転席では、後輩の蜂谷朱美はちやあけみが待っていた。久井が乗り込むと、蜂谷は口を開いた。

「恭一から連絡ありました。もうすぐ事務所だそうです」

「判った。行こう」



「あ、ヘルファイア只今戻りました」

 久井の姿を見るなり、大声で有間陸ありまりくが言った。
    一同は、事務所の小さな談話室に集合した。

「ご苦労様。どうだった?」

「ライブは成功。取り敢えず赤城キリン真姫ヤミヨ、あともう1人と連絡先を交換しました」

 凪原恭一なぎはらきょういちが簡潔に報告する。久井は苦笑した。

「誰だよ、あともう1人って」

カラスとヤミヨ共通の幼馴染の男子です。ターゲットじゃないけど、まあいいかと」

 海藤鉄也かいとうてつやが答えた。
 塩原歩しおばらあゆむがアイスコーヒーを飲みつつ久井に尋ねた。

「…やっぱり殺られたのは『雨天うてん』の?」

「そうだ。今日、話を聞きに行ったけど、また外出が増えて帰らなくなったパターンらしい」

 久井の言葉に戸田隆平とだりゅうへいが腕組みする。

「うーん…。日付がニアミスだったから、俺達も何処かで接触出来たら良かったんだけど…」

「いや。接触は危険だ。下手すりゃお前らも死んだ糸遊の二の舞になる」

 久井は首を振った。


 彼らヘルファイアはチームの一員であり部下だが、戦友の大切な息子達でもある。もしもがあってはならない。


    久井は尋ねた。

赤沼マーズとはあれから会ったか?」

「いいえ。メールの通り、ファミレスでの一件の後は何も。
柏木さん達が行った後に来たのも、青山会長サファイア陽本副会長ヒカリだけだったし。しかも次の日の朝イチで、ね」

 鉄也は不服そうだった。歩も補足した。

「カラス達も言ってたんですけど、曇天内部でもマーズはだいぶ不人気らしいです。先頭に立つ割りに、何かあるとすぐ隠れるそうで」

 久井は口元に手を当てた。

「うーん。…隠れるのはサファイアの指示かもな。直属派閥だから、何かあった時一緒だとマイナスイメージが付くんだろう」


 トカゲの尻尾切りのよう。でも狭い組織だ。あまり意味も無いだろうに。


    資料を読んでいた蜂谷が質問した。

「曇天からの報告書には、ヤミヨは今回の任務に付いていた、とありますが?」

「ああ、はい。ヤミヨも初回で修羅場の場に出くわしたから、少し落ち込んでて。あまり聞けなかったんですが、」

 恭一は、アイスコーヒーから口を離すと続けた。

「亡くなった糸遊の救護をしたそうです。途中から交代して、でも亡くなって」

「交代相手…、医療機関への引き渡しは赤沼の直属部下、ねぇ」

 久井は報告書を見て目を細めた。それにしても。

「夕方のラッシュ時と差し引いても、救急要請遅すぎるな。出来るだけ術で回復させてから、引き渡す決まりがあるにしても。
キリンは何か言ってたか?」

「特には。『残念だ』とは言ってましたが」

七神衆しちしんしゅうだしな。下手に発言出来ないんだろう」

 久井は資料を机上に置くと、皆に言った。

「柏木所長から、ある提案を受けた」

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