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チキン・ヒーロー

任務続行

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「凪原靖等さんは、陽炎だけど糸遊側についた言わば陽炎の反徒、ってやつだ。
戦後の混乱に乗じて政府を倒そうとした動きを密告した事と、糸遊と政府を繋ぐ『天番てんばん』制度を考案した人さ。
一応政治家だけどあまりメジャーでは無くて、陽炎出身だからか…曇天でもあまり口に出す人も無いし、名前は浸透してない。
俺も『上役』につくまで知らなかった」


 赤城はそこまで言い、ジンジャーエールを口にした。


    ガトリングコブラでのライブ公演後、ヘルファイアの5人と赤城、真姫、望、皇介で、遅い夕食を取るため居酒屋の個室に居た。


 赤城は苦笑した。

「てか、君らわざとにも程があるだろ⁈ 言おうと思えば、昨日まで引っ張らなくても言えるじゃん! もしもがあったらどうすんのよ!」

「すみません…。でもそういう任務だったんで」

 キキョウは申し訳なさそうに言った。


 昨日は年長者としてクールに振舞っていたキキョウだが、赤城達の退散後、汗でTシャツの背中部分の色が変わっていた。
 『マジやばかった!!ガチで殺されるかと思った!!』と1番騒いでいた。


 昨夜遅く、晴天から『抜き打ち内偵任務』の為にヘルファイアを送り込んだ人物数人(1人はキキョウの父)が、中央会など関係先と望や皇介宅に訪れた。
 『大変失礼しました、ご協力ありがとう』と。

 内偵理由は教えられないらしいが。


 偶然にも望と芽衣は同じ日に、『疑惑のパンピ』と会う事になっていたのだ。


    芽衣の彼氏がパンピに偽装した陽炎で、曇天侵入と共に捕まりかけ、説得する芽衣に式獣で重傷を負わせ、陽炎は車ごと暴走し突入。
 糸遊の攻撃で、その陽炎は死亡。

    芽衣も、病院への搬送中に死亡した。


 因縁のある相手だが、あの惨状を見せつけられた真姫は気分が晴れなかった。


 皇介が尋ねる。

「家は政府筋なんですよね? よくバンド許しましたね、親御さん」

「え? 全然許されてないよ? 諦められてる。ぎゃははは!!」

 コハク:有間ありま陸が笑って答えた。シオンも言った。

「うちも。『取り敢えず学校だけは卒業して』ってね」

 真姫も尋ねる。

「どうしてバンドを?」

「音楽が好きってのが1番大きいけどさ、晴天は『この国の為になる仕事に就くのが当然』ってなってるんだ。
俺はその考えに真っ向から歯向かっていきたい。『音楽』だって人の為になるって信じてるから」

 エンジ:戸田隆平が答えた。


   『音楽で世界を変える』、みたいな次元の話だと真姫は思った。癒し、激励、活力…、でも人は音楽を求める。 

 バカみたいな話だけど、人である以上は蔑ろに出来ないのである。


 望がポツリと呟く。

「この国の為か。…いつまで戦うべきなんだろうな」

 その言葉に、一同は思わず望を見ると、焦ったのか弁解を始めた。

「ごめん、変な事言っちゃって…」

「まあ、糸遊は戦う事だけがこの国の為になるって訳じゃないじゃん?」

 キキョウが煙草を吸いつつ言うと、赤城も頷いた。

「イイと思う。そういうのも大事だ」




「焦った」

 運転しつつ恭一が呟いた。帰途の車内。歩が反応する。

「確かに…。でもキョウさん、上手くフォローしたじゃん」

「ああ言うしかねえじゃん。良かった」


 まだ早い。


 陸が笑って言う。

「もう戻れないね、進むのって怖いね」

「お前、プレッシャーかけんなよ」

 隆平が顔をしかめる。鉄也が静かに言う。

「困難な任務だけど、俺達の夢もかかってるし。…利用してるみてえだけど、やらないと」


 助手席の歩が、車のMDプレイヤーへ赤城からもらったMDを読み込ませた。
    親愛の証に、赤城からCLOWN・ASHの曲を貰ったのだ。


 俺達は卑怯者だ。夢の実現の為に、ある任務を遂行する。
 トモダチを作り、そのトモダチを地の底へ落とす。

    MDは1曲目の『チキン・ヒーロー』を奏で出す。


 何度でも言おう。俺達は卑怯者だ。


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