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チキン・ヒーロー

不可避-1

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「何時頃そっち行けばいい? 俺、車だからさ。
…うん、じゃあ6時に駅で。白い車だから。
…え? マジで? あはは、そりゃいいや。
…うん、また後ね」

 シオンが電話を切ると、運転席の男がエンジンをかけた。

「出るぞ」

「駅のパーキングで車を換える。シオンが先に内部に行って、俺達は別ルートから」

「警備は突破出来るのか?」

 小柄な男がシオンに尋ねる。

「入口の交通整理が難関だな。でも外部の人間も多いし、いざとなれば車だし…、そこまで厳しくないかも」

 グレーのワゴン車は、赤守市内へ入って行った。




 結局、何もできないまま当日になってしまった。

 真姫の心は決まっていた。皇介にキャリアメールを送る。

『望と一緒に、東京のバンドの人と会って来るんだよね?』

『そうだよ、お前も来たいの?』

『望の事、よろしくね。私、行けないから』

『どうした?急に』

 返信はしなかった。せめていつも通りにして欲しいから。

 もし、望が記憶を消され追放されたら、皇介はどうするだろう。
    会いに行って覚えてもらい、また友達同士になるだろうか。

 自分にも責任がある。望をライブの打ち上げに呼んだり、きっかけを作ってしまった。


(お姉ちゃん、呆れてるかな。お母さん、がっかりしてるよね。何でもそつなくこなしてきたけど、私は力を持たないただの子供だ)


 17時少し前、真姫はそっと出発した。




「お久しぶりっす!!」

 ヒスイを見つけた望が手を振ると、ヒスイも笑顔で返した。

「久しぶり! こっちが例の幼馴染?」

「初めまして。皇介です」

「こちらこそ初めまして。俺、ヒスイ」

 一部に緑の入った栗色の頭に、口元に2つのピアスという派手な出で立ちだが、気さくな態度のヒスイに、皇介の緊張もすぐ解けたようだ。

「今日は1人ですか?」

 望が駅前の喧騒を見渡すと、ヒスイが答えた。

「キョウさんとシオンの3人で来たとこなんだ。バイト休めなくて、残り2人は明日合流」

 明日のライブの前乗りで、駅前のビジネスホテルに泊まるという。
 皇介が腕時計を見て問う。

「飯、どうします? 向こう曇天で食いますか? それともここらで?」

「どうすっかな。キョウさんとシオンは腹減ったからって、そこでいま食ってんだよね」

「じゃ、早いけど俺も何か食おっかな」

「ヒスイさんは?」

「そだね、何か食いながら花火までダベろう。丁度いいからここで」

 3人はファミレスへ入って行った。



「…あれから望は何か文章書けたの? 調べ物どうなった?」

 グリルハンバーグを食べる望に、シオンが尋ねる。

「あー、一応赤守氏を調べてたんスけどね…」

「『けど』? 何かあった?」

 望の答えにヒスイが反応する。望は続けた。
 もちろん、準備してた言い訳だ。

「調べたりベースいじってたら、テスト良くなくて親がおかんむり。だから一応小休止っす」

「何冊くらい読めた?」

 ヒスイが興味深そうに更に尋ねる。 

「え? まあ4,5冊?」

 軽く言って、さっさと話題を変えようとする望に、キキョウは間髪入れず問う。

「『紫』の話、読んだ?」

 サイコロステーキを食べる皇介が手を止める。


 まずい。正直過ぎる皇介と、追跡の式獣の気配。


   焦る望と笑うヒスイは見つめ合う。ヒスイの、銀色のピアスが2つ付いた口元が動く。

「始末を免れた紫分の生き残りは、どうなったと思う? 魔法使い達が2つに分裂したのは、鎖国終了前じゃない。もっと前だ」

 屈託のない笑顔で話すヒスイに、望は鬼気迫るものを感じた。

「…何なんすか?」

 望と皇介は戦士として緊張した。裏腹にキキョウは煙草を吸い、シオンは頬杖をついていた。

 リラックスムードのヒスイは答えた。

「紫分の話、書いたの俺とキキョウさんのひいおじいなんだ」

「え…兄弟なんすか?」

 望は2人を交互に見た。目が大きめのヒスイと、少し細くて垂れ目のキキョウ。
 似てるか?

 キキョウは笑った。

「従兄弟だよ。俺の父ちゃんとヒスイの母ちゃんが兄妹。似てる?」

「ひいおじいは紫分の子孫だ。つまり…」

 望と皇介の背に悪寒が走る。ヒスイはニヤリと笑う。

「陽炎だ」

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