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チキン・ヒーロー

立秋

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「就任おめでとー」

 望と皇介が言って真姫へ拍手してくれた。未琴と龍哉も手を叩いてくれた。

 真姫は敬意を表し会釈した。

「ありがとうございます」


 勉強会と称し、金田兄妹宅に集まっていた。


    皇介が尋ねる。

「次のライブはいつ?」

「あんたが補習受けてる時かしらね?」

「ひでぇ!」

 一学期の成績がいまいちだった皇介は笑った。真姫は望に言った。

「そう言えばピンチだったって?」

「まあ、でもそこまででは無いよ」

 敷地内には居ないのは、真姫も確認済み。でも未だ追跡中。
 未琴が口を開く。

「じゃあ、勉強始めよっか!」

 ところが皆が出したのは、勉強道具では無く携帯電話。

 戸惑う真姫に、未琴は唇の前で人差し指を立て、液晶画面を見せた。キャリアメールの作成画面だ。

『ここからはコレで!!』

 望はあの時の紙片を宿題プリントの入ったファイルから取り出し(隠し持っていたのか)、画面を見せつつ話す。

「読書感想文用に借りてきた」

『学校の図書室から持って来た』

 通常の手続きだと借りた記録が残る。良くないけど、無断で持って来たのだろう。

 CDショップの袋から『赤守大公と五人の忍』『水将軍赤守氏』の2冊を出した。

「さすが文芸部ね」

 不自然にならぬよう、真姫も口を開いた。

 本はこの2冊だけなのだろうか。
 望が口を開く。

「『2冊』しかないから、適当に読んで感想文書こうよ、芥川龍之介は」

 龍哉も話した。

「こっちはプリントやってるから、真姫さん先に読んでて」

 真姫は『水将軍』の本を手に取った。先に望達が読んでいたらしく、水色の付箋が所々に貼ってある。
 真姫は早速、付箋の箇所を開いてみた。


【 後世では『水将軍』と名高い赤守氏だが、治水経験は全く無かった。そこで治水について学ぶべく、各地の治水した川を巡り、知識や技術を身につけていった。
    その過程で赤守氏は紫分しぶタイジロウなる人物と出会った。
 紫分は針生川流域より南の山間部に住み、製鉄を営む大男だった。赤守氏は黒田友泉ゆうせんや紫分を筆頭に、多数の人間を集め、治水工事を進めていった。】


 黒田友泉は教科書に載るほどではないが、地元では知名度のある赤守氏の家臣だ。
     現在の曇天地区に住み、武芸を磨き、戦では勇敢に戦ったという。糸遊の先祖ではないかと憶測される人物だ。
 紫分タイジロウの名は初めて聞いた。


【 治水が大成功し、赤守氏は工事に携わった部下達へ俸禄を分け与えた。外敵に晒される事が無い、地の利にも富んだ霧の山々だった。
 移り住み暫くして、紫分が元の地へ戻りたいと申し出た。霧の山々の地は、鉄が精製出来ないのだという。
 そこで、紫分は旧地へ戻り、黒田らは残りそれぞれ暮らす事となった。
 黒田には霧の山々が合ったのか、その後めきめきと武芸を上達させ、赤守氏を助けるようになった。】


 霧の山々とは曇天の事だろうか。確かに、製鉄文化の話は聞かない。次の付箋部を開いた。


【 幕府が成立した年、赤守氏をある事件が襲った。紫分による謀反が起きたのだ。】


 一般的な歴史書でも、赤守氏を巡る暗殺未遂や謀反について書かれたものがある。
    それには紫分の名は無く、赤守氏に不満を抱いた農民や部下、と記載されていた。


【 霧の山々には鉄は取れないが、不思議な湧き水があり、その水を飲むと超人的な力が身につくと信じられたのだ。
    真偽は定かでないが、黒田が短期間で武芸を上達させた事から、紫分はその力を手にしたいと考えたのだろう。
 製鉄で作った武器で武装し、赤守氏の警護を担当していた黒田を急襲し、亡き者にした後あわよくば赤守氏も…、との動きがあった。
    だが、企みに気づいた赤守氏が、紫分一門を鎮圧し未遂に終わった。】


 湧き水は確かに多いけど、超人的な力をつける水、ねぇ…。


【 しかし一部に残る史料によると、黒田が紫分に攻め込まれそうになったのではなく、共謀し赤守氏を狙ったのではないかと考えられるのだ。
    討つ前に企みがばれたので、罪を紫分に被せたのでは、と。
 黒田の現存する手記において、急襲未遂前と思われる時期に『愚かなる大男』『裁きを受けるべき』と紫分との仲違いを彷彿する記述が見られるのだ。
    因みに黒田は急襲未遂以降、歴史の表舞台に立つ事も無く、赤守氏に仕え天寿を全うした。】


 2人で悪巧みして、バレたら片方に罪をなするのは、よく聞く話だ。
 以降はその本に紫分や黒田の話が載ってないらしく、真姫は本を閉じた。

 次はもう1冊の『五人の忍』を読む事にした。


 こっちは少し荒唐無稽な内容だった。


【 赤守氏は忍で、隠密として霧島氏に仕えていた。治水工事も諜報活動中に知り合った治水のプロと手を組み、成し遂げたとされる。
    赤守氏の仕切る忍の一族はかなりの大所帯で、役割分担があった。戦闘担当の『くろの者』、諜報担当『の者』と『木の者』、製鉄担当『あいの者』、農耕担当『非の者』に分かれていた。
 土地を霧島氏から贈られ、一族で切り拓いて住み始めたが、製鉄に向かず『相の者』が元の地へ戻った。
    その後、『相の者』が武器を作らせるだけで見返りが少ないと訴え、業務放棄するようになった。
 その為、『相の者』を秘密裏に皆殺しにし、あらかじめ目をかけていた別の地の製鉄の者達を引き入れようと、赤守氏が動きだした。】


 相の者に紫分、玄の者に黒田が居るのだろうか?この本でその二者は同じ一族となっている。


【 ところが『相の者』は贈られた領土を狙う者と手を組み、攻められる前に先手を討つべく侵攻した。
    だが、時を同じくして芙蓉ふよう山江戸の大噴火が発生し撤退。大規模な被害を一帯にもたらした為、赤守氏も『相の者』の処刑を諦める事となった。】


 江戸の大噴火は教科書にも載っている、有名な史実だ。曇天の神様の話はこの時期に出来たのだろう。
 次の付箋部を開く。


【 現在、赤守氏がかつて治めていた地は『赤守市』という名がついている。忍の里は当時の一大機密だった事から、市内の何処にも忍の話は伝わっていない。
    恐らく、平和な世の中になり、隠密の必要も無くなった事から、子孫に忍の技術や知識を伝授しなくなったのだろう。
    いつしか子孫たちも自分の先祖が忍である事も知らぬまま、時代が移り変わっていったのだ。
 だが唯一の痕跡として、市内には色のつく名字の人が多く住み、一部だが色のつく地名も存在する。
    明治以降の名字の取得緩和に合わせて、『玄の者』は黒木、玄田など、『知の者』は白井、塩原など、『非の者』は赤間、緋山など、『木の者』は金田など、『相の者』は青島などのように名乗るようになったと考えられる。】


 確かに、色の名前のつく地名や名字の人が多いのは事実だし、疑問だった。そういう事だったのか。

    こっちの本は他にも面白そうな話が(創作に近い話も含め)載っていた。時間が許すなら全て読みたいが、付箋のついた箇所だけにした。
    

    読み終えた真姫に皇介が尋ねた。

「お、どうだった?」

「なかなか面白かったわよ」

 真姫は言いつつ打ち込んだ携帯画面を見せた。

『集落、7つの色つくけど、忍者が元なら5つでしょ?あと2つは一体何処から来たんだろね?』

 皇介が画面を見せる。

『混ざったんじゃね?』

 絵具じゃあるまいし。真姫は文字を打ち込んだ。

『紫分タイジロウ、初めて聞いた。赤守氏の伝記に出てないよね?』

 望が画面を見せる。

『赤沼が見せてきた本とか、他の伝記や市史にも、紫の話は無かった。』

 龍哉が文字を打つ。

『紫はタブーなのかも』

 その言葉に、一同は顔を見合わせた。

 まさか。

 未琴が画面を見せる。

『でもアイの者、追い出されたのに青のつく名字いっぱいいるよね』

 曇天民なら、黒・白の次に青が多い。龍哉が文字を打つ。

『アイ=青なら少ないはずだよね。この本の作り話かな』

 真姫が本の奥付を確認しようとすると、望が笑って言った。

「お、さすが目の付け所が違いますね」

 2冊の出版元は違うが、著者は同じ『凪原靖等なぎはらやすひと』。近場では聞かない名字だ。

    望が口を開く。

「この人の他の本、もっと探したいんだよね」

 真姫は首を横に振った。


 すごく、嫌な予感がしたのだ。

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