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チキン・ヒーロー
芒種-2
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曇天地区、黄鐘集落の南西端に月虹山と言う山がある。
伝説にある、糸遊に力を与えた神々の降りた地であり、この国で1番美しい山を形成する山脈の端に位置する、海抜は800足らずの低い山だ。
月虹山(曇天自体が少し標高があるので、小高い丘、といった印象)の中腹に小さな社の『月虹神社』がある。
本殿のこじんまりした造りに対し、同じ敷地にある社務所は立派な上に、異様なオーラさえ感じる。
その異様さは気の迷いではない。なぜならばそこは、魔法使いのブタの総本部なのだから。
「はい! 皆さん。集まってくれてありがとう」
赤沼はいつもの愛想笑いで、集まった面々へ言った。
「今日は選抜に向けての顔合わせと説明、そして準七とは一体何なのかを説明したいと思います。では最初に、良く知ってる者同士だけど、自己紹介をお願いします。
まず白井くんから!」
1人で謎の拍手をしつつ、指されたのは真姫の左隣に座る少年だ。
「菫集落の白井です。よろしくお願いします」
真姫の2つ上の男子。普段は大人しいが、戦闘ではスイッチが入り好戦的になると聞く。
「朱夏集落の御影です」
形式だが、真姫も口を開いた。
「季白集落の緋村です」
真姫の1つ上の女子。気が強く、何かと真姫をライバル視してきた(小学生の頃の話だが)。
「小桜集落の雪島です」
真姫と同級生の男子。能力に偏りが無く全体的に高め。兄貴分みたいな気質。
「黄鐘集落の根白です」
真姫の1つ上の学年の男子。先の雪島の再従兄であり、戦闘エリート家系の生まれでもある。
「はい! どうぞよろしく~」
至極楽しそうな赤沼と対称的に、少年少女達はフラットだった。
赤沼は手を擦り合わせる。
「さて、7月の最終土曜と日曜に選考会を行ないます。戦略戦時対応に関する筆記試験を土曜、模擬実戦を日曜にします。
筆記に必要な教本は、これから配布します。そして、実技は指定日に地下を開放して訓練をします」
曇天地下には広大な鍾乳洞がある。一般人や学者には勿論知られてない、魔法使いのブタ達の秘密の場所だ。
『雷帝壕』と呼ばれ、有事の際の避難場所や、定期演習で使われる。
「今回、準七に合格するのは3名で2名落選となります。ですが、その2名は次回の選抜で優先的に候補に上がります」
準七は満16歳~30代後半の年代で構成される。死亡及び後遺症の残る怪我や疾病での欠番もあるが、大体は妊娠や遠隔地への移住(結婚や就職)での欠番が殆どだ。
歳若い近隣在住者で組織してる。
「準七になった場合、2日以上地域を離れる場合や、日帰りでも30キロ以上移動する場合は、中央会への事前報告が必要です。
まあ、これから学校・職場での旅行や研修でその機会があるかもしれませんので、必ずお願いします。
準七の地区待機人数が3分の2未満である34人を切る場合、事前報告してても移動を取りやめてもらう事があります」
陽炎は、どこで糸遊の動きを伺っているか判らない。戦力が少ない時に攻めてくるかもしれない。
「学校や企業での用事の人を優先して、個人的用事、家族旅行などの人に移動を止めてもらいます。
また、状況によっては学校や企業絡みの人も対象となるので、了承願います」
余談だが、準七になると幾つかの地元企業への就職に有利だ。
糸遊が経営者だと率先して雇用してくれたり、任務時には休暇を割り当ててくれたりと便宜を図ってくれて、仕事と任務との両立を支援してくれるらしい。
圧力を感じる慣習である。
赤城は皆の顔を見て話し続ける。
「任務についてですが、ほぼ戦闘に加わると考えて下さい。皆さん判ってると思いますが、原則任務内容は例え家族に対しても秘密厳守です。
話すなどして漏洩した場合は、相応の懲罰を受けてもらいます」
真姫が自転車で帰ろうとすると、呼び止められた。
「真姫ちゃん、途中まで一緒にどう?」
先の女子:緋村芽衣だ。真姫が答えるより先に芽衣が言ってきた。
「ちょっと、嫌そうな顔しないでよ。いいでしょ?」
「…いいですよ」
芽衣の家までは7,8分くらい。まあ我慢。
「真姫ちゃん候補になると思ったんだよね~。強いし~。去年も準七じゃないのに参加したんでしょ? 赤城さんと一緒に」
ほら、始まった。
「そうですね」
「素晴らしい働きだったんだって? 尊敬しちゃう」
芽衣のバッグから、電子音が鳴り響く。芽衣は携帯を取り出し通話を始めた。
「もっしもーし!! ああ、ごめーん。芽衣の住んでる所、山の中だから電波悪くってー」
それはそれは蜂蜜の様な甘い声で芽衣は喋り続ける。
一緒に帰ろの意味…。
ひとしきり喋って電話を終えた芽衣は真姫へ言った。
「恋愛と準七の両立って大変よね。真姫ちゃんは同じ地元の人が相手だからいいけど、ウチの場合はパンピだからぁ。
今の内に言い訳考えておかないとね」
芽衣も、真姫と赤城がデキてると思ってるクチらしい。
最近は面倒になったので、訊かれても否定するのをやめた。
祖母ですら、本当に交際してると思ってるようだ。
世代のせいか女は早く嫁いでなんぼ、とも考えていて『更に強い子が生まれるなら、赤城は結婚相手として申し分ない』とか言われた。
「そうですね」
「ね! こんな事訊くのなんだけど、どんなデートしてるの?」
幼稚な男子か。
「想像に任せます」
「えー、教えてよぉ。どこまでいってんの? ねぇねぇ」
出ました十八番。標的の情報を引き出し、言いふらし、潰す。
余計な事は発信しないのが、一番。
「選抜に向けての調査が始まってるかもしれません。なので秘密です」
「…あ、そういう事。そうですかぁ」
いきなり、芽衣は引き下がり態度を変えた。
「七神衆の女はそれだけで心証良いものね~」
芽衣は捨てセリフを吐くと、そのまま真姫を置いて足早に行ってしまった。
あら。あの人、小学生の頃から変わらないのね。真姫は少し笑った。
伝説にある、糸遊に力を与えた神々の降りた地であり、この国で1番美しい山を形成する山脈の端に位置する、海抜は800足らずの低い山だ。
月虹山(曇天自体が少し標高があるので、小高い丘、といった印象)の中腹に小さな社の『月虹神社』がある。
本殿のこじんまりした造りに対し、同じ敷地にある社務所は立派な上に、異様なオーラさえ感じる。
その異様さは気の迷いではない。なぜならばそこは、魔法使いのブタの総本部なのだから。
「はい! 皆さん。集まってくれてありがとう」
赤沼はいつもの愛想笑いで、集まった面々へ言った。
「今日は選抜に向けての顔合わせと説明、そして準七とは一体何なのかを説明したいと思います。では最初に、良く知ってる者同士だけど、自己紹介をお願いします。
まず白井くんから!」
1人で謎の拍手をしつつ、指されたのは真姫の左隣に座る少年だ。
「菫集落の白井です。よろしくお願いします」
真姫の2つ上の男子。普段は大人しいが、戦闘ではスイッチが入り好戦的になると聞く。
「朱夏集落の御影です」
形式だが、真姫も口を開いた。
「季白集落の緋村です」
真姫の1つ上の女子。気が強く、何かと真姫をライバル視してきた(小学生の頃の話だが)。
「小桜集落の雪島です」
真姫と同級生の男子。能力に偏りが無く全体的に高め。兄貴分みたいな気質。
「黄鐘集落の根白です」
真姫の1つ上の学年の男子。先の雪島の再従兄であり、戦闘エリート家系の生まれでもある。
「はい! どうぞよろしく~」
至極楽しそうな赤沼と対称的に、少年少女達はフラットだった。
赤沼は手を擦り合わせる。
「さて、7月の最終土曜と日曜に選考会を行ないます。戦略戦時対応に関する筆記試験を土曜、模擬実戦を日曜にします。
筆記に必要な教本は、これから配布します。そして、実技は指定日に地下を開放して訓練をします」
曇天地下には広大な鍾乳洞がある。一般人や学者には勿論知られてない、魔法使いのブタ達の秘密の場所だ。
『雷帝壕』と呼ばれ、有事の際の避難場所や、定期演習で使われる。
「今回、準七に合格するのは3名で2名落選となります。ですが、その2名は次回の選抜で優先的に候補に上がります」
準七は満16歳~30代後半の年代で構成される。死亡及び後遺症の残る怪我や疾病での欠番もあるが、大体は妊娠や遠隔地への移住(結婚や就職)での欠番が殆どだ。
歳若い近隣在住者で組織してる。
「準七になった場合、2日以上地域を離れる場合や、日帰りでも30キロ以上移動する場合は、中央会への事前報告が必要です。
まあ、これから学校・職場での旅行や研修でその機会があるかもしれませんので、必ずお願いします。
準七の地区待機人数が3分の2未満である34人を切る場合、事前報告してても移動を取りやめてもらう事があります」
陽炎は、どこで糸遊の動きを伺っているか判らない。戦力が少ない時に攻めてくるかもしれない。
「学校や企業での用事の人を優先して、個人的用事、家族旅行などの人に移動を止めてもらいます。
また、状況によっては学校や企業絡みの人も対象となるので、了承願います」
余談だが、準七になると幾つかの地元企業への就職に有利だ。
糸遊が経営者だと率先して雇用してくれたり、任務時には休暇を割り当ててくれたりと便宜を図ってくれて、仕事と任務との両立を支援してくれるらしい。
圧力を感じる慣習である。
赤城は皆の顔を見て話し続ける。
「任務についてですが、ほぼ戦闘に加わると考えて下さい。皆さん判ってると思いますが、原則任務内容は例え家族に対しても秘密厳守です。
話すなどして漏洩した場合は、相応の懲罰を受けてもらいます」
真姫が自転車で帰ろうとすると、呼び止められた。
「真姫ちゃん、途中まで一緒にどう?」
先の女子:緋村芽衣だ。真姫が答えるより先に芽衣が言ってきた。
「ちょっと、嫌そうな顔しないでよ。いいでしょ?」
「…いいですよ」
芽衣の家までは7,8分くらい。まあ我慢。
「真姫ちゃん候補になると思ったんだよね~。強いし~。去年も準七じゃないのに参加したんでしょ? 赤城さんと一緒に」
ほら、始まった。
「そうですね」
「素晴らしい働きだったんだって? 尊敬しちゃう」
芽衣のバッグから、電子音が鳴り響く。芽衣は携帯を取り出し通話を始めた。
「もっしもーし!! ああ、ごめーん。芽衣の住んでる所、山の中だから電波悪くってー」
それはそれは蜂蜜の様な甘い声で芽衣は喋り続ける。
一緒に帰ろの意味…。
ひとしきり喋って電話を終えた芽衣は真姫へ言った。
「恋愛と準七の両立って大変よね。真姫ちゃんは同じ地元の人が相手だからいいけど、ウチの場合はパンピだからぁ。
今の内に言い訳考えておかないとね」
芽衣も、真姫と赤城がデキてると思ってるクチらしい。
最近は面倒になったので、訊かれても否定するのをやめた。
祖母ですら、本当に交際してると思ってるようだ。
世代のせいか女は早く嫁いでなんぼ、とも考えていて『更に強い子が生まれるなら、赤城は結婚相手として申し分ない』とか言われた。
「そうですね」
「ね! こんな事訊くのなんだけど、どんなデートしてるの?」
幼稚な男子か。
「想像に任せます」
「えー、教えてよぉ。どこまでいってんの? ねぇねぇ」
出ました十八番。標的の情報を引き出し、言いふらし、潰す。
余計な事は発信しないのが、一番。
「選抜に向けての調査が始まってるかもしれません。なので秘密です」
「…あ、そういう事。そうですかぁ」
いきなり、芽衣は引き下がり態度を変えた。
「七神衆の女はそれだけで心証良いものね~」
芽衣は捨てセリフを吐くと、そのまま真姫を置いて足早に行ってしまった。
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