【完結】僕たちのアオハルは血のにおい ~クラウディ・ヘヴン〜 

羽瀬川璃紗

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カーニバル・クラッシュ

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 電源を入れると、仮想現実が広がっていた。



 主人公は、とある先進国家の片田舎に生きる15歳男性。好きな名前を付けたら、ゲームスタート。

    主人公は『曇天どんてん』という村(霧が多いのでその名がついた)の、年若い戦士の端くれだ。    
 そこは豊かな水の産地なので、外敵に狙われ絶えず争いがあった。そこで、主人公の先祖達は武装し武芸を磨き、土地を守り住み続けていたという。

 ある時、近くの火山が大噴火した。かねてから曇天を狙っていた敵が、天災の混乱に乗じ攻めてきて、先祖達は絶体絶命のピンチに陥った。

    その時、曇天のある地点が山の様に伸びて7人の神様が(七福神ではない)降臨、敵を一掃した。
 実はこの地は聖なる地で、そこを守る人間の窮地に登場したというわけ。

 神様は《引き続き守り続けてね、力を授けとくから》と魔法を先祖達に与え、天に戻った。それから、先祖達は魔法を用いて外敵から守り続けた。

    人々は先祖達を『糸遊いとゆう』と呼び、力は代々受け継がれていったという。

 そして主人公の生まれる130年くらい前、この先進国家内で紛争が起きた。
 長く他国と交流が無かったけど、このままでいいのか、『封鎖継続』派と『交流解禁』派がモメた。

    劣勢になった『封鎖』派が『糸遊』に目をつけ唆し、乗っちゃった人を勢力に加えた。
 乗っちゃった一部の『糸遊』を『陽炎かげろう』と呼んだ。

 事態を重く見た『解禁』派は残りの『糸遊』と手を組み、収拾を図った。
 結果、封鎖&陽炎勢力は破れ、解禁派が新政府となった。

    解禁派は『糸遊』が魔法使いである事を隠し、でも手厚い援助をして、隙あらば襲ってくる『陽炎』残党の取り締まりを依頼している。


 時は流れ、主人公が5歳の時。陽炎の奇襲があった。何とか糸遊は陽炎を叩きのめしたが、父はその時に帰らぬ人となった。

 ゲームの舞台はそれから10年後。何が主人公を待ち受け、どんな未来が待っているのか…


「望」

 羽黒望はぐろのぞむの思考は名前を呼ばれた事により、途切れた。

    望は、名を呼んできた親友で幼馴染の金田皇介かねだこうすけを見やった。

「目ぇ開けたまま寝てんのかと思ったぜ」

「まあね。邪魔すんなよ」

 今は1学期の終業式で、校長の有難い説教中である。望は暇を持て余し、冒頭の妄想を繰り広げていたのだ。

    座ったまま前方の望の方へ(小柄なので前から4番目)移動して、皇介はジト目をした。

「明日から夏休み。でも夏休みがこんなに重く、のしかかって来た事は無いぜ」

 望と皇介は中学3年生、受験生だ。皇介は続けた。

「いいか? 家にいるだけで親から『受験生なんだから勉強しなさい』って毎日言われるんだ。たかが2,3日の試験の為に、半年以上も前から。おかしな話だと思わないか?」

「ねえ、皇介」

「結局受験生でなくても勉強しろって…」

「皇介…!」

 皇介の後ろには、静かに怒っている担任教諭が居た。だから教えたのに、と望は苦笑した。

 教諭は青筋を立てつつ、満面の笑みで促した。

「前に居るトモダチのとこ行くなんて、小学生すらやってないよ? 戻ろう?」

 皇介は謝罪しつつ、早急に退散した。


    生徒指導も兼ねている担任は、生徒間でも怖がられている。

 曇天地区に1校しかないこの中学は、1学年30~40人(1学級しかないのでクラス替え無し)。プールや特別教室等の一部施設や行事は、併設される小学校と合同であり、この終業式も小学校と一緒に行なっている。

 皇介を見届けると、ある女生徒と目が合った。同じく幼馴染の御影真姫みかげまきだ。
 露骨に面倒くさそうな顔して、目を逸らされた。美人なのに可愛くない奴である。  

    少し前まで望の方が背が高かったのに、今は同じくらいで(勿論女子の中では1番背が高い)『これ以上伸びたくない』とか贅沢な事を言っていたっけ。

 長い割に内容を秒で忘れてしまう校長の話が終わると、望は伸びをして皆と一緒に立ち上がった。



「お前、気づいてたんならもっと早く言えよ‼」

「言ったし! 言ったのに俺に被せて喋ってたんだよ」

 帰り道、自業自得なのに皇介に絡まれた。皇介は溜息を吐きつつ言った。

「あーあ、通知表見せたくねえ。休み明けのテスト次第で塾行くかが決まるしなあ」

「大変だな。勉強すれば?」

「んな簡単に…。お前は頭良いからいいよな」

 成績は望が中の上くらいで、皇介は頑張っても揮わない下の中といった感じだ。

「別に頭良かないし。テストの問題の出る傾向を読むの得意なだけだよ。山田と小泉はプリント、佐藤は問題集メインじゃん? 直前に目を通しておけば良し」

「…ホント望は要領イイよな。ムカつくわ!」

「あははは」


 緩いカーブを抜けた先に、1人の女子生徒が歩いていた。それを見た2人は顔を見合わすと、足音を消し早足で近づいてからかおうとした。が、

「…何なの」

 女生徒:真姫は怠そうに振り返った。皇介は舌打ちした。

「うわ可愛くねえ」

「あんた達にカワイイ言われた日には、槍が降るわよ」

 真姫が皇介を睨むと望は尋ねた。

「真姫も今日の係分担のやつ呼ばれてるよな? 何時だっけ?」

「5時よ」


 毎年8月16日に、曇天地区で夏祭りがある。運営は地区にある7集落の内の1つが中心となり、小中学校の校庭で開催する。
    廻って来るのは7年に1度だが、いざ来ると中学生以上の人間はほぼ全員、無給で雑用をする事になる。
 今年は望らの集落が当番なのだ。


「面倒くせえな、ゴミ拾いか夜店の手伝いか」

「サボれないもんね、親も近所もうるさいし。ゴミ拾いなら、今から集まる必要あんの?」

 望の言葉に、真姫が静かに返す。

「…ゴミ拾いじゃないみたいよ」

「へえ? 何か知って…」

 皇介は途中で口を閉ざした。望と真姫も『気配』を感じ、周囲を見渡した。
 田んぼ脇にある雑木林を見つつ、望は肩のスポーツバッグを道路へ下ろした。

「あれ? 久しぶりに『お客さん』じゃね?」

 枝の折れる音と共に、何かが3人の所へ飛び込んで来た。
 3人はそれぞれ伏せたり側転で避けると、そこには中型犬ほどのサイズの、コオロギの様な異形の生物が居た。
    
    1番近くに居た皇介が、空中から『斧』を取り出し振るう。

「おりゃあ!」

 大きな『コオロギ』は跳んで攻撃を避け、望へ襲い掛かる。
    望は空中から取り出した『両刃の薙刀』で鋭い爪を弾く。金属の様な音。

「あっぶね…!」

 『コオロギ』は地面へ着地。更に跳ぼうとした瞬間、白い霧が包み込む。

「バカね」

 真姫は『コオロギ』へ向けていた右手を下ろし、呟いた。

「先に動きを止めなくちゃ」

 凍てついた『コオロギ』へ近づくと、真姫は『鎖鎌』で粉砕した。

   そう。これが俺達『糸遊』の日常だ。



 物心ついた時には戦い方を教えられていた。自分の身は自分で守る、生き延びたければ強くなれを合言葉に、俺達は育った。


    先程の生物は陽炎の放った刺客の1つだ。元は同胞と言え、陽炎は完全な敵。
 政府にとっても陽炎は実権争いの相手であり、現在においても反乱分子という事で、『国民』として認めていない。


 4年前、ある省庁の爆破未遂があった。

 犯人は一般人2名と陽炎1名。一般人は刑法で裁かれ共犯の陽炎の記憶を消され(糸遊はそういう魔法も使う。皆じゃなく限られた人が政府からの要請で)、陽炎は存在を表沙汰にされる事無く秘密裏に処刑された。

    民籍みんせき(国民である公簿)を持たずむしろ認めない陽炎は、ヒトではなくブタと同等。有害だから消せ、というスタンスなのだ。


 望の父:羽黒賢介はぐろけんすけは10年前、38人の陽炎による『平成大奇襲』で命を落とした。
 けれども、公には台風による地滑りで死んだ事になっている。

    それはこの現代に、魔法使い同士の血を血で洗う抗争があると白日の下に晒されては、この国の秩序はめちゃめちゃ、諸外国からも相手にされなくなるからだ。

    政府は『糸遊』『陽炎』の存在を国家機密として扱い、一般人や諸外国へ情報操作をしている。


 当時5歳の望は、あの時の事を断片的にしか覚えていない。道路脇に臥した、陽炎とおぼしき男の死体。庭先のコンクリート塀に付着した、赤黒い血痕…。
    5日間の激戦の末に、賢介を含め24人の同胞の犠牲者を出し、襲撃してきた陽炎を鎮圧した。


 たまに望は考える。糸遊と陽炎の違いは、政府に認められているか否かだけ。
 疑問はあるけど、異議を唱える程では無い。

   それに自身を含めてだが、こんな血生臭い日常で、この地の人々はよく気が狂わないものだ。
    それとも、この身体の中を流れる血のせいで狂わないのだろうか。

 この血を憎んだ事は無いが、疑問には思うのである。

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