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女の素顔

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 私はのっぺらぼうだった。

 厳密には、父がのっぺらぼうで母が人間の『ハーフなので目だけ無いのっぺらぼう』だ。
 暮らす世界は人間と妖怪が共存しているが、両者にはどうしても相容れられない『溝』の様なものが存在していて、それぞれ同族とつるむ事が多かった。

 ある時、同じクラスの妖怪族の女子から『合コン』の誘いがあった。

「相手は人間の男子なんだけど、妖怪女子に偏見無いみたいよ。むしろ会って話してみたいんだってさ」

 私は、二つ返事で誘いを受け入れた。

 当日。気合を入れて『目を書き込んだ』私は、待ち合わせ場所でギョッとした。
 リーダー格である人魚女子が連れて来たのは、『妖術』により催眠状態に陥ってる、大学生くらいの男子5名。男子は虚ろな目で、左右に揺れながら直立している。

「ど~も~。国立A大に通うキムラくん達でーす。実家が金持ちらしいから、今日は好き勝手にこの子のお金で飲み食いしよ!」

「わーい!! ゴチでーす」

 私以外の女子は何回もしている手口なのか、慣れた様子。私は酷く焦った。

(一般の人間への妖術の使用は勿論、妖術を用いての催眠は禁止されてるのに…!)
「…ねえ、ちょっと」

「何?」

 私は隣に居た三つ目女子に、小声で話しかける。

「こういう集まりだなんて、聞いてないよ」

「うるさいなぁ、嫌なら帰れば?」

「でも…」

「人間の肩持って、良い子ちゃんかよ。これだからハーフは嫌なんだよ」

(こういう輩が居るから、『ヘイト』が起こるんだよ。…そうだ)
 ムッとしたがすぐ笑顔を作り、私はそれならばと皆に提案した。

「だったら私、あそこの店行きたい。創作ピザとスイーツが美味しくて有名なんだって」


 飲食店に一同と共に入った私は、通された個室からトイレへと向かった。

(私はハーフだから、人への犯罪行為に目を瞑れないんじゃない)

 途中で店名の書かれた紙マッチを見つけると、2,3個拝借した。

(正義感と倫理観に溢れているから、こうするだけよ)

 個室に入った私はブーツを履いた足のまま、便座の上に乗って立ち上がった。

(マーメイドちゃんは水属性。妖術は、同じ属性のものがかかると無効化される。そして普段隠してる鱗も出てきちゃう)

 不安定な姿勢のまま、私は計10本の紙マッチを開封。

(顔は可愛いのに、心が醜いよね。それが妖怪女子だなんて思われたら、たまったもんじゃないわ)

 マッチを擦り点火させると、天井にある火災報知器へ炎を近づけた。

(起きなさい、男子達。妖怪女子も人間女子も、顔じゃなく心の綺麗さで選ぶのよ)

 至近距離で、耳をつんざく非常ベル。噴水が降り注ぎ、40分掛けて仕上げた『目』が消えてゆくのを感じたが、私は残った口だけで笑った。
 うん、ウォータープルーフ製品で描けば良かった。

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