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向こう側
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私は、高校生になっていた。
「ねえ、本当に都子って知り合いなの?」
訝し気な顔で尋ねたのは、クラスメイトでありカースト上位女子のマドカ。私は頷いた。
「うん」
「従兄って言ってたけど、本気のマジ?」
疑いの目で見てきたのは、同じくカースト上位女子のエイミ。私は無言のまま、ある写真を見せる。
「左の赤ちゃんが私。右の男の子がタイシ。本物の従兄だよ」
2人はまじまじと写真を見入る。
「…マジっぽくね? こないだのシングルのジャケ、子供の頃の写真使ってたけど、まんまじゃん」
「確かにぽいね。つか、血の繋がりあるって普通にビックリなんだけど」
「うん。よく言われる」
マドカとエイミとカースト下位女子の私は、ひょんな事から人気バンドのライブに行く事になった。2人が大好きなバンドのボーカルは、私の従兄だったのだ。
親族用に『関係者パス』を発行してくれるので、それを利用し私は大ファンである2人を伴った。
到着したライブ会場の関係者出入口。首から下げたパスを係員に見せると、すんなりと中へ入れた。エイミは小声で喚く。
『すごい、マジで行ける⁈』
すれ違うスタッフに私が会釈すると、それに倣って2人も会釈するのが、何とも微笑ましい。私は2人へ言った。
「リハーサルあるから、あまり話せないと思うけど…」
「うん、大丈夫」
「ファンだもん。それぐらいわきまえてるよ」
私達は開演前のステージ脇へ。スポットライトの色がコロコロ変わるなか、マドカがあるものを発見する。
『あ…タイシ!…タイシが居る!!』
タイシは、ステージでスタッフと話し込んでいる。別のスタッフがタイシに何やら囁くと、彼はこちらへやってきた。
抱き合って立ち竦む2人を見て、タイシは私に声をかける。
「お、来てたのか。都子の友達?」
「うん、タイ兄のファンなんだって」
「そうなんだ、こんちわ」
タイシが笑いかけると、2人は抱き合って飛び上がった。
「あ、こんにちは…」
「今日は楽しんで行ってね、最高のライブにするから」
「は、はぁい…」
タイシが去ると、2人は半泣きで座り込んだ。
「ヤバい…、めっちゃかっこよかった…」
「マジで嬉しい…。ありがとう、都子…」
私が満足気な笑みを浮かべると、突然辺りは漆黒の闇に覆われる。
「え、何?」
「何も見えないんだけど⁈」
私は丸いコンパクトミラーを閉じ、再度開いた。中の鏡には、正面に居る私ではなく、黒い空間に佇むマドカとエイミが映っている。
「…可哀想に」
私は、暗闇の中で怯えて喚く2人を見て呟いた。
「でも仕方ないよね。チケット代欲しさに、この鏡を盗んだりするからだよ」
私の声も姿も、彼女達には届かない。
「じゃあ、さようなら」
鏡から彼女達の姿は消え、いつも通り私の顔が映し出された。私の鏡は、特別製だった。
悪意を持って触れた者を異界に飛ばし、帰還の方法は私さえも知らない。私が出来るのは、最期に優しい幻影を見せる事だけなのだ。
「ねえ、本当に都子って知り合いなの?」
訝し気な顔で尋ねたのは、クラスメイトでありカースト上位女子のマドカ。私は頷いた。
「うん」
「従兄って言ってたけど、本気のマジ?」
疑いの目で見てきたのは、同じくカースト上位女子のエイミ。私は無言のまま、ある写真を見せる。
「左の赤ちゃんが私。右の男の子がタイシ。本物の従兄だよ」
2人はまじまじと写真を見入る。
「…マジっぽくね? こないだのシングルのジャケ、子供の頃の写真使ってたけど、まんまじゃん」
「確かにぽいね。つか、血の繋がりあるって普通にビックリなんだけど」
「うん。よく言われる」
マドカとエイミとカースト下位女子の私は、ひょんな事から人気バンドのライブに行く事になった。2人が大好きなバンドのボーカルは、私の従兄だったのだ。
親族用に『関係者パス』を発行してくれるので、それを利用し私は大ファンである2人を伴った。
到着したライブ会場の関係者出入口。首から下げたパスを係員に見せると、すんなりと中へ入れた。エイミは小声で喚く。
『すごい、マジで行ける⁈』
すれ違うスタッフに私が会釈すると、それに倣って2人も会釈するのが、何とも微笑ましい。私は2人へ言った。
「リハーサルあるから、あまり話せないと思うけど…」
「うん、大丈夫」
「ファンだもん。それぐらいわきまえてるよ」
私達は開演前のステージ脇へ。スポットライトの色がコロコロ変わるなか、マドカがあるものを発見する。
『あ…タイシ!…タイシが居る!!』
タイシは、ステージでスタッフと話し込んでいる。別のスタッフがタイシに何やら囁くと、彼はこちらへやってきた。
抱き合って立ち竦む2人を見て、タイシは私に声をかける。
「お、来てたのか。都子の友達?」
「うん、タイ兄のファンなんだって」
「そうなんだ、こんちわ」
タイシが笑いかけると、2人は抱き合って飛び上がった。
「あ、こんにちは…」
「今日は楽しんで行ってね、最高のライブにするから」
「は、はぁい…」
タイシが去ると、2人は半泣きで座り込んだ。
「ヤバい…、めっちゃかっこよかった…」
「マジで嬉しい…。ありがとう、都子…」
私が満足気な笑みを浮かべると、突然辺りは漆黒の闇に覆われる。
「え、何?」
「何も見えないんだけど⁈」
私は丸いコンパクトミラーを閉じ、再度開いた。中の鏡には、正面に居る私ではなく、黒い空間に佇むマドカとエイミが映っている。
「…可哀想に」
私は、暗闇の中で怯えて喚く2人を見て呟いた。
「でも仕方ないよね。チケット代欲しさに、この鏡を盗んだりするからだよ」
私の声も姿も、彼女達には届かない。
「じゃあ、さようなら」
鏡から彼女達の姿は消え、いつも通り私の顔が映し出された。私の鏡は、特別製だった。
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