漆黒の夜は極彩色の夢を 〜夢日記ショート·ショート~

羽瀬川璃紗

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黒と炎 ※犯罪行為表現あり

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 私は、以前働いていた職場に招集され、働く事になっていた。

(はあ。何が悲しくて、見切りをつけた職場でまた働かないといけないのさ!)

 急に金が必要になった私に、『人員不足で困っている。時給を上乗せするので、是非単発で入って欲しい』と連絡をよこしたのは、元同僚だった。

(3日間だけの約束だけど、多分引き留め行為があるだろうから、注意しないと)

 辞めた時、しつこい引き留めに遭った私は、警戒して仕事にあたった。


 私の知っている人など誰も居ない(ブラックだからすぐ辞める)職場で、ある考えが頭をよぎった。

(明日で終わりだけど、また引き留めあるだろうなぁ。…そうか。ここ、潰せばいいんだ)

 製品の原材料に薬品を混入させる。出荷すれば会社の信用はガタ落ち、小さな会社だからすぐ終わるだろう。

(そうすりゃ、もうここに呼ばれないで済む!!)

 翌日。私は『作戦』のための薬剤を隠し持ち、資材庫へ向かった。見つかると厄介なので、持ち出した社員用の作業着を着て向かうと、閉めてある筈の資材庫の入り口が開いていた。人の声もする。

「ココね。この袋に入っているのは、この会社の主要商品の原料なんだ。で、今からこれにこの塗料を混ぜまーす。そしたら、これ全部台無しになるよ! この会社ジエンド!!」

 ピエロの覆面を被った男が、自撮りスマホへふざけたトークをしている。

「…水性じゃダメだよ」

 私が思わず声を掛けると、男は飛び上がった。私は付けていたマスクを直すと、説明を続けた。

「水性だと、A液入れるから中和されるんだ。混ぜるならこっち使いなよ」

『え、なにこれ見つかった感じ?』
『オワタ!通報されるじゃん!はいアウト~』

 男のスマホから、視聴者と思われる声が聞こえてくる。

「生配信中? やるなら徹底的にやりなよ。ホラ」

 私が薬剤を手渡すと、覆面男は呆けた声を上げる。

「え、何で」

「私もココを潰したい」

 すると、もう1人誰かが来た。さっきまで一緒に働いていた中年の男だ。中年の男は、私と覆面男を見て立ち竦む。

「あ…」

 男も私と同じで、以前ここで働いていて辞めたのに、しつこく誘われて来たと言っていた。その手には私のと同じ薬品があり、私と覆面男は思わず吹き出す。

「何だ、みんな同じなのね」

「…はーい! イッツショータイム!!」

 薬剤2本が資材に投入された。私は笑った。

「どうかしてるよ、この会社。こんな短期間に3人も、復讐目的の人間が集まるって」

「狂ってる♪狂ってる♪」

 覆面男は妙な歌を口ずさむ。中年男もニヤニヤした。

「終わりの始まりってな」


 ブラックな会社は、これから炎上する。何色の炎が上がるか、非常に楽しみだ。

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