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再会 ※子供の行方不明表現あり

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 私は、どこか異国の田舎町で、夫と饅頭屋を切り盛りしていた。


 特に豊かでも無ければ、せわしくも無い、これと言って特徴も無い小さな町だ。だが、この町には1つ問題があった。

「この、盗人ガキが!!」

 向かいの八百屋から小汚い浮浪児が、瓜を片手に逃げていく。いつの頃からかこの町には、どこからか辿り着いた孤児の少年が、住み着いていた。

「その昔、流れ者が疫病を持って来て、町の人口が半分になった事もあったらしいぞ。だからこの町は流れ者を毛嫌いするんだ」

「やあねえ、早く捕まえて役人に引き渡しましょうよ」

 常連客は世間話でそう言っていた。

 ある時、裏庭でニワトリに餌をやっていると、家の壁に悪戯書きをしている、例の浮浪児に出くわした。

「『バーカ、バーカ、くそババア』か。あんた、文字書けるんだね」

 鼻先で笑って見せると、浮浪児は驚愕の表情の後、こう言った。

「…お前、日本人か?」

 私は笑ってみせる。

「お前のこと、知ってるよ。サカイノリハルだろ? A小の6年」

「何…で?」

 浮浪児:ノリハルは逃げる事すら忘れ、私に尋ねてくる。

「覚えてる? お前に賞状破られた! まあ、覚えちゃいないだろうね!」

 私は笑いながら続ける。

「…お前の母ちゃん、全校集会で泣いてたよ。『どうかノリハルの小さな情報でもいいから、教えて下さい』だって」

 ノリハルは震えつつ、言った。

「教えろ、どうやったら帰れる?」

「…あんた、あたしや皆に何したか分かってるの? そんな態度で、誰が教えてやると思ってるの?」

 ノリハルは目に涙を溜めて怒鳴った。

「いいから教えろ! 調子乗ってんじゃねえ!!」

「ねえ、盗人ここに居るよ! 捕まえて!」

 私は答えを教えずに、夫を大声で呼んだ。


 ノリハルは、周囲の誰もが手を焼く悪ガキだった。下級生や、強く物を言えない子ばかり標的に苛めていた。
 私は初めて作文コンクールで入賞し貰った賞状を、ノリハルに破かれた。


(可哀想に。ノリハル、何処に行ったんだろうと思ったら、こんな場所に転移してたんだ)

 ノリハルが居なくなった時、捜索や情報提供を積極的に行う人は、あまり居なかった。それは、彼の身から出た錆だ。

(ずっと、言葉の通じないこの地で盗み食いして、生き延びていたんだね)

 大人3人がかりで捕まえられたノリハルは、大暴れする。

(そりゃあ、急に日本語読める人居たら、びっくりするよね。でも運が悪かった)

 ノリハルは、泣きながら私の方を見やるが、私は嘲笑をやめない。

(私は偶然、夢でこの人に繋がっただけだから、ノリハルを帰還させる方法は知らないんだもん)

(それに、お前の母さんは3年前にもう死んでて、帰るとこはどこにもないんだよ)

(行方不明から30年かあ。そもそもこの世界、現実世界なのか、異世界なのか、私にも分からないや。お前もどうしてその姿のままなんだろうね?)


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