漆黒の夜は極彩色の夢を 〜夢日記ショート·ショート~

羽瀬川璃紗

文字の大きさ
上 下
96 / 117

再会 ※子供の行方不明表現あり

しおりを挟む
 私は、どこか異国の田舎町で、夫と饅頭屋を切り盛りしていた。


 特に豊かでも無ければ、せわしくも無い、これと言って特徴も無い小さな町だ。だが、この町には1つ問題があった。

「この、盗人ガキが!!」

 向かいの八百屋から小汚い浮浪児が、瓜を片手に逃げていく。いつの頃からかこの町には、どこからか辿り着いた孤児の少年が、住み着いていた。

「その昔、流れ者が疫病を持って来て、町の人口が半分になった事もあったらしいぞ。だからこの町は流れ者を毛嫌いするんだ」

「やあねえ、早く捕まえて役人に引き渡しましょうよ」

 常連客は世間話でそう言っていた。

 ある時、裏庭でニワトリに餌をやっていると、家の壁に悪戯書きをしている、例の浮浪児に出くわした。

「『バーカ、バーカ、くそババア』か。あんた、文字書けるんだね」

 鼻先で笑って見せると、浮浪児は驚愕の表情の後、こう言った。

「…お前、日本人か?」

 私は笑ってみせる。

「お前のこと、知ってるよ。サカイノリハルだろ? A小の6年」

「何…で?」

 浮浪児:ノリハルは逃げる事すら忘れ、私に尋ねてくる。

「覚えてる? お前に賞状破られた! まあ、覚えちゃいないだろうね!」

 私は笑いながら続ける。

「…お前の母ちゃん、全校集会で泣いてたよ。『どうかノリハルの小さな情報でもいいから、教えて下さい』だって」

 ノリハルは震えつつ、言った。

「教えろ、どうやったら帰れる?」

「…あんた、あたしや皆に何したか分かってるの? そんな態度で、誰が教えてやると思ってるの?」

 ノリハルは目に涙を溜めて怒鳴った。

「いいから教えろ! 調子乗ってんじゃねえ!!」

「ねえ、盗人ここに居るよ! 捕まえて!」

 私は答えを教えずに、夫を大声で呼んだ。


 ノリハルは、周囲の誰もが手を焼く悪ガキだった。下級生や、強く物を言えない子ばかり標的に苛めていた。
 私は初めて作文コンクールで入賞し貰った賞状を、ノリハルに破かれた。


(可哀想に。ノリハル、何処に行ったんだろうと思ったら、こんな場所に転移してたんだ)

 ノリハルが居なくなった時、捜索や情報提供を積極的に行う人は、あまり居なかった。それは、彼の身から出た錆だ。

(ずっと、言葉の通じないこの地で盗み食いして、生き延びていたんだね)

 大人3人がかりで捕まえられたノリハルは、大暴れする。

(そりゃあ、急に日本語読める人居たら、びっくりするよね。でも運が悪かった)

 ノリハルは、泣きながら私の方を見やるが、私は嘲笑をやめない。

(私は偶然、夢でこの人に繋がっただけだから、ノリハルを帰還させる方法は知らないんだもん)

(それに、お前の母さんは3年前にもう死んでて、帰るとこはどこにもないんだよ)

(行方不明から30年かあ。そもそもこの世界、現実世界なのか、異世界なのか、私にも分からないや。お前もどうしてその姿のままなんだろうね?)


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

処理中です...