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カトウ ※犯罪行為表現あり
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私は、ある男を待っていた。
23時過ぎのとある閉店した店舗前。道の向こうから、色あせたピンク色の髪をした、今風の若い男が歩いてくる。
私が待っていたのは、この男だ。
男は歩みを止めると、口を開いた。
「ミヤコさん…、ですか?」
「はい。カトウマナトさんですか? お待ちしていました」
『カトウ』は笑って、軽く会釈した。私も笑顔で言った。
「では、早速行きましょう」
この男は、俗に言う『人をレンタルするサービス会社』の人間である。
『レンタル人間屋カトウ』は、どちらかと言うと『レンタル恋人』に近い事をしていて、やって来る人間は全て『カトウ』から始まる源氏名を名乗る。
私が最低限の身だしなみしかしてないので、彼は不思議に思っているのだろう。
私は軽口を叩いた。
「呼び出したのがオバサンだから、今日はハズレだね!」
「いえいえ。ゴテゴテしてない身綺麗な人で、逆に俺はホッとしてますよ」
着いたのは、入り組んだ所にある隠れ家的なバー。客は私達2人だけ。私は奥の席に向かい合わせに座り、バーテンダーにおすすめを頼むすると、彼に切り出した。
「今日は『お酒を楽しみつつお喋り』で注文したんだけど、実は私、ウェブライターをしててね。『人間レンタル業』をしている人に、なぜこの仕事を始めたのか、とかインタビューさせてほしかったの」
名刺を渡すと、彼は『ほう?』と言いたげな表情で手にした。
「構いませんけど、別に面白そうな話は無いっすよ?」
「ええ、いいのよ。話したくない話は言って貰えれば、聞かないから」
バーテンダーの持ってきた酒を片手に、私はカトウにインタビューを始めた。彼はどこにでもいる普通の青年だった。ひとしきり話を聞いた後で、私はこう切り出した。
「『デート依頼』、何歳代が多いかな?」
「俺の場合は30~40代の人が多いですね。所帯じみたおばさんばっかり」
「…珍しく綺麗な年上の人居たら、覚えてる?」
「まあ…ね」
カトウはまんざらでもない表情だった。私が1枚の写真を取り出して置くと、カトウの動きが止まる。
「2カ月前、あなたが接客した人。…覚えてるよね、動画隠し撮りして何回も脅していたんだもの」
「…いやいや、人違いですよ。俺はそんなこと…」
だがカトウは息が荒く、大量の汗をかき始めた。私は言った。
「さっきの酒、薬を混ぜていたの。心臓、バクバクして気持ち悪いの、そのせいだよ」
カトウは震え始めた。私とグルのバーテンダーは、カウンターの向こうでただ腕組みして見てるだけだ。
「解毒薬持ってるけど、あげるのには条件がある。…この契約書にサインして」
私は1枚の紙を差し出した。
「金が欲しいんでしょ? たかが主婦脅して、金を巻き上げるより、効率よく大金稼げるよ」
「お、俺に危ない仕事しろと…?」
「死ぬのと仕事するのと、どっちいい? 選ばせてあげる」
私は笑って言った。
私は犯罪組織の幹部だった。『いけない事をしている小悪党』を脅し、逃れられない犯罪の片棒を担がせる。
比較的軽犯罪だったとしても、この手の人間は、犯罪が露呈する事を極度に恐れる。
私はそうやって人材を集めている。面白いほど人材は集まる。
(おばさん舐めちゃあ、いけないよ。若造)
23時過ぎのとある閉店した店舗前。道の向こうから、色あせたピンク色の髪をした、今風の若い男が歩いてくる。
私が待っていたのは、この男だ。
男は歩みを止めると、口を開いた。
「ミヤコさん…、ですか?」
「はい。カトウマナトさんですか? お待ちしていました」
『カトウ』は笑って、軽く会釈した。私も笑顔で言った。
「では、早速行きましょう」
この男は、俗に言う『人をレンタルするサービス会社』の人間である。
『レンタル人間屋カトウ』は、どちらかと言うと『レンタル恋人』に近い事をしていて、やって来る人間は全て『カトウ』から始まる源氏名を名乗る。
私が最低限の身だしなみしかしてないので、彼は不思議に思っているのだろう。
私は軽口を叩いた。
「呼び出したのがオバサンだから、今日はハズレだね!」
「いえいえ。ゴテゴテしてない身綺麗な人で、逆に俺はホッとしてますよ」
着いたのは、入り組んだ所にある隠れ家的なバー。客は私達2人だけ。私は奥の席に向かい合わせに座り、バーテンダーにおすすめを頼むすると、彼に切り出した。
「今日は『お酒を楽しみつつお喋り』で注文したんだけど、実は私、ウェブライターをしててね。『人間レンタル業』をしている人に、なぜこの仕事を始めたのか、とかインタビューさせてほしかったの」
名刺を渡すと、彼は『ほう?』と言いたげな表情で手にした。
「構いませんけど、別に面白そうな話は無いっすよ?」
「ええ、いいのよ。話したくない話は言って貰えれば、聞かないから」
バーテンダーの持ってきた酒を片手に、私はカトウにインタビューを始めた。彼はどこにでもいる普通の青年だった。ひとしきり話を聞いた後で、私はこう切り出した。
「『デート依頼』、何歳代が多いかな?」
「俺の場合は30~40代の人が多いですね。所帯じみたおばさんばっかり」
「…珍しく綺麗な年上の人居たら、覚えてる?」
「まあ…ね」
カトウはまんざらでもない表情だった。私が1枚の写真を取り出して置くと、カトウの動きが止まる。
「2カ月前、あなたが接客した人。…覚えてるよね、動画隠し撮りして何回も脅していたんだもの」
「…いやいや、人違いですよ。俺はそんなこと…」
だがカトウは息が荒く、大量の汗をかき始めた。私は言った。
「さっきの酒、薬を混ぜていたの。心臓、バクバクして気持ち悪いの、そのせいだよ」
カトウは震え始めた。私とグルのバーテンダーは、カウンターの向こうでただ腕組みして見てるだけだ。
「解毒薬持ってるけど、あげるのには条件がある。…この契約書にサインして」
私は1枚の紙を差し出した。
「金が欲しいんでしょ? たかが主婦脅して、金を巻き上げるより、効率よく大金稼げるよ」
「お、俺に危ない仕事しろと…?」
「死ぬのと仕事するのと、どっちいい? 選ばせてあげる」
私は笑って言った。
私は犯罪組織の幹部だった。『いけない事をしている小悪党』を脅し、逃れられない犯罪の片棒を担がせる。
比較的軽犯罪だったとしても、この手の人間は、犯罪が露呈する事を極度に恐れる。
私はそうやって人材を集めている。面白いほど人材は集まる。
(おばさん舐めちゃあ、いけないよ。若造)
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