漆黒の夜は極彩色の夢を 〜夢日記ショート·ショート~

羽瀬川璃紗

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仮面 ※犯罪行為表現あり

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 私はウキウキ気分で夜道を歩いていた。

(やった!やってやった!!)


 話はふた月ほど前に遡る。自宅向かいに新しくコンビニが出来た。目の前なので便利だし、よく通う事になった。

 ある時、たまたま夜半近くに利用した際、見覚えのある客が居た。何年も前に働いていた職場の先輩だ。

(あれ、マチダ先輩?人違いかな?)

 その職場は結婚する何年も前に辞めたので、マチダは勿論、私がコンビニ向かいに現在住んでいるとは、夢にも思ってないだろう。

(あの人、この界隈住んでいたっけ?)

 気になった私は、当時の同僚にそれとなく聞いてみた。

「こないだ、ちょっとコンビニ行ったらマチダ先輩見かけたんだ。あの人って○○方面に住んでいたっけ?」

『あ~、懐かしい。そうだよ、△△川の花火大会がよく見えるって言ってたし、○○方面だね確か』

 通話を終わらせた私は、ほくそ笑んだ。
(そうか。知らずに近所に嫁いだのね、あたし)

 在職中、イジメを受けた事のある私は、報復を思いついた。

 それから私は、徹底的にマチダの行動パターンを分析した。

(夜10時上がりの日は、帰宅途中でこのコンビニに寄って、夜食を車の中で食べてから帰るのね…。車は、駐車場の一番端にいつも停めてるみたい)

 私は自室クローゼットの箱から、ある物を取り出す。
 実家に帰省した際に、母から『娘ちゃんの玩具に』と、私が小学生の頃に縁日で買ったアニメキャラのお面を貰ったのだ。

(美少女戦士のお面、制服好きなマチダにはお似合いだ)

 私はそして、行動を決行に移す。


 星もない夜、いつもの様に車内で夜食を食べるマチダの元へ、音も無く美少女戦士のお面を付けた私が近づく。
 手にはハンマー、男物の真っ黒いジャンパーを身に着けた私は、勢いよくハンマーをフロントガラスに叩きつける。

 ハンマーの角が当たったせいで、ガラスは一撃で白くひび割れた。イモビライザーがけたたましく鳴るも、私は破壊行為をやめない。
 サイドミラーを蹴って折り、ボンネットに飛び乗り、メチャメチャに踏み荒らす。

 車内のマチダは、悲鳴さえも上げられない程に怯えきっていた。

(わあ、愉快!どうだ、お前の好きな制服キャラに蹂躙されるのは!!)

 私は襲撃から10秒足らずで逃亡した。そして、話は冒頭へ戻る。


 何となく、パソコンでインターネット辞書の美少女戦士の欄を調べてから、眠りについた。

 翌日、テレビでは『美少女戦士のお面姿の襲撃者』のニュースをやっていた。

(わざと遠回りして帰ったし、途中で上着と靴も履き替えたから、特定は時間かかるだろうな)

 私は犯行当時のお面や衣服、靴をゴミ袋に入れ、ゴミ集積所へ出した。

 娘を寝かしつけた後、ふと思い立って『美少女戦士マンガ愛好家の匿名掲示板』をスマホで覗いた私は、ある記述に目が留まった。

『星に代わって車をボコボコにするの楽しすぎ!!』

 投稿時刻は昨夜、私が帰宅して15分後くらいだ。

(偶然?その割に何でこんなに合致しているの?)

 その後、案の定事件の一報を聞いた他の人間らが、続々と投稿していた。

『あの投稿、何?』
『車破壊事件の時間帯だよね?』
『犯人のカキコミ?』

 私は勿論、投稿をした覚えは無い。掲示板内では特定をしようとする動きが始まった。

(落ち着け。私は投稿していない。私に繋がる証拠はネット上に無い)

 困惑した私はパソコンを取り出すと、使用履歴を確認した。

 そこには、私がネット辞書を閲覧した後、匿名掲示板にアクセスした痕跡があった。

(何で?私はしていないのに…?)
 頭をよぎったのは、夫だ。

『どうしたの?こんな時間まで起きてて』
『びっくりした。うん、ちょっと小説書いてて…』
『いつもリビングでやるのに、こっちで?』
『うん、気分転換に』

 マチダの観察をしているさなか、夫に見つかり話しかけられた事があった。

(まさか、見られてた?)

 でも、こんなすぐ特定されそうな事をするだろうか?私が捕まれば、夫にも不利益が生じる。

(それとも、捕まって欲しいからわざと…?)

 私は、ある事を思い出す。

『ツバサくんは、元カレとか気にする?』

 何回目かのデートの時だ。私の問いに夫は困った様に笑う。

『気になっても聞かないよ。いい事なんて無いじゃん』

(…疑われたのか?)

 玄関のドアが開いた音。夫が、帰って来た。

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