漆黒の夜は極彩色の夢を 〜夢日記ショート·ショート~

羽瀬川璃紗

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918 ※ホラー表現?あり

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 私は、休日に1人で街中にいた。

 呼び止められ振り返ると、そこには前職で同期だったトモカが居た。私は正直嫌だな、と思った。

「でしょ? だよねー、都子じゃん。しばらくだったね、元気だった?」

「…ああ、まあ」

 私はトモカが苦手だった。いつも多弁で強引で、相手を顧みない。トモカは笑顔だ。

「今日休み? だよねー、そんなカッコで仕事行くワケないよね! ねえねえ、お茶しよ? そこのカフェ、ケーキ美味しいから一緒に行こ!」

 彼女は以前と全然変わらぬ強引さで、話を進める。

「ごめん、用事あるから」

「用事って何? もしかして彼氏? まさかね!」

 トモカは私を追って付いて来る。

(うわあ、最悪の休日だよ…)

「都子、今は何の仕事してるの? 平日休みって事は、サービス業?」

 今の私は前と違い、対処能力もある。私は質問を返した。

「トモカちゃんはあの会社に居るの? 部署は変わった?」

「転職したよ! もう2年になるかな、A県に居るの。出張でこっち来てて、そこのビジホ泊ってる」

 トモカはバッグから、番号の書かれた細長いプラ板のついた鍵を取り出し、得意げに見せた。
 
 すると、私のスマホに着信があった。現職場の上司だ。所用で掛けて不在だったので、その折り返しだ。乗らない手は無い。

「あ、ごめーん。取引先から電話来ちゃった。出ていい? 即レスしないと面倒くさい相手なんだ」

「へー、大変だね。じゃあ後で」

 私は大急ぎで場を離れ、電話を取った。通話自体はすぐに終わったが。

(これに乗じて退散しよう。今日は残念だけど)

 トモカの姿が無いのを確認しつつ、地下鉄に向かうと、見知らぬ番号からの着信があった。

(…まさか)

『あ、都子?良かった、番号変えてなかったんだね!』

 電話の主はトモカだ。私はゲッソリして口を開く。

「何、どうしたの? こっちまだ電話する用事あるんだけど」

『ごめんごめん、怒らないで。都子ってマツムラちゃんと仲良かったよね?』

 トモカは、同じく同期で現友人の名を口にした。何故彼女が出て来るのだろう。

「何でいきなりマツムラちゃん?」

『都子と別れてすぐそこで会ってさぁ。今一緒なんだぁ』

 私は絶句した。押しの弱い彼女はトモカとの相性が最悪で、一緒に仕事を組まされたのがきっかけで、体調を崩し転職をしたのだ。

(嘘でしょ?!よりによって捕まったの?)

「一緒なの?」

『そうだよ!カフェでコーヒーとケーキをテイクアウトしたから、今からビジホの部屋に戻って、積もる話をする予定~』

 私は愕然とした。彼女を助けなくては。

「ちょっと待って、こっちの用事やっつけるから、私も参加させてよ! ずるいじゃん、2人だけだなんて!」

『勿論! だから電話したんだよ。待ってるよ、ヴェール・サンの918だから!』

 トモカは先程見せた部屋番号を言い、電話を切った。

(マツムラちゃん大丈夫かな…?どうやって連れ出そう)

 ビジネスホテルの場所を調べつつ、私は必死に考えていた。
 酒を持ち込みいっぱい飲ませるか。マツムラと共通の知り合いを呼び、大人数で部屋に向かうとか…。

 試しにマツムラに電話をしたが、電話に出なかった。マシンガントークに捕まっているのだろう。


 程なくビジネスホテルに到着し、私はトモカに電話した。

「もしもし、今着いたんだけど」

『OK!9階だから』

 ところが、エレベーターは5階までしか無い。

「え、9階無いよ」

『5階まで行って、乗り換えて』

 言われた通りに5階まで乗り、降りた。

『ビリヤード台のある廊下の向こうに、9階までのあるから』

 ビリヤード台とスロットゲーム機の脇を通った時、通話が途切れてしまった。スマホが一瞬だけ圏外になってしまった様だ。

(それにしても暗いホテルだな。変な間取りだし。元はホテルじゃない何かの物件だったのかな)

 エレベーターホールに着き、ふと壁を見るとホテルの見取り図があった。何となく眺めた私は、ある事に気づいた。

 見取り図にある、客室と思われる小部屋は、10室しか無いのだ。

(トモカ、918って言ってたよね?普通に考えて9階の客室なら、『9』始まりだし。他の階や棟に分散してるとか?)

 試しに5階の廊下を行くも、501~510までの10室しか存在して居ない。

(908の間違いだった?でもトモカ『918』って…)

 急なの着信音に驚きつつ見ると、それはマツムラだった。

『もしもし、着信あったけど』

「マツムラちゃん大丈夫? トモカと一緒なんでしょ?」

『え?トモカって前の職場で一緒だった?』

 私はそこで違和感を感じた。マツムラは続けた。

『いま、仕事の休憩時間でさ。あの子がどうしたの?』

(もしかして…、トモカは一緒だと嘘を言った?)

 電話をしつつ先のエレベーターホールに戻ると、9階からエレベーターの箱が、ゆっくり降りてくる。
 背筋がゾッとした。

(ボタン押してない。誰か乗ってる…)

 マツムラは言った。

『そう言えばトモカの噂、前に聞いたよ』

 私は慌てて、別のエレベーターホールに向かった。

『A県に引っ越して、失踪したとか』

「失踪?」

 私はビリヤード台の脇を駆ける。

『うん。お金欲しさに、変な仕事始め…』

 通話は、圏外になって途切れてしまった。

(そう言えば…)

 2年前に、トモカから妙なメールが届いた事があった。


【今どうしてる?あたしはいま○○に居るよ。暇してる方は集合~!】


 思い出せない。あれはどこの地名だったのか。…地名だったのか?

 向こうのエレベーターが到着した、甲高い音が遠くから聞こえた。こっちのエレベーターは、まだ3階に居る。

 スマホに着信が表示された。番号は、トモカのだ。

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