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下層の晴れ舞台 ※犯罪行為・流血表現あり
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私は高校1年生になっていた。
演劇部の私は、劇の練習をしていた。
演目は、有名な明治時代の文豪の短編戯曲。それに高校生らしいアレンジと編集を加え、文化祭の前夜祭で公演する。
ストーリーはある青年将校と名家の令嬢の悲恋。それぞれ許嫁の居る2人は、舞踏会で出会い惹かれ合う。
逢瀬を重ねるが、令嬢は青年に別れを告げ、自分の婚約発表パーティーに招待し、恋を終わらせる。
だがパーティー中に、軍のクーデターが発生。騒ぎの中、青年は令嬢を庇い、凶弾に倒れる…、と言ったものだ。
同じ1年の男子部員:テツユキと私は、小道具係と兼務でエキストラの役も与えられた。
田舎の高校のしがない演劇部だ。学校のスクールカースト上位者が野球部やサッカー部などの花形部員に対し、演劇部員は中の下もしくは半分より下位。
下位の者が虚勢を張る存在は、更にそれよりも下位の者になる。
そのため演劇部は上下関係がかなり厳しく、唯一の男子であるテツユキは、先輩方からの『可愛がり』の当たりがきつかった。
「ねえそこの1年男子さあ、何か一発芸やって!」
「何だよ、面白くねえじゃん。表現力ねえのに入部すんなよ」
公演を明日に控えたある日、テツユキから話を持ち掛けられた。
「引退を控えた先輩にドッキリを仕掛けたい。協力してくれ」
私はクーデターの瞬間、初っ端に撃たれて死ぬエキストラ令嬢、テツユキは凶弾を発射する犯人役である。
「何するの? 最低でも顧問や部長には許可取らないと、面倒な事になるよ?」
「勿論。やりたいのは血糊を使って、撃たれた時に血を流す」
テツユキなりに、通しリハの時に『リアリティが足らない』『脇役でも本気でやれ』と言われ腹が立ったのだろう。
私も普段『搾取』される側なので、二つ返事でテツユキの案に乗る事にした。
迎えた当日。ボチボチの客入りの中、公演は始まった。順調に劇が進行し、私達の出番。
『ああ、カヤコさん。何てお美しいお姿なのだ! 僕がその隣に居ないなんて、何て残酷なのだ!!』
スポットライトを浴びた先輩のセリフの後、テツユキは銃を構える。私はその時、違和感を感じた。
(練習の時と銃、違くない?)
《ズガン!!》
思いのほか大きな音がして、銃が発射された。
一瞬、耳がキーンとしたものの、私は打ち合わせ通りに掌に忍ばせた血糊のパックを破りつつ、胸を押さえ倒れ伏す。
きっと先輩達は、台本に無い血を見て驚いているだろう。様子を見たかったが演技のため、私は目を閉じ転がった。ところが。
《ズガン!! ズガン!! ズガン!!》
鼓膜の破れる様な発砲音の連続と沢山の悲鳴、逃げ惑う足音、独特な煙の臭い。異変を感じ目を開けると、舞台には血塗れで倒れる先輩達の姿があった。
(え?何で倒れる予定の無い先輩も倒れてるの?)
テツユキは、舞台袖の顧問や客席に向けて発砲を続けていた。
ドッキリではなく、『リアル』が舞台上で繰り広げられていた。
「テツユキ?」
幕を下ろそうとした別の教師が、撃たれて倒れた。テツユキは新しい弾を込める。私は叫んだ。
「テツユキ!!」
テツユキはこっちを見ると、何時ものように笑って自らのこめかみに銃を当てがった。
「…やってみたかったんだよ、ずっと」
私は知らない内に、ずっと『怪物』と一緒に過ごしていたのか。
それとも、彼の中の『怪物』が目覚めてしまったのか。
演劇部の私は、劇の練習をしていた。
演目は、有名な明治時代の文豪の短編戯曲。それに高校生らしいアレンジと編集を加え、文化祭の前夜祭で公演する。
ストーリーはある青年将校と名家の令嬢の悲恋。それぞれ許嫁の居る2人は、舞踏会で出会い惹かれ合う。
逢瀬を重ねるが、令嬢は青年に別れを告げ、自分の婚約発表パーティーに招待し、恋を終わらせる。
だがパーティー中に、軍のクーデターが発生。騒ぎの中、青年は令嬢を庇い、凶弾に倒れる…、と言ったものだ。
同じ1年の男子部員:テツユキと私は、小道具係と兼務でエキストラの役も与えられた。
田舎の高校のしがない演劇部だ。学校のスクールカースト上位者が野球部やサッカー部などの花形部員に対し、演劇部員は中の下もしくは半分より下位。
下位の者が虚勢を張る存在は、更にそれよりも下位の者になる。
そのため演劇部は上下関係がかなり厳しく、唯一の男子であるテツユキは、先輩方からの『可愛がり』の当たりがきつかった。
「ねえそこの1年男子さあ、何か一発芸やって!」
「何だよ、面白くねえじゃん。表現力ねえのに入部すんなよ」
公演を明日に控えたある日、テツユキから話を持ち掛けられた。
「引退を控えた先輩にドッキリを仕掛けたい。協力してくれ」
私はクーデターの瞬間、初っ端に撃たれて死ぬエキストラ令嬢、テツユキは凶弾を発射する犯人役である。
「何するの? 最低でも顧問や部長には許可取らないと、面倒な事になるよ?」
「勿論。やりたいのは血糊を使って、撃たれた時に血を流す」
テツユキなりに、通しリハの時に『リアリティが足らない』『脇役でも本気でやれ』と言われ腹が立ったのだろう。
私も普段『搾取』される側なので、二つ返事でテツユキの案に乗る事にした。
迎えた当日。ボチボチの客入りの中、公演は始まった。順調に劇が進行し、私達の出番。
『ああ、カヤコさん。何てお美しいお姿なのだ! 僕がその隣に居ないなんて、何て残酷なのだ!!』
スポットライトを浴びた先輩のセリフの後、テツユキは銃を構える。私はその時、違和感を感じた。
(練習の時と銃、違くない?)
《ズガン!!》
思いのほか大きな音がして、銃が発射された。
一瞬、耳がキーンとしたものの、私は打ち合わせ通りに掌に忍ばせた血糊のパックを破りつつ、胸を押さえ倒れ伏す。
きっと先輩達は、台本に無い血を見て驚いているだろう。様子を見たかったが演技のため、私は目を閉じ転がった。ところが。
《ズガン!! ズガン!! ズガン!!》
鼓膜の破れる様な発砲音の連続と沢山の悲鳴、逃げ惑う足音、独特な煙の臭い。異変を感じ目を開けると、舞台には血塗れで倒れる先輩達の姿があった。
(え?何で倒れる予定の無い先輩も倒れてるの?)
テツユキは、舞台袖の顧問や客席に向けて発砲を続けていた。
ドッキリではなく、『リアル』が舞台上で繰り広げられていた。
「テツユキ?」
幕を下ろそうとした別の教師が、撃たれて倒れた。テツユキは新しい弾を込める。私は叫んだ。
「テツユキ!!」
テツユキはこっちを見ると、何時ものように笑って自らのこめかみに銃を当てがった。
「…やってみたかったんだよ、ずっと」
私は知らない内に、ずっと『怪物』と一緒に過ごしていたのか。
それとも、彼の中の『怪物』が目覚めてしまったのか。
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