漆黒の夜は極彩色の夢を 〜夢日記ショート·ショート~

羽瀬川璃紗

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炎上 ※特定の職業に対する差別的表現あり

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 私は高校生になっていた。


 通っている高校は、私が入学した年に、進学系と技術系の2校が合併した。
 そのせいか、校内では教師による派閥が存在した。

 合併前に進学系にいた教師は『手に職つけないとならない人達』と、技術系だった教師は『計算と理論だけの連中』などと、教師だけでなく所属する生徒へも揶揄しあっていた。


 ある時、私は職員室に行った際に、担任教師が入れ墨の専門誌を読んでいるのに出くわした。

「先生、そういうのに興味があるんですか?」

「いや、授業の一環でね。成人年齢引き下げにあたって、『契約』関係の授業をするからさ」


 そして行われた授業に、私は驚愕した。

 授業では、確かに『未成年と成人の契約』についてやったのだが、それ以上に非常に強い偏執的な表現があったのだ。


 確かに、入れ墨は『反社会的』とか『ダーティ』なイメージがある。

 だが一部地域では炭鉱夫や漁師など危険な仕事をする人が、事故発生時の身元証明の為に、名前や血液型を彫る風習もある。

 諸外国では先住民族などが、自らのホロコーストを示す為に入れるケースも存在するので、『入れ墨お断り』の銭湯が、外国人観光客から『多様化の現代にそぐわない』との声が上がった事もあったのだが。


(教師の手製のプリントで『彫る人はキ○ガイ』とか『先の事や周りを考えない海の男ふぜい』とはっきり明記か…。これ、高校の授業で配布するのどうなの?)

 授業後は、やはり生徒間でも賛否が上がった。

「水産科の生徒、親が漁業関係者多いから、該当する親御さんいるって噂だよ」

「あの先生、進学系の派閥だから、技術系をディスる為に敢えてこういう授業したんじゃないの?」


 私はSNSを開くと、プリントの画像を乗せて呟いた。
『今日の授業。成人の契約の話→入れ墨ヘイト→漁師ディスりの授業へ変化。先生の嫌いな漁師って、みんな墨入れてる前提?』
 タグには『教師の派閥抗争』『くだらん終わりにしろ』と入れた。


 翌日、学校は大騒ぎになった。漁業関係者だけでなくその他の父兄、そしてテレビ局までもが詰めかけていた。

 私があげた文章は拡散され、外国にももたらされ、世界的にホットな話題になったようだ。

 件の担任は自宅待機になったが、同じ学校の誰かがご丁寧にも、担任の身元が分かる文章を載せ、自宅を突き止められるのは時間の問題らしい。

 そこで学校側は急遽会見で、釈明と謝罪をする事にした。


 私は級友と共に、タブレット端末でニュース番組の生中継を教室で見る事にした。落ち込んだ担任が、登壇する。

「昨日、あんなにイキイキとディスってたのにね。カワイソ~」

「しゃあないよ。調子のったから」

 ところが画面外から駆け寄った何者かが、担任を刺した。悲鳴とどよめきが上がる。私達も、息をのんだ。

「…あいつ、イシイじゃね?」

 それは紛れもない、先日学校を自主退学した元級友だった。何かと要領の悪いイシイは、担任からイジメに近いイジリを受けていた。
 『お前、こんな事も出来ねえなら、水産科か畜産科へ行けよ』と言われ、ずっと学校を休んでいたのだ。

「イシイ、とうとうやったんだな…」

 呟くが早いか、謎の破裂音が響いた。外を見ると、中庭を挟んで向かいにある家庭科室から煙が上がっている。

「何なん?」

「ガス漏れ?」

 家庭科室から飛び出した生徒は、理科室へ走り去る。すると、理科室で爆発が起き、窓ガラスが粉々に砕け散った。

「あいつら学校壊す気か?」

 教師達の派閥争いに翻弄された生徒の怒りが、文字通り爆発したのだ。イシイの犯行を合図に、校内の色んな場所で騒ぎが発生した。

(ああ、どうしよう)

 私は途方に暮れた。

(教師の下らない派閥争いを、どうにかしたかっただけなのに…)

 ふと見た自分のSNS。いいねの数は、見た事の無い桁になっていた。

(偏見に満ちた思想を、批判したかっただけなのに…)

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