漆黒の夜は極彩色の夢を 〜夢日記ショート·ショート～

バチェラー

　テレビを点けると、変な2時間ドラマが放送されていた。 

　ある所に、青年実業家：Aが居た。彼は友達以上恋人未満の女性3名を、自慢のクルーザー船へ招待し、南国リゾートの海上でディナークルーズを開催した。 

　Aの経営する会社の広報部門エリートのA子、経営傘下のアパレルブランドの専属モデルのB美、相談役であり経営コンサルタントのC恵ら3名は共に才色兼備で『Aのパートナーに選ばれるべく』、水面下で争っていた。 

　出港しばらくして悪天候となり、港へ引き返したがクルーザー船は故障した。操縦不能となり、一同はそのまま海上を漂流する羽目に陥った。 

　悪天候の為、救助を要請するも一向に到着しない。ジェットコースターの様に荒波にもまれ、岩礁地帯に乗り上げ、船は座礁した。 

　座礁が原因で、船の通信機器は破壊された。Aと操縦士、そして3人の女達は途方にくれた。 

　翌々日。天候が回復したため、Aは救助を呼びに行く事を提案する。
　備え付けの救命ボートにトランシーバだけ積むと、Aは操縦士と2人で乗り込み出発。女達は僅かな食料と水を手に、待つ事となった。 

　当然だが争いが頻発した。食料の奪い合い。お前なんか居なければ！と罵倒。来なきゃよかったと後悔…。
　更に2日経っても、助けは来なかった。 

　その頃、南国の某国の海岸。現地住民が行倒れになっている外国人2人を見つけた。1人は事切れていたが、若者には息があった。
　運ばれた病院で目を覚ました若者には、記憶が無かった。 

　倒れていた近くには壊れたゴムボートもあったので、乗っている際に高波を受けて転覆したと思われた。身分証など所持品も無いため、どこの大使館に問い合わせていいかも分からない。
　若者は取りあえず怪我が治るまで、病院で保護される事になった。 

　若者は夜になると海を病室の窓から眺めた。暗い海を見てると、不思議な気分になったのだ。
　夜空の星の様な煌びやかな物を見た夢、波の音、そして風の音を聞くと不安になった。 

(おいおい、彼が思い出さないと女子3人が助からないじゃん！) 

　看護師付き添いのもと、若者は病院外を歩く事になった。砂浜を過ぎると岩場。
　若者は顔色を変えると、岩場へ駆け出した。転倒。看護師は転んだ若者を抱き起した。 

『急にどうしたの？』 

『…助けを待ってる人が居る…！』 

(おや？思い出した？) 

『それは誰？』 

『…いや、誰だろう？』 

　カメラは空撮に切り替わり、岩場の2人をズームアウトしていく。

　2人の遥か脇、茂みと崖を過ぎると、見覚えのある岩礁地帯が映りこむ。その一角、斜めになったクルーザー船が遠目に映し出された。 

　そこで、スタッフロールが流れ始める。 

(こんな近くだったのに…。助からないオチかい…)