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列車

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 私は小学生になっていた。 

 最近、クラスである不可解な出来事が起こる。 

「先生、俺の机拭いたら、こうなりました」 

 掃除の時間、男子が机を雑巾で拭くと、たまに焦げ茶色の塗料の様な物が付着する。 

「今度はA君なの?」 

 先生方も、悪戯で誰かが汚してると思い、移動教室などは施錠するようにしたが、現象は収まらない。 

「男子のばかりだね」 

「私、拭いても付いた事ないよ」 

 帰り道。友人と別れた私は、庭作業をしていた近所の子の父親へ、その現象を話した。 


 息子とは特に仲良くないが彼は子供好きで、面白い話を子供会などでしてくれたり、行事の時は本気で遊んでくれる大人だった。
 私を含め同じ町内の小学生達は、彼が大好きだった。 


「あー、それは接着剤だね」 

 彼はあっさりと答えた。私は首を傾げる。 

「接着剤? 誰か塗ってるって事?」 

「そうじゃなくてね…」 


 私の頭の中に、映像が流れる。彼の声がする。 

『学校の机の木の部分は、1枚だけの板で出来てる訳でなく、何枚もの薄い板を貼り合わせて作ってるんだ』 

 作業着姿の男が、巨大な板に何回も丹念に茶色の薬剤を塗っていた。 

『断面がギザギザしないように削って、コーティングもしてるけど、何年も使えば剥がれてくる事もあるかもね』 

 古くなった机は、縁が浮いていた。 

『男の子は力があるから、力を入れて拭くと縁に雑巾が入る事もあるだろうね』 

 私はハッとする。 

「そう言えば。クラスで最初にあった時、先生が『しっかり力を入れて拭きましょう』って言ってた!」 


 私が言った瞬間、頭の中の映像が途切れ、現実へ戻った。 

 庭先に面した道路、誰も居ないカーブの先から、独特のメロディが近づいてくる。それは、幅6,7メートルあるだろうか、玉虫色をした鎧兜の様な巨大な列車だった。 

 彼は目の前で止まったその列車に乗り込みつつ、笑って言った。 

「つまり、そういう事なんだ」 

(そうだった) 

 私は自宅へ急いだ。あのメロディが再開する。 

(彼は去年、亡くなったじゃないか) 

 玄関のドアを少しだけ開けて外を覗くと、列車は空へと進んで行った。 

(彼は子供にいろいろ教えるのが、好きな人だった。私に教えるため、やって来てくれたのだ)

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