漆黒の夜は極彩色の夢を 〜夢日記ショート·ショート~

羽瀬川璃紗

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モグモグ娘

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 私と夫は、2歳半になる娘と共に、あるファミレスのイベントに参加していた。 

 それは『ちびっこモグモグ大会』という、1歳半~3歳未満の子供が参加できる大食い大会だった。
 とは言え、窒息や食べ過ぎる事がないよう、量や固さは年相応になっており、『いかに好き嫌いなく、楽しく完食出来るか』に特化したイベントだという。 


 娘は離乳食開始まで、母乳以外は決して口にしないという偏食であったが、1歳を過ぎると見ている大人が心配になる位よく食べる子になった。 

「娘にうってつけのイベントだね」 

 イベントのポスターを見かけた夫と私は、即決で出場を申し込んだ。 


 当日、私達以外にも7組の親子が集まり、イベントが始まった。ルールは制限時間が40分、食事の補助は1名のみ、出された物を美味しく楽しく食べる事。 

 娘の補助は普段から食事の補助をする私がついて、夫は応援という形をとった。 

 1つ隣に、見た事のあるパパさんが居た。 

(何か見た事あるな。…苗字がタキザワ?あ、前に私が勤めていた職場に大学生バイトで入っていた奴だ) 

 タキザワの事は覚えていた。上長の居る時だけちゃんとして、それ以外は理屈をこねてサボったり、相手を見て態度を変える、典型的な嫌な奴だった。 

(ふーん。あいつ、うちの娘と同い年の子供居たのね) 

 8組全員、補助がママさんだったので、私は何気無く夫へ言った。 

「こういうのって、皆ママさんにやらせるよね」 

 それを逃さなかったタキザワの妻は、タキザワへ持ち掛けた。 

「ねえ! 折角だからパパやってよ!」 

「何で俺が」 

「えぇ? 申し込むのはパパやるのはママ、なんておかしくない?」 

 すると場内がタキザワ補助をやらないのはおかしくない?的な空気になったので、タキザワは渋々交代した。 

 料理が並べられた。メニューは、ふりかけご飯、ミニハンバーグとクリームコロッケ、茹でブロッコリーとミニトマト、コーンスープだった。 

「思ったより、結構多いね」 

 呟く他のママさんを尻目に、うちの娘はバクバク食べ始めた。私と目が合うと、娘は笑って言った。 

「うまっ!」 

「美味しい? 良かったね」 

 タキザワの息子は、開始早々不服そうだった。 

「ママがいいの!」 

「いいじゃんパパでも」 

 丁度、イヤイヤ期全盛の子供が揃っているので、会場は親達の修羅場になっていた。逃走する子、『これ嫌い』と食物を投げようとする子、何かがトリガーとなり泣き始める子。
 珍しく、娘はモクモクと食べ進める。 

(この量だし、これはイケるかもしれん) 

 そして6組がほぼ脱落し、戦いは娘とタキザワの息子との一騎打ち。娘は笑顔でスープを飲み干す。 

「うまっ! うんまっ!」 

「うんうん、美味しいよね」 

 主催者が実況を始める。 

「おっと! カノンちゃんもリュウセイくんもあとミニトマトだけ!! さあ、上手に食べれるかな?」 

 タキザワが、ミニトマトを息子の口元に持って行くも、頑として受け付けない。 

「リュウセイ、トマト食べないと、大きくなれないよ?」 

「いらない! パパだってたべないじゃん!!」 

 その発言に会場は笑いに包まれ、タキザワは顔をしかめた。その横で、娘は余裕たっぷりにミニトマトを口にする。主催者は拍手で迎える。 

「すごーい!! カノンちゃん、ミニトマト食べました! 完食です!」 

 そして娘は優勝し、商品の食事券を手にした。 


(そりゃあ、親が食べない物、子供が進んで食べるわけ無いわね)


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