漆黒の夜は極彩色の夢を 〜夢日記ショート·ショート~

羽瀬川璃紗

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ある家族の事情 

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 私は人の姿をしているが、人間では無かった。 

 私を含め、家族全員がそうだった。だが、身体は普通に人の形をしていたし、傷が出来たら赤い血がちゃんと出る。 

 普通の人間との相違点と言えば、食事の必要が無い(人とは違うもので栄養摂取)こと、特定の時期は鏡に姿が映らなくなる(年4回の節目の日)こと、時間経過が普通の人間より遅い(10年経過で肉体年齢が1歳加算)ことなど。
 人間的な感情も薄いが、本物の人間でもそういう人が居るので、そこはあまり問題ではない。 

 人間のフリで暮らしていると、不都合な点が出てくる。特に時間経過に関してだ。そこで私達一族は、各地にある幾つもの家を一定年数ごとに転々としていた。 


「参ったな」 

 父が呟く。通算何十回目の引っ越しだっただろうか。 

「どうしても春分の日以外にずらせないんだ」 

 引っ越しが人間の繁忙期と重なり、鏡に姿が映らなくなる日以外の引っ越し予約が不可になってしまったのだ。 

「どうすんの? 最低でも誰かは立ち合い必要でしょ?」 

「それもそうだが、改築した新居、1階に窓ガラスが多くてさ…」 

 窓ガラスは素材にもよるが、天候次第で鏡の様に周りの景色を反射する事がある。弟が提案する。 

「窓、開けたら?」 

「それでも映る時は映るでしょ?『ぶつけて割らない為に』って、新聞かなんか貼ったら?」 

 妹が言った。私は思案する。 

(でもな。という事は、普段から映り込みの可能性があるよね?) 

「ホームセンター的な所で、ステンドグラス風の窓用ステッカーみたいなの買って来て、貼った方がよくない?」 

 私達は、人間以上に人に気を遣っている家族なのである。 


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