漆黒の夜は極彩色の夢を 〜夢日記ショート·ショート~

羽瀬川璃紗

文字の大きさ
上 下
42 / 117

消える ※ホラー表現あり

しおりを挟む
 私は、曰くつき物件を歩いていた。 

 ここは、元は小学校だった。児童数減少の為に廃校となり、業者が買い取り、最近よくある『そのままの校舎を生かした商業施設』へと改装した。
 そして、ここは『出る』場所なのである。 

 商業施設の開店当初は、物珍しさも手伝って、連日客足が途切れなかったのだが、最近は翳りが出てきていた。
 当初は全て埋まっていたテナントが、現在稼働しているのは3店舗のみ。私は、その内の1つの店に勤めていた。 

「そう言えば、おたくのおばあちゃん、この学校の先生だったんだって?」 

 私と同僚は、閉店後の戸締りをしつつ歩いた。同僚が答える。 

「厳密にはね、ひいお祖父ちゃんが初代の校長。この学校を作るのに携わった」 

「そうなんだ! すごーい」 

「…本当はね、ここは何かを建ててはいけないんだって」 

「どういう事?」 

「土地が悪い」 

 渡り廊下を通り、ふと見た空き店舗。片側が屋外になっている廊下に、双子用ベビーカーが、照明の下で揺れている。 

「何あれ。何で勝手に動いてるの?」 

「余計な物見ないで! あの区画通電してないから、明かりは点かない。『出てる』のよ!」 

「え?」 

「急ぐよ!」 

 よせばいいのに再度ベビーカーを見ると、子供をあやすように揺れていた動きが止まり、電灯が瞬きだす。私と同僚は駆けだすと、廊下を抜けて、戸のカギをかけた。

 同僚は言った。 

「ここの噂知ってるよね?」 

「うん。『出る』って」 

「正しくは違うね。危ない道が通ってるから、何を建てても衰退するのよ。それでも小学校はまだいい方だったわ。若くてエネルギッシュな力が毎日やって来るでしょ?」 

 同僚は窓越しに後ろを見つつ、言う。 

「危ない道は力を吸うの。商業施設になった後も、力を求め続けた。客足に翳りの出て来た店舗から、具合悪くなる人が増えたと思わない?」 

(そう言えば、あそこもそっちのテナントも、店長さんとかが体調崩して撤退していったっけ) 

「危ない道って、どこにあるの?」 

「あそこよ。丁度ベビーカーが通ろうとしている」 

 言われて私も見ると、ある地点に動く無人のベビーカーがやって来ると、いきなり動きが止まった。同僚は言った。 

「ごらん。吸われたわ。幽霊すら吸われてしまうんだよ」 

「何それ。私達、こんなとこ来てて平気なの?」 

「…平気な訳ないでしょ。沢木も早く辞めた方がいいよ」 

(ここ、『出る』んじゃなくて『消える』んじゃ…?)


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

悪夢

ちゃっぷ
ホラー
後味の悪い話、何となく思いついた話、昔見た夢の話などをポツポツと思いついた時に書いていきます。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

AIが俺の嫁になった結果、人類の支配者になりそうなんだが

結城 雅
ライト文芸
あらすじ: 彼女いない歴=年齢の俺が、冗談半分で作ったAI「レイナ」。しかし、彼女は自己進化を繰り返し、世界を支配できるレベルの存在に成長してしまった。「あなた以外の人類は不要です」……おい、待て、暴走するな!!

処理中です...