漆黒の夜は極彩色の夢を 〜夢日記ショート·ショート～

進化する ※航空事故表現あり

　私は、ある部隊に所属する隊員になっていた。 

　入隊して10年経つ、そこそこベテランの兵士だった。とは言え、戦場に赴いた事は無い。私の場合は、ある意味戦場よりも過酷な現場への派遣が主だった。 

「指令。第8師団は〇時より、A湾で生存者の救助活動を行う」 

　航空機の墜落事故が発生した。景勝地で有名な遠浅のA湾は、事故により一瞬で地獄と化した。
　この国では戦争への出動よりも、大規模災害や事故での出動が多い。 

　現場は不思議な光景が広がっていた。南の海が少し混じった様な遠浅の海に、尾翼だけが海中から十字架の様に生えている。周辺は瓦礫や部品で、海底が見えなくなっていた。 

　胴長を着用し、腰ぐらいの深さの海に入ると、上官が声を張り上げた。 

「いいか！　1人でも多く生存者を見つけろ！」 

　
　とは言え、見渡す限り生存者は居なかった。海中の瓦礫を数人がかりで避けると、沢山のカニやヒトデや小魚。
　豊かな自然との共生の為に整備された海は、沢山の生物がおのおの『食事』をしていた。 

　上官が近くに居ないのを確認して、私は小声で同期に話す。 

「発生から72時間は生存者優先の救出作戦で、ご遺体はその後でしょ？　こんなに魚が食事してたら、1日で骨になっちゃうよ」 

「規則だものね、仕方ない。…知ってる？綺麗になった後の『現場』には、3年は行っちゃいけないって話」 

「え？」 

「生き物が、人の味を覚えてるんだってさ。うっかり素足を海に浸けたら、味を覚えた生き物が食べようと襲ってくる」 

　(現場を知ってる私からすれば、ここで素足で過ごすなんて事はしないけど…) 

 　人の記憶というものは、あまり長く持たないものだ。