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語らずの家族 ※グロ表現あり
しおりを挟む私はある仕事をしていた。
福祉や各種行政機関と合同で、問題のある家を訪問する事になった。
上司からは『とんでもなく破綻した家なので、気を引き締めて行け』と念を押された。
問題の家はあまり大きくもない一軒家。家庭内暴力、騒音、行政の立ち入り拒否、税金未納など。
我々は、幸運にも立ち入りを許された初めての人間であった。
門から1歩足を踏み入れて立ち竦む。敷地内は悪臭がしてゴミが散乱し、窓もヒビが入っていて、酷く荒れている。
チャイムを鳴らすと、家の中から70代くらいの女性が出てきて、私達を迎えた。
女性はガリガリに痩せていて、髪もボサボサ。着衣もしばらく洗ってないようで、袖から見える腕に痣がついている。
足を引きずりながら、玄関脇の居間らしい汚い部屋へ案内された。
「お宅では一体何が起きているんですか?」
同僚が尋ねると女性は答えた。
「恥ずかしながら、私と主人の育て方が悪く、息子が手の付けられない暴君になってしまったのです。その結果がこうです」
事前に読んでいた書類では、夫妻には40代のいわゆる引きこもりニートの息子が居るとあった。
(それにしても汚い家だな。ハエが多いし)
「つまり、一連のトラブルには息子さんが関わっていると?」
「そうです。何をするのも息子の許可が必要なので、行政さんのお話も無視するよう言いつけられてました」
ふと気づくと、隣室にゴミに埋まるように彼女の夫だろう男性が、こちらに背を向けて布団に臥せっていた。具合が悪いのか。
「そうだったんですね。かけがえのない息子さんでも、言いなりになってここまで我慢する事もなかったでしょうに」
「そうですね。全ては私の責任です」
力無く自分が悪いを繰り返す女性に、私は問うた。
「今日はどうして我々を? 息子さんが許したんですか?」
「実は息子が数日前から体調を崩したのか、部屋から出て来ないので…。部屋は鍵が掛かっていて開けられないので、今の内にと思いまして」
「体調を? それは心配ですね…」
言いつつ、私は隣室の主人が気にかかった。上から掛けている傷んだ毛布。布越しに呼吸の動きが感じられないのだ。
私の目線に気付いた同僚が、女性に申し出る。
「あの、ご主人にもご挨拶してよろしいですか?」
「ええ、どうぞ。主人もとても苦労しまして、昔はふっくらしていたのに、今では骨と皮…」
「ひえっ!!!」
同僚が主人を覗き込み、悲鳴を上げた。弾みで毛布がずり落ちると、主人はミイラ化していた。
白髪だけ、生前のままフサフサと残っている。
「ちょっ…! 待ってこれマズい!!」
「あら、すみませんね。主人は立てなくなって、粗相がたまにありまして…」
騒然とする我々をよそに、女性はゆっくり立ち上がる。職員が叫ぶ。
「何言ってんですか! もう死んでますよ!」
女性は不思議そうに首を傾げる。
(この人、頭か心を病んで生きてる人と死体の区別がつかないんじゃ…!)
ふと天井を見た私はある物を見つけ、女性に言った。
「…息子さん、この真上の部屋に居ますね? 今も」
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