漆黒の夜は極彩色の夢を 〜夢日記ショート·ショート~

羽瀬川璃紗

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ドッペルゲンガー

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 私と夫は入籍から1週間後、小旅行へ来ていた。 

 県外にあるAアウトレットモールへ来るのは、今日で2回目だ。
 前回は約1年前の交際中に、途中で道に迷ったせいで、閉館2時間前に着いたが、今回は道路の事故渋滞のため、着いたのがまた閉館に近い時間となってしまった。 

「何かタイミング悪いね」 

「でも今回は前回より1時間も早く着いたよ!」 

 プラス思考の夫はそう笑った。 

 3時間の滞在時間なので、見たいもののある店だけをピックアップして、見て回る事にした。ある店で、私は異変に気付いた。 

(あそこのカップル、私が持ってる服と似たデザインだな。彼氏のカバンも夫のとそっくり…) 

 似てるのではない。あの2人は、1年前の私達だ。 

(え、ドッペルゲンガーってやつ?遭ったらヤバイんだよね?どうしよう…) 

 私は1年前の記憶を遡った。あの時はB店を見てからC店に行き、再度B店に戻り、品物を買ってから帰った。 

 それにしても、1年前も今も寄る店の好みは変わらない。感心しつつも、私はニアミスの無いように目を光らせた。 


 蛍の光が流れ、1年前の2人は駐車場へ急いでいる。だが、途中に難所。現在の私達と、植木を挟んで4メートル隣をすれ違わないとならない。
 咄嗟に、私は夫へこう言った。 

「靴紐、解けそうだよ」 

「あ」 

 夫は素直にしゃがみ、紐を結び始める。 

(無論、1年前の私にもドッペルゲンガーの知識はあった筈だ。空気を読んでくれ…!) 

 1年前の私が、現在の私達に気付いたようで、息を飲んだ後あからさまに視線を逸らすのが判った。 

(確かこの後、1年前の夫がトイレから戻ってくる) 

 紐を結び終えた夫に、私は再度指示する。 

「念のためもう片方も結び直したら?」 

「うーん、そうだね」 

 現在の夫がしゃがんだタイミングで、1年前の夫が戻って来るも、植木越しにこちらを振り返り、目を細める。現在の私は、さり気なく背を向けた。 

『何かあの人、みーちゃんに雰囲気似てる…』 

『何言ってるの。遅くなるから早く帰ろ!』 

 1年前の2人は手を繋ぐと、歩き始めた。現在の夫も、結び終えて立ち上がる。私達も手を繋ぐ。 

(グッジョブ、1年前の私。どうか幸せにな) 


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