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私は誰か
しおりを挟む私は、ある実業家の秘書兼ボディーガードになっていた。
ある日私は自分が沢木都子という人間であり、雇い主が小学校時代からの同級生:コンドウである事に気付き、コンドウへ言った。
「コンドウくん、私、都子なの」
「は? アイシャ、何を言ってる?」
「私はアイシャ・ジル・タチバナなんだけれど、沢木都子の記憶もあるの…! 沢木都子、覚えてるでしょ? 同じ町内に住んでて、同級生だったじゃん?」
「ちょっと待て。都子は確かに同級生だし、知ってるけど…。あいつは1年以上前に死んでるぞ」
私は衝撃を受けた。
「死んだ? 嘘?! 私、コンドウくんが小学校の野外活動でケガした事とか、運動会で選手宣誓をしてるのを見た記憶があるんだよ?」
「ええ?! 何で知ってんだよ。どういう事?」
鏡の中の私は、知らない東洋人の女だった。だが、私が都子本人であるから知っている事、雇われる以前のコンドウのエピソードを知っている事から、コンドウも嘘をついてないと確信した様だ。
「俺も信じられないけど、確かに都子は死んだんだ。生憎、仕事で外国に居たから、葬式は行けなくて、だから他の同級生に俺の分の香典を頼んだんだ」
「私、何で死んだって?」
「あまり親しくもなかったから、よく分からない。事故だったかな」
(何故アイシャに私の記憶があるのだろう。死後の魂が乗り移ったのか?)
コンドウが、地元の同級生に連絡を取る。
「今年、法要があるらしいから、線香をつける名目で都子の父ちゃん母ちゃんに接触しよう」
コンドウと私は仕事の予定を組み直し、日本へ向かった。
久しぶりの実家は相変わらずで、私は少しホッとする。仏壇には、同窓会の写真から切り取ったらしい私の遺影。
手を合わせると母が声をかける。
「わざわざ帰って来た時に寄っていただいて…」
「いえいえ。…都子の死因、訊いても大丈夫ですか?」
「1年半くらい前、旅行先のA国で起きたテロに巻き込まれて…」
「僕もA国に居ました。あのテロだったんですね。…実はこちらの秘書も、巻き込まれて大怪我をしたんです」
秘書アイシャの記憶はそこから始まっている。確かこの身体の持ち主は顔を大怪我して、形成手術を3回もした。しかも術後に経過が一時悪化し、記憶障害も起こした。
母は私を見た後、続けた。
「そうなんですね。あの時はいっぱい人が亡くなって、混乱もしてて…。都子は搬送先の病院で死亡が確認されて、お父さんがA国向かって身元確認したんですが、損傷が酷くて面影も全然…。そのまま火葬されて、日本に戻って来たんですけど、今も信じられないです」
(え、面影も判らないくらいの損傷?)
コンドウは私と顔を見合わせた後、口を開いた。
「歯型、とかで確認したんですよね?」
「…言いづらいんですけど、頭を大怪我して歯は5本しか残ってなくて。でも都子が使ってたB社の白い携帯とよく履いてた赤いサンダルは一緒だったから、多分」
(赤いサンダル、旅行前に壊れたから違うの履いて行った…)
異国で大怪我し顔と記憶を失った女と、同世代で背格好も似てる、損傷の激しい女性遺体。取り違えは無かったのだろうか。
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