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復讐の毒婦
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私はかつて勤めていた職場へ、戻ってきた。
「出戻りってやつな」
かつて私を苛めていた連中は、聞こえるよう陰口を叩いた。私は気にせず、連絡事項を伝える。
「今日の正午に話がありますので、全員会議室に集まって下さい」
「話って? 彼氏でも出来たの?」
(けっ。言ってろ)
連中はヘラヘラ笑いながら、約束の時間に遅れて集合する。彼らを待っていたのは、スーツ姿の10人の人間と、私。
「遅かったですね。本題に入りましょう。本日○月○日正午を持ちまして、株式会社アカヤ甘井工場(仮)は、株式会社アークエンジェル(仮)の傘下となり子会社化されました。つきまして新理事として神地都子CEOが新代表に就任し、業務の指揮を執り行います」
これまで株を保有してきた前代表らが、アークエンジェルへ株と工場を売却し、業務も完全移行する。私はお辞儀すると、代表挨拶をした。
「改めまして、新代表の神地です。この度、㈱アカヤ甘井工場の巨額赤字補填及び経営再生の為に、この会社の陣頭指揮を執る事になりました。
巨額の負債が生じたのは、経営者だけの責任ではなく、この様に約束の時間に平気で遅刻してくる、非常識な一部の人も関係あるのではないでしょうか?
つきましては、厳しく社内改革に励みたいと思います」
これから需要が高まり、収益も伸びる企業を探していた私の会社はこの会社に目をつけたが、杜撰な経営の為、あと数年で倒産の危機だった。そこで買収した。
実は半年前から、うちの社員を中途採用のパート社員として潜入させており、内部調査していた。
実態の無い手当を受ける者、会社の収益を不正に懐にする者、仕事より苛めに精を出して商品の品質低下を招く者などは、事前にピックアップし証拠も取っていた。
そして私は、問題の人物も含め全社員の役職を解き、一律同じにし『取り組み姿勢で、誰でも出世し基本給も上がるシステム』を本格導入した。
「都子ちゃん、子供居るんだって? 子供何歳なの? 懇親会しない?」
古株の事務員モモキが話しかける。以前勤めていた時に、私が社外イベント好きだと知っていて、ご機嫌取りに来た。私は笑顔で返す。
「モモキさん、就業規則にもありますが個人情報を聞き出すのはおやめ下さい。私は懇親会、遠慮します。他の皆さん方と楽しんで下さい」
私は鬼に変貌した。とは言え、塩対応はあくまで不正やおべっかを働く者にだけ。仕事に対する悩みを抱えた者や頑張る者には、優しく手を差し伸べた。
結果、会社の業績回復と労働環境改善が進み、ついて来る従業員が増えた。
そんな折、私は第2子を妊娠した。大多数は喜んで気遣ってくれたが、良く思わない者も勿論居た。
抵抗勢力のグループが使っていたメッセージアプリに暴言が流れ、親切にもスクリーンショット付きで密告あり。本社役員が厳しく弾劾する。
「はっきり言って、『罰ゲームで腹を蹴ってこよう』や『階段から突き落とそう』などの文言は非常に悪質です。犯罪予告や脅迫行為として、訴追も辞さない事柄です。
多少の事には目を瞑ってましたが、役員全員一致で常軌を逸脱していると結論に至りました」
該当者には解かれた役職に再度就けた者も居たが、また解かれた。
(身から出た錆とは言え、後輩に裏切られ、ヒラへ逆戻りか。可哀想に)
私が産休に入り、後任が業務を継いだ。抵抗勢力は状況が変わると喜んだが、後任は私以上に冷徹な男だった。
抵抗勢力の中でも、定年間近だった私の元上司スミタニが目を付けられ、徹底的にマークされてるらしい。
私の育休明け初日に、スミタニがどうしても面談したいとの事で、対応した。
「とにかくクドウさんが私を苛めるんです。雑用を押し付けるし、他の人と話させてくれないし…!」
余程堪えてるのか、泣きながら訴える。
(イイ齢のジジイが泣くなよ、みっともない)
「だから異動したいと。では出来るのは仕込み? 機械のメンテ? 製品検査? パソコンも出来ませんよね。…あなたは『雑用』と見下す言い方をしますが、清掃も在庫管理も全て立派な仕事ですよ。
腰痛があるから、自分のペースで出来る仕事がいい、とクドウに申し出たのはあなたですよね?」
育休中にクドウから、逐一報告を受けていた。私は続けた。
「他の人と話せないと言いますが、『クドウさんが休日に1人でパチンコ打ってた』とか、『彼氏と長いんなら早く結婚しなよ』と余計な事を話すから、皆さんが距離を置いているのでは?」
事実に対し私なりの意見を言ったが、スミタニは話を訊かずに訴える。
「そんなのいいから! クドウさんどうにかしてくれ!!」
「…スミタニさん。あなたにお話しする事は1つです。私、来月から別のプロジェクトに加わるので、本社へ異動します。後任はクドウさんです」
「出戻りってやつな」
かつて私を苛めていた連中は、聞こえるよう陰口を叩いた。私は気にせず、連絡事項を伝える。
「今日の正午に話がありますので、全員会議室に集まって下さい」
「話って? 彼氏でも出来たの?」
(けっ。言ってろ)
連中はヘラヘラ笑いながら、約束の時間に遅れて集合する。彼らを待っていたのは、スーツ姿の10人の人間と、私。
「遅かったですね。本題に入りましょう。本日○月○日正午を持ちまして、株式会社アカヤ甘井工場(仮)は、株式会社アークエンジェル(仮)の傘下となり子会社化されました。つきまして新理事として神地都子CEOが新代表に就任し、業務の指揮を執り行います」
これまで株を保有してきた前代表らが、アークエンジェルへ株と工場を売却し、業務も完全移行する。私はお辞儀すると、代表挨拶をした。
「改めまして、新代表の神地です。この度、㈱アカヤ甘井工場の巨額赤字補填及び経営再生の為に、この会社の陣頭指揮を執る事になりました。
巨額の負債が生じたのは、経営者だけの責任ではなく、この様に約束の時間に平気で遅刻してくる、非常識な一部の人も関係あるのではないでしょうか?
つきましては、厳しく社内改革に励みたいと思います」
これから需要が高まり、収益も伸びる企業を探していた私の会社はこの会社に目をつけたが、杜撰な経営の為、あと数年で倒産の危機だった。そこで買収した。
実は半年前から、うちの社員を中途採用のパート社員として潜入させており、内部調査していた。
実態の無い手当を受ける者、会社の収益を不正に懐にする者、仕事より苛めに精を出して商品の品質低下を招く者などは、事前にピックアップし証拠も取っていた。
そして私は、問題の人物も含め全社員の役職を解き、一律同じにし『取り組み姿勢で、誰でも出世し基本給も上がるシステム』を本格導入した。
「都子ちゃん、子供居るんだって? 子供何歳なの? 懇親会しない?」
古株の事務員モモキが話しかける。以前勤めていた時に、私が社外イベント好きだと知っていて、ご機嫌取りに来た。私は笑顔で返す。
「モモキさん、就業規則にもありますが個人情報を聞き出すのはおやめ下さい。私は懇親会、遠慮します。他の皆さん方と楽しんで下さい」
私は鬼に変貌した。とは言え、塩対応はあくまで不正やおべっかを働く者にだけ。仕事に対する悩みを抱えた者や頑張る者には、優しく手を差し伸べた。
結果、会社の業績回復と労働環境改善が進み、ついて来る従業員が増えた。
そんな折、私は第2子を妊娠した。大多数は喜んで気遣ってくれたが、良く思わない者も勿論居た。
抵抗勢力のグループが使っていたメッセージアプリに暴言が流れ、親切にもスクリーンショット付きで密告あり。本社役員が厳しく弾劾する。
「はっきり言って、『罰ゲームで腹を蹴ってこよう』や『階段から突き落とそう』などの文言は非常に悪質です。犯罪予告や脅迫行為として、訴追も辞さない事柄です。
多少の事には目を瞑ってましたが、役員全員一致で常軌を逸脱していると結論に至りました」
該当者には解かれた役職に再度就けた者も居たが、また解かれた。
(身から出た錆とは言え、後輩に裏切られ、ヒラへ逆戻りか。可哀想に)
私が産休に入り、後任が業務を継いだ。抵抗勢力は状況が変わると喜んだが、後任は私以上に冷徹な男だった。
抵抗勢力の中でも、定年間近だった私の元上司スミタニが目を付けられ、徹底的にマークされてるらしい。
私の育休明け初日に、スミタニがどうしても面談したいとの事で、対応した。
「とにかくクドウさんが私を苛めるんです。雑用を押し付けるし、他の人と話させてくれないし…!」
余程堪えてるのか、泣きながら訴える。
(イイ齢のジジイが泣くなよ、みっともない)
「だから異動したいと。では出来るのは仕込み? 機械のメンテ? 製品検査? パソコンも出来ませんよね。…あなたは『雑用』と見下す言い方をしますが、清掃も在庫管理も全て立派な仕事ですよ。
腰痛があるから、自分のペースで出来る仕事がいい、とクドウに申し出たのはあなたですよね?」
育休中にクドウから、逐一報告を受けていた。私は続けた。
「他の人と話せないと言いますが、『クドウさんが休日に1人でパチンコ打ってた』とか、『彼氏と長いんなら早く結婚しなよ』と余計な事を話すから、皆さんが距離を置いているのでは?」
事実に対し私なりの意見を言ったが、スミタニは話を訊かずに訴える。
「そんなのいいから! クドウさんどうにかしてくれ!!」
「…スミタニさん。あなたにお話しする事は1つです。私、来月から別のプロジェクトに加わるので、本社へ異動します。後任はクドウさんです」
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