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2099 ※自然災害表現あり
しおりを挟む私は、タイムマシンに乗る事になった。
地元の寺の敷地内にある、エレベーターがマシンだ。ボタンは1から10まであるが、どのくらい先の未来になるかはランダムらしい(『10』のボタンが1番遠い未来へ行けるが、それが10年後なのか10時間後なのかは運次第)。
折角なので、私は『10』のボタンを押した。
降りた先は同じ寺の敷地。私の知る時代では、寺の東側には民家が何軒かあったが、そこは大きな公園となっていた。
(よし!確実に1年以上先へ来た。嬉しいな)
公園は催事用テントが幾つか並び、焼きそばや芋煮汁がふるまわれていて、人々がいっぱい居た。
(ここは何月何日なのだろう。お祭りかな?)
取り敢えず私は実家へ向かうことにした。だが、異変に気付く。
道路はひび割れが目立ち、傍らの家屋も屋根に損傷があったり、窓にガムテープが貼ってある。まるで、スラムかゴーストタウンの様だ。
(地元、随分荒れてしまったな)
実家が見えた時、クレーン車と中型トラックが入って行くのが見えた。追いかけると、作業員達は解体作業の準備をしているようだった。
(私が子供の時から知る、あの実家の取壊しかぁ)
感慨に浸る私は、作業の傍らに家人と思しき4人(50代くらいの夫婦、20歳前後の姉弟)を見つけ、話しかけてみた。
「あのう、すみません。この家、解体するんですか?」
「え? ああ、バラすのはこっちじゃなく、あっちの建物です」
主婦は答えると、住宅とは別の小さな小屋を指した。ログハウス風の小屋は、劣化でボロボロな上に傾いている。私は更に尋ねた。
「ちなみに、あっちのお寺の東側、何のお祭りなんですか?」
すると主婦は呆れた様な顔をした。
「はい? あれは炊き出しですよ! あんな大きな地震あったのに、知らないんですか?」
私はそれで全てを悟った。道路や建物の傷みと、あの催事。大地震後の炊き出しだったのだ。
怪訝な表情の一同に、私は切り出した。
「ええと、沢木コウタロウという人は分かりますか?」
家を継いだだろう弟の名を出せば、何か分かるかも。主婦は答える。
「コウタロウは私の祖父です」
(この主婦は弟の孫だったのか。弟、生きてるかな)
「存命ですか?」
「いえ。亡くなってます。…何の用ですか?」
(だろうな)
私は自己紹介をした。
「実は2011年から来ました。沢木コウタロウの姉の都子です」
その言葉に弟の孫夫婦は『ハア?』という表情をしたが、曾孫の姉弟は目を輝かせた。
「ええ⁈ ひいじいちゃんのお姉さん? タイムスリップしてきたんですか?」
「はい。あの、まさか地震直後の時期に来ちゃうとは思わなくて…。大変な時にすみません。…でも、津波ここまで来なかったですよね?」
「まあ、津波関係ない地震だったので」
主婦は事も無げに答えた。
(あ、直下型地震だったのね…)
曾孫娘は目を輝かせて尋ねてきた。
「2011年て事は、あの大津波あった頃ですよね? アレですか? 未来へ来たのは、過去から警告に来たとか?」
不思議な事が好きという遺伝子は受け継がれていたんだなと思いつつ、私は頭を掻いた。
「いや、でも…何ていうか。来たタイミングは悪いし、アドバイス出来るような事も…無いよね?」
未来ならライフラインの復旧も早ければ、ライフハック的なものも、私の生きる時代より発達してるだろう。私の助言など、化石みたいなものだ。
曾孫の姉弟が立ち話もなんだし、家にどうぞと言うのでお邪魔させてもらうと、驚きの光景が広がっていた。
「この家、私が居る時代の家と変わらない…」
家屋は私の暮らした実家と配色と間取りが少し違うだけで、ほぼ同じだったのだ。曾孫息子が説明する。
「この家、ひいおじいちゃんが設計したんです。だからもしかすると、ひいじいちゃんが昔住んでた家を元にしてるかも」
なるほど、あり得る。
通された部屋は和室。基本的な内装は平成の頃と変わらない。
目を引いたのは座卓。スマホみたいに表面は液晶で、アイコンや常時流れるテロップ、CMが表示され動いてる。
(さすが未来。テーブル兼テレビ兼各種リモコンか。もし私が技術者なら、この夢をヒントに開発できるんだけどなぁ)
主婦が尋ねる。
「何飲みますか?」
「あ、気にしなくて結構ですよ!勝手に押し掛けたんだし、もうすぐこの夢終わるし」
「終わる? 帰っちゃうんですか?」
曾孫の姉弟が残念がる。あと10秒くらいでこの夢は終わるだろう。私は早口で要件を伝えた。
「今日は良かったです。少しだけど未来を見れたし、子孫にも会えたし」
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