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人魚の棲む家 ※残虐表現あり
しおりを挟む私は留守番をしていた。
元々、母親や兄弟らと出かける予定だったのだが、途中で気が変わった。自室で1人、静かに漫画を読みたくなったのだ。
「ごめんください」
階下へ降りようとしたが、祖父が対応したようだ。あの声は近所に住む祖父の知人だ。ならば私は関係ない。ところがある話し声が気にかかった。
「今日誰も家に居ねえか?」
「ばあさんは温泉、トシヒコは仕事、ハルコは孫たち連れて出たから大丈夫だ」
聞かれたくない話でもするのか。ならば、と私は自室でヘッドホンで音楽を聴く事にした。どれくらい経ったか。私は異変を感じ、ヘッドホンを外した。
女の叫び声が、何処からか途切れ途切れに聞こえる。
足音を立てぬよう、ゆっくり階段を降りて耳を澄ますと、その声は1階の奥にある祖父母の寝室から聞こえてくる。何が起きているのか。
私は廊下の戸の隙間から、部屋を覗いてみた。
押入れの中の物が全て出され、室内に置かれている。傍らの重ねられた板は押入れの床板だ。
押入れはここからは見えなかったが、思しき方向から水音と女の声がした。
「よくも殺したな! 家の財産欲しさに、よくも実の妹である私を手にかけたな!!」
祖父の妹でこんな若い声の人は居なかったはず。祖父の声もした。
「早く成仏してくれ。頼む!」
覗く位置を変えた私は、押入れの床下からずぶ濡れの上半身をのぞかせる、血塗れの若い女が見えた。
(誰…?)
「うるさい!! 私を生贄に兄貴を葬った、自分の事しか考えていないお前が何を言う! 死んでも死にきれないぞ!!」
祖父と知人は多量の線香を焚き、一心不乱に何らかのお経を唱え、おりんを鳴らす。女はその度に叫び声を上げ、段々と弱体化しているようだ。
女は去り際にこう叫んだ。
「忘れるな! 私は何度でもこうして出て来るぞ!! お前を許さないからな!」
私は目の前の光景に息をのむ。こうしちゃいられない、部屋に戻らなくては。
古い時代の次男なのに、祖父が家を継いだのは知っていた。それは、長男にあたる人が若くして死んだからと聞いていた。
病死と聞いたが、実際は呪いをかけて殺したのか。
そしてあの女の怨霊は、祖父の妹なのだろう。そう言えば神隠しに遭った妹が居たと、聞いた事がある。
きっと、遺体は祖父の部屋の押入れの下、家の改築の際に埋めたという古井戸の中にあるのだろう。
自室に入った私は、その場にへたり込んだ。何て事だ。我が家でそんな事が、現在進行形で起きているなんて。
祖父亡き後は、あの怨霊の供養は誰がするのだ。子孫である私達なのか。
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