我ガ奇ナル日常譚 〜夢とリアルと日々ホラー〜

羽瀬川璃紗

文字の大きさ
上 下
28 / 137

28 本物

しおりを挟む
 卒業シーズンになると思い出す、高校時代の先輩の話。 


 ハナノとミズホと言う、同じ部の1つ上の学年の女の先輩達と仲が良かった。 

 ハナノ先輩は良くも悪くも『中心に居たい女子』、ミズホ先輩は大人しい『取り巻き女子』な感じだった。 


 2年の時、ハナノ先輩にある話をされた。 

「修学旅行、気を付けないといけないよ!」 

 修学旅行中、ある戦争被害に遭った所を見学する。 

「去年『A』に行った時、戦争の犠牲者の霊に取り憑かれて。涙が止まらなくなって、バスで休む羽目になったの!」 

「え、先輩霊感強いんですか?」 

「そうよ! 憑依された事何回もあるの」 

 突然、霊感持ちだとカミングアウトされた。 

(今まで微塵も言ってなかったのに。もしや言っても否定されないと認められたかな?) 


 そして迎えた修学旅行。『A』では特に何も感じなかった。


 私はハナノ先輩へ報告した。 

「自分、何も感じませんでした」 

「そうなんだ? 気になる場所どこも無い?」 

「あえて言うなら隣の資料館?」 

「あー、じゃあ霊感無いね。取り憑かれなくて良かったね!」 


 ところが。

 ハナノ先輩は部活動引退後も部室によく顔を出していたのに、それから突然来なくなったのだ。
 見かけたミズホ先輩に尋ねると。 

「ハナノ、学校休みがちでさぁ」 

「そうなんですか…」 

「何か今くらいに、来なくなる子増えるからそれかも」 


 教師も似た事を言っていた。進路に絶望して(成績の伸び悩みや進路未定など)、2学期後半から登校拒否っぽくなる3年生が出るらしい。
 ハナノ先輩もそれに嵌ったか。 


 相方不在で『ぼっち』かと思いきや、ミズホ先輩は別のグループと一緒だった。 

(ふーん、案外ドライなんだ。まあハナノ先輩とだと、我慢する事が多かったのかな?) 

 ハナノ先輩を通じて接していた感じなので、ミズホ先輩と話す事はほぼ無くなった。 


 そんなある日。 

 帰りにミズホ先輩と会った。 

「久しぶり。今日部活無いの?」 

「先生出張で。先輩、これから帰りですか?」 

「うん。…あ、一緒に帰らない?」 

 ミズホ先輩から初めて誘われた私は、二つ返事だった。 


「ねえ。ハナノ、本当に霊感あると思う?」 

「え?」 


 進路や好きなミュージシャンの話の後、ミズホ先輩は唐突に言った。
 返答を待たず、彼女は続けた。 

「3人で帰る時、部室脇のトイレ寄ってたじゃん? 何で1番外に近い個室、避けてたの?」 

「え…、避けてたって言うか。何か、暗くて」 

 ミズホ先輩は私の返答にクスッと笑った。 

「あたしもあそこ、使いたくないんだ。でも、ハナノは普通に使ってて。ウケる」 

「あ、使ってましたね」 

「覚えてる?修学旅行の『A』の話。ハナノが騒いでたやつ」 

「はい、覚えてます」 

「…隣の資料館の敷地にも戦災遺物あるけど、そっちは激ヤバなんだって。中に入れるのは、安全な『A』の方。
だから、あんたの勘は正しい。ハナノなんかよりよっぽど『有る』」 


 その時は意味がよく分からなくて、ミズホ先輩よく喋るなあと相槌を打っていた。


「ハナノ、『見える』ようにしてやったら来なくなったね。前から見えてたなら、何で怖がってんだろ?」 

 思わず顔を見ると、彼女は空を見ていた。
 バス停に着くと、ミズホ先輩は笑って手を振った。 

「じゃあね。色々話せて楽しかったよ」 

 1対1で話したのは、それが最後だった。 


 何とか卒業出来たハナノ先輩は県外に就職し、ミズホ先輩は介護福祉の専門学校に進んだらしい。

 2人とは、以降会っていない。 


 大人になってから『A』や資料館の事を調べたが、特に霊的な話は無かった。 

 だが『子供への学習目的での開放にあたり、地元霊能者からのお墨がついた(憑依や霊障の危険が少ない)場所だけを開放した』との話は見つけた。 


 ミズホ先輩は本物だったのか。

 霊感が無いのに『有る』と嘯いた友人を懲らしめる為に、『霊感のドア』を開けたのか。もしくは、彼女自身も後輩である私をからかったのか。 


 彼女は『知らなくていい事もある』という事を、私に教えたかったのかもしれない。 

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

意味がわかると怖い話ファイル01

永遠の2組
ホラー
意味怖を更新します。 意味怖の意味も考えて感想に書いてみてね。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...