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20 暴君
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近所で不幸があった時の話。
子供時代よく遊んだ友人:ナエの父親が亡くなった。葬儀は明後日だが仕事が繁忙期なので、私は葬儀に出ずに、母と線香だけ点けに行く事にした。
ナエの父親はサラリーマンだったが、小学校になった頃に『脱サラ』し、よく分からない『便利屋』商売を始めた。
近所の評判は良くなかった。
脱サラは、酔って暴力沙汰を起こしての解雇がきっかけらしく、便利屋も雑な仕事で高額料金を徴収するので、度々トラブルになっていた。
一家はどんどん、近所から孤立していった。
久しぶりに会ったナエの母親は、実年齢以上に老けて見えた。長年の心労か。
「ご無沙汰しております」
挨拶した後、私達が簡易祭壇へ手を合わせると、ナエの母親は母へ愚痴をまくし立てた。
「本当、身勝手な男で私達すごい苦労したのよ。食べるのにも困る時期があって、学費払えなくて高校辞める事になったから、ナエも全然帰って来なくなっちゃった。
父親の葬式なのに『仕事あるから通夜しか出れない』って…」
風の噂で、ナエは県外で暮らしていると聞いていた。ナエの母親は私をジッと見つめて呟いた。
「お宅のお父さん真面目だしちゃんとしてるから、娘さんもこうやってお線香つけに来るんだね。本当に羨ましいわ」
ナエの母親は私達を玄関先まで見送った。
その夜。入浴後、母に声をかけようとすると、ソファで横になっていた。
「具合悪いの?」
「…だるい」
「何かあたしも眠いからもう寝るわ。母さんも無理しないでね」
そして、ある夢を見た。
私は夢の中で、地面に寝そべっていた。隣で母も同様に臥せっていた。顔を上げると、そこは自宅前の路上。しかも夜。
(何でここにいるんだろう。車来たら危ないし、起きないと)
ところが立ち上がれない。
見ると私の手の指全てに、長い針が刺さっていて、地面に固定されていたのだ。
(何これ。標本みたい…!すごく嫌だ!!)
動けない私と母の頭の先には、蝋燭の灯りを持ち歩く人。誰か分からないが、自宅へと入って行く。
(誰?!何でうちに?)
『お母さん! 何かおかしいよ!』
起きた母親も指が固定されているので、動けない。
灯りを持った人は真っ暗な我が家の中をうろついている。台所の窓に灯りが透けていて、何かを探しているような動きだった。
起きた私は母にその夢の話をした。母は険しい表情で言った。
「昨日言いそびれたけど…、ナエちゃんの母さん、見送ってくれたけどさ、不幸があった時は見送ったらダメなの。一般常識的にも、迷信的にも良くない」
「え…。じゃあ、あの怠さも夢もそのせい?」
年齢的にもナエの母親が、その常識を知らないのは妙である(喪主だし)。
娘と断絶寸前のナエの母親は、仲良く母娘で来た私達に、悪意を持って見送ったのでは?と母は疑ってるようだ。
そう言えばナエの家からはうちの台所が見える。夢も偶然だろうか?
葬儀に参列した両親の話では、参列者の少ない寂しい告別式だったという。近所どころか、親類からも孤立していたらしい。
だが『参加できない』と言っていたナエが、母親さんを支えるように葬儀に居たそうだ。
暴君に人生を蔑ろにされた2人が、いつか関係を改善出来る事を、願わずにいられなかった。
子供時代よく遊んだ友人:ナエの父親が亡くなった。葬儀は明後日だが仕事が繁忙期なので、私は葬儀に出ずに、母と線香だけ点けに行く事にした。
ナエの父親はサラリーマンだったが、小学校になった頃に『脱サラ』し、よく分からない『便利屋』商売を始めた。
近所の評判は良くなかった。
脱サラは、酔って暴力沙汰を起こしての解雇がきっかけらしく、便利屋も雑な仕事で高額料金を徴収するので、度々トラブルになっていた。
一家はどんどん、近所から孤立していった。
久しぶりに会ったナエの母親は、実年齢以上に老けて見えた。長年の心労か。
「ご無沙汰しております」
挨拶した後、私達が簡易祭壇へ手を合わせると、ナエの母親は母へ愚痴をまくし立てた。
「本当、身勝手な男で私達すごい苦労したのよ。食べるのにも困る時期があって、学費払えなくて高校辞める事になったから、ナエも全然帰って来なくなっちゃった。
父親の葬式なのに『仕事あるから通夜しか出れない』って…」
風の噂で、ナエは県外で暮らしていると聞いていた。ナエの母親は私をジッと見つめて呟いた。
「お宅のお父さん真面目だしちゃんとしてるから、娘さんもこうやってお線香つけに来るんだね。本当に羨ましいわ」
ナエの母親は私達を玄関先まで見送った。
その夜。入浴後、母に声をかけようとすると、ソファで横になっていた。
「具合悪いの?」
「…だるい」
「何かあたしも眠いからもう寝るわ。母さんも無理しないでね」
そして、ある夢を見た。
私は夢の中で、地面に寝そべっていた。隣で母も同様に臥せっていた。顔を上げると、そこは自宅前の路上。しかも夜。
(何でここにいるんだろう。車来たら危ないし、起きないと)
ところが立ち上がれない。
見ると私の手の指全てに、長い針が刺さっていて、地面に固定されていたのだ。
(何これ。標本みたい…!すごく嫌だ!!)
動けない私と母の頭の先には、蝋燭の灯りを持ち歩く人。誰か分からないが、自宅へと入って行く。
(誰?!何でうちに?)
『お母さん! 何かおかしいよ!』
起きた母親も指が固定されているので、動けない。
灯りを持った人は真っ暗な我が家の中をうろついている。台所の窓に灯りが透けていて、何かを探しているような動きだった。
起きた私は母にその夢の話をした。母は険しい表情で言った。
「昨日言いそびれたけど…、ナエちゃんの母さん、見送ってくれたけどさ、不幸があった時は見送ったらダメなの。一般常識的にも、迷信的にも良くない」
「え…。じゃあ、あの怠さも夢もそのせい?」
年齢的にもナエの母親が、その常識を知らないのは妙である(喪主だし)。
娘と断絶寸前のナエの母親は、仲良く母娘で来た私達に、悪意を持って見送ったのでは?と母は疑ってるようだ。
そう言えばナエの家からはうちの台所が見える。夢も偶然だろうか?
葬儀に参列した両親の話では、参列者の少ない寂しい告別式だったという。近所どころか、親類からも孤立していたらしい。
だが『参加できない』と言っていたナエが、母親さんを支えるように葬儀に居たそうだ。
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