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 ある春彼岸の期間に夢を見た。 


 夢の中で私は、よくある小さなフードコートを1人で切り盛りする店員になっていた。
 軽食メニューからスイーツまで、レジ打ちも調理も片付けも1人で、てんてこ舞いしていた。 

 客をさばいた後の隙間時間で、白玉団子の仕込みを始めた。 

(いま来ないで欲しいな。手が粉だらけだから) 

 と思っていると、60過ぎくらいの頭髪薄めの男性が来た。 

『こんにちは、草団子、あるかな?』

(草団子?!メニューにあったっけ?) 

 とりあえず私は笑顔で返した。 
『く、草団子ですか?』

(そもそも草団子って何を混ぜるんだろう…?) 

 男性客はにこやかに言った。 

『草団子、食べたいなー。草団子、食べたいなー』 

(2回も言われたし…) 

 夢はそこで終わった。 


 早速、母にその夢の話をした。 

「草団子ねえ。じゃあ今日はお彼岸の中日だし、ご先祖様に草団子お供えするかな」 

 我が家では、春と秋の彼岸の中日と最終日に、仏壇へお膳の料理をお供えする。私は苦笑する。 

「え、あれってリクエストだったの?」 

 そう言えばあの男性客、遺影でしか見た事の無い初代の人(祖父の祖父)に似ている気がする。
 何気なくカレンダーを見た私は、衝撃の事実に気づいた。 

「…母さん、お彼岸の中日、昨日だ」 

「ええっ! お供え忘れてた!!」 

「あの夢って催促だったの? …とにかく草団子だからね! もう仕事だから行くわ、よろしく!」 

 夢のメッセージを母に託し、私は仕事へ。
 帰宅し、仏壇を見るとそこにあったのは…『草餅』だった。母は途中で勘違いしたらしい。 

 でも別に先祖からの苦情の夢を見る事は無かった。 


 自分の親族や子孫が生きている間は「死んだ婆ちゃんの好物は○○だった」と伝わるし、供えてもらえるだろう。
 例えば4代も後になると、好物を知る人物も居なくなる。その時に、どうしても自分の好物を供えてもらいたい時は…? 

 霊感の強い子孫が居ればいいけど、そうでない場合はやはり、夢枕なのだろうか。

 草団子を店頭で見かけると、私は会った事の無い初代の爺さんを思い出すのである。 

 
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