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想定範囲外 ※フェチズムの表現あり
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「世の中、先の事を考えてない人が多すぎる。そう思いません?」
床のモップ掛け中に話しかけてきたのは、バラエティ雑貨店学生アルバイトの名城礼佳。ゆず子の返事を待たず、名城は続けた。
「私、そういう人たちと違って、19歳だけど婚活パーティーに行ってみたんです。勿論、参加者の中で1番の最年少でした」
ゆず子は目を丸くした。
「へえ! 婚活パーティーに? 若いのに珍しいわね」
「主催者からも似たような事、言われました。最年少だったから、男性の方からいっぱい話しかけられましてね。所詮男性って、若い子に目が無いんですね。本能ってやつですかね?」
確かに名城は『若い女性』ではある。
でも寝癖か天然パーマか分からないクシャクシャのショートヘア、カサカサの唇に眉すら整えないスッピン、着ている服もシワシワだったり毛玉が目立つという、冴えない女子だ。
(『魅力』と言うより、物珍しがられての話しかけ、だろうなあ)
内心そう思うも、おくびにも出さずにゆず子は返した。
「モテモテだったのね。その年で結婚願望あるんだ?」
「勿論ですよ。どんなに頭良くて仕事出来たとしても、齢を重ねれば子供産めませんからね。勉強や仕事は、子供産んでからも出来ますから。若くに結婚して、子供もさっさと産む事が1番合理的な人生ですよ」
名城は得意げに言った。ゆず子は尋ねた。
「どうだった? 素敵な人、居た?」
すると名城はニヤニヤした。
「まあ、何人かキープの状態です。六大学卒、一部上場企業、経営者…色々居ましたけど、実は彼氏も居るんですよ。だからキープというか、保険ですね。」
ゆず子は驚いた。
「あら、彼氏も居るんだ?」
(へえ、見かけによらないのね…?)
名城はスマホを取り出すと、メッセージアプリの画面を見せてきた。
「星弥って言うんです。今、交換留学でカナダに行ってて、遠距離恋愛中なんです」
そこには、イマドキの若くてイケメンの男子の自撮り画像があった。
そして、数々の『早く会いたい』『次の長期休みで帰るよ』などのやり取りのメッセージも。
(静止画、では無いわね。やり取り画面スクロール出来るし、実際のみたい。…本物なのかな)
「あらまあ、随分カッコイイ子なのね。いつから付き合ってるの?」
「高校の卒業式からなので、1年近くになりますね。向こうから告白されたんです」
美男と芋女のカップルを不思議に思うも、先方が現地の学生の影響で垢抜けたとも考えられる。
ゆず子は感心しつつ、言った。
「こんなにイケメンだと心配にならない? 積極的な女子に狙われるとか」
「はははっ、それは無いですよ。彼、アニメオタクなんで二次元と私以外の女子に興味ないんです」
「あ、そうなの」
そういうものなのか、と考えるゆず子をよそに、名城はスマホを仕舞いつつ言った。
「そうそう、その婚活パーティーにですね、あの人が居たんですよ」
「あの人って?」
「今年30歳になる、可哀想な独身のお姉さんです。いくら年齢制限無いとは言え、30歳になってから慌てて婚活パーティーに出るとかって、なんて計画性に欠けた人生設計なんでしょうね?」
「誰? その人って」
「まだ分かりませんか? 厚島店長がお似合いなあの人ですよ」
「ああ、何かね。年末調整の件でネット株の嘘暴いてから、勝手に敵視してんの」
里木は名城の事を笑い飛ばした。さして気に留めても無さそうだ。里木は続けた。
「あの子、店で浮いていて『頭いいと疎外されるんです~』なんて言ってるけど、本当に頭いい子は通信制じゃなくて、一部の方を選ぶもんじゃん。
就活で企業からの受けがいいの、どっちなのか考えたらすぐ分かるし。すり寄る相手もあの店長選ぶし、考え方がおかしいっちゅーか…」
ゆず子は頷いて話を聞いた後、口を開いた。
「確かにね。若さゆえの未熟さが目立つかもしれないわね。そうそう、あの子イケメンの彼氏いるみたいね。見せてもらってびっくりしちゃった」
「へえ! 物好きさんが居るのね!! 写真あったんだ」
「適当に雑誌モデルの写真見せて来たかと思ったけど、メッセージアプリでちゃんとやり取りしてるのよ。人は見た目によらないのね」
「ふーん、今度見せてもらおうっと」
休憩時間の終わったらしい里木は、場を後にした。
(婚活をオープンにしてる人は居ても、全員じゃないだろうし。私から見て全然若くても、学生さんに囲まれてると思う所があるかもしれないよね)
ゆず子は婚活パーティーの話は、口にしなかった。
数日後。従業員トイレの掃除をしていると、名城がニヤニヤしつつやって来た。
「アナスティーマフィリアって、知ってますか?」
「え、ええ? 何でしょう?」
聞き取れずに戸惑うゆず子に、名城は得意げに語った。
「実は、週に1・2回、夕方にサラリーマンが店に来て、いつもお菓子買っていくんですよ。結構背が高くて、アラサーぐらいかな? まあまあイケメンで」
「ああ、常連さんが居るのね」
言いつつ、先に言った外来語を思い出そうとするゆず子へ、名城は続けた。
「その人、私がレジ打ちの時に限って来るんです」
「そうなんだ」
「何かネットで調べたら、アナスティーマフィリアって言う『身長差フェチ』って人が居るみたいで。私、152しかないからそれかもしれないと思って」
(ほほう、随分ポジティブなのね…)
愛想笑いを浮かべゆず子は言った。
「いいわね、常連さんが付くなんて」
「こないだの婚活パーティーも、声掛けて来たのは確かに背の高い人ばかりだったんですよね。星弥167しかないから、今まで背の高い人って範囲外だったんですよ~。見下ろされると怖いから。
でもあの人、あまり怖さを感じないって言うか。笑顔も品があるので」
「…乗り換えちゃう?」
とうとう面倒くさくなって返事したゆず子を気にせず、名城は続けた。
「うーん、どうしよっかな。恋愛経験乏しい人しか、身近に居ないから、誰に相談しよう? 推し友のグループSNS入ってるんですけど、みんな彼氏居ないしなぁ。
モテ期って人生で3回あるって言うけど、これがそれなのかな?」
名城は言いつつ、トイレに来たのに使う事無く何処かへ行った。
(あー。これ、完全に私を『話し相手』としてロックオンしたな…)
ゆず子は苦笑いで掃除を再開した。
翌週。従業員休憩室を掃除していると、名城がすり寄って来た。
「鳴瀬さん、私決めました」
「お疲れ様です。何かしたの?」
「やっぱり、星弥を裏切る事になるので、婚活パーティーで言い寄って来た人と、常連さんを切ります」
(切るも何も、連絡取り合ってたのかしら?)
ゆず子が返事しようとすると、先に口を開いた人物が居た。
「ああ、やっぱり婚活パーティー、行ってたんだ」
そこに居たのは、ラーメン店のパート従業員:末永だった。昼食なのか手製の弁当を食べている。
ハテナマークの浮かぶ2人に、末永が口の中の物を飲み込み、口を開く。
「うちの若い子が舞花ちゃんと仲良くて、この前一緒にパーティー行った時に、おたくを見たって言っててさ。
あなたまだ高校生? いっててハタチくらいでしょ、行く訳なくないって言ったんだけど、本当だったんだね」
ゆず子は末永に尋ねた。
「へえ、行った話聞いたんだ」
「うん。婚活パーティーに興味あるけど、怖いって話したら『友達の会社がやってるとこ、試しに行ってみよう』って言われて、行ったんだって。
『おかげで雰囲気とか流れとか、怪しい業者の見分け方教えてもらって為になった』って、喜んでてさ。おたくはどうだった?」
話を振られた名城は、うつむき加減で声も小さくなる。
「え…。何か、私には合わないと言うか…」
「そうなんだ。まあ、おたくにとっては年上しか居ないから、退屈だろうね」
「…あ、居た居た」
更にやって来たのは、里木。里木は名城に言った。
「厚島店長に報告してきて、訊いたら休憩だって言われたからさ。…えっとね、報告なんですけど、私、再来月にここを退職します。昨夜、入籍しました」
呆気に取られた3人だが、ゆず子を末永は間髪入れず拍手をした。
「「おめでとう!!」」
「どういたしまして」
照れくさそうに笑う里木に、末永は笑顔で言った。
「え、じゃああの味噌ラーメンが大好きな彼氏と? やったわね!」
「そうです。向こうの仕事の出向が終わるのに合わせて、地元に戻る事になりました」
ゆず子もニコニコで言った。
「えー、末永さんお相手知ってるの? どんな人? ねえねえ、馴れ初めは?」
「あのねえ、舞花ちゃんの夕方上がりに合わせてココに来て、一緒にラーメン食べて帰るんだよね。背が高くって笑顔が素敵なの」
「元々、地元の同級生で。何とも思ってなかったけど、こっちで再会して始まりました。付き合って2年ぐらいかな?」
時が止まっている名城に、里木は言った。
「ごめんねえ、驚かせて。初売り終わってから、有休消化に入るからね」
時の流れが再開した名城は、顔を強張らせつつ言った。
「…彼氏に内緒で婚活パーティー行ったんですか? それ、ヤバくないですか?」
「勿論、言ってあるよ。目的はハルキちゃんに体感してもらう事だったし」
名城は踵を返すと、険しい表情で振り返り言った。
「彼氏居るのに婚活パーティー行くような人に、私は祝福の言葉なんか言えません。期待しないで下さい!」
別の意味で呆気に取られるゆず子達を残し、名城は去って行った。
(あらあら、自分だって彼氏居るのに婚活パーティー行ったじゃない…)
「ああ彼氏っていうか夫、私の仕事上がり待つために、うちのお店で時間潰しよくしてたね。流石に気まずいから、私がメインでレジ打ちの時は買い物しなかったみたいだけど」
後日、ポジティブ変換した名城の話を伝える事なく、さり気なくゆず子が質問すると、里木はこう答えた。
「そうそう、鳴瀬さんこのアプリ知ってる?」
里木が表示したのはラブリーなアイコンのアプリ。里木は続けた。
「ハルキちゃんが遊んでたんだけど、『AIで仮想彼氏を作ってメッセージをやり取り出来る』ってゲームなんだよね」
「へえ、これって自動返信かなんかなの?」
「そうなの。好みの彼氏の特徴や性格とかを設定していくと、それっぽい男の子を合成して顔写真も作ってくれて、メッセージ送ると色々返してくれるんだって。
試しに遊んでみたら、思ったよりバリエーションあって面白かった。やってみる?」
(…何か、このメッセージ画面見た事あるかも?)
既視感を覚えつつ、ゆず子は笑って答えた。
「いいわ。ハマっちゃうと怖いから」
そして、名城と里木の話は最終章に続くのだつた。
床のモップ掛け中に話しかけてきたのは、バラエティ雑貨店学生アルバイトの名城礼佳。ゆず子の返事を待たず、名城は続けた。
「私、そういう人たちと違って、19歳だけど婚活パーティーに行ってみたんです。勿論、参加者の中で1番の最年少でした」
ゆず子は目を丸くした。
「へえ! 婚活パーティーに? 若いのに珍しいわね」
「主催者からも似たような事、言われました。最年少だったから、男性の方からいっぱい話しかけられましてね。所詮男性って、若い子に目が無いんですね。本能ってやつですかね?」
確かに名城は『若い女性』ではある。
でも寝癖か天然パーマか分からないクシャクシャのショートヘア、カサカサの唇に眉すら整えないスッピン、着ている服もシワシワだったり毛玉が目立つという、冴えない女子だ。
(『魅力』と言うより、物珍しがられての話しかけ、だろうなあ)
内心そう思うも、おくびにも出さずにゆず子は返した。
「モテモテだったのね。その年で結婚願望あるんだ?」
「勿論ですよ。どんなに頭良くて仕事出来たとしても、齢を重ねれば子供産めませんからね。勉強や仕事は、子供産んでからも出来ますから。若くに結婚して、子供もさっさと産む事が1番合理的な人生ですよ」
名城は得意げに言った。ゆず子は尋ねた。
「どうだった? 素敵な人、居た?」
すると名城はニヤニヤした。
「まあ、何人かキープの状態です。六大学卒、一部上場企業、経営者…色々居ましたけど、実は彼氏も居るんですよ。だからキープというか、保険ですね。」
ゆず子は驚いた。
「あら、彼氏も居るんだ?」
(へえ、見かけによらないのね…?)
名城はスマホを取り出すと、メッセージアプリの画面を見せてきた。
「星弥って言うんです。今、交換留学でカナダに行ってて、遠距離恋愛中なんです」
そこには、イマドキの若くてイケメンの男子の自撮り画像があった。
そして、数々の『早く会いたい』『次の長期休みで帰るよ』などのやり取りのメッセージも。
(静止画、では無いわね。やり取り画面スクロール出来るし、実際のみたい。…本物なのかな)
「あらまあ、随分カッコイイ子なのね。いつから付き合ってるの?」
「高校の卒業式からなので、1年近くになりますね。向こうから告白されたんです」
美男と芋女のカップルを不思議に思うも、先方が現地の学生の影響で垢抜けたとも考えられる。
ゆず子は感心しつつ、言った。
「こんなにイケメンだと心配にならない? 積極的な女子に狙われるとか」
「はははっ、それは無いですよ。彼、アニメオタクなんで二次元と私以外の女子に興味ないんです」
「あ、そうなの」
そういうものなのか、と考えるゆず子をよそに、名城はスマホを仕舞いつつ言った。
「そうそう、その婚活パーティーにですね、あの人が居たんですよ」
「あの人って?」
「今年30歳になる、可哀想な独身のお姉さんです。いくら年齢制限無いとは言え、30歳になってから慌てて婚活パーティーに出るとかって、なんて計画性に欠けた人生設計なんでしょうね?」
「誰? その人って」
「まだ分かりませんか? 厚島店長がお似合いなあの人ですよ」
「ああ、何かね。年末調整の件でネット株の嘘暴いてから、勝手に敵視してんの」
里木は名城の事を笑い飛ばした。さして気に留めても無さそうだ。里木は続けた。
「あの子、店で浮いていて『頭いいと疎外されるんです~』なんて言ってるけど、本当に頭いい子は通信制じゃなくて、一部の方を選ぶもんじゃん。
就活で企業からの受けがいいの、どっちなのか考えたらすぐ分かるし。すり寄る相手もあの店長選ぶし、考え方がおかしいっちゅーか…」
ゆず子は頷いて話を聞いた後、口を開いた。
「確かにね。若さゆえの未熟さが目立つかもしれないわね。そうそう、あの子イケメンの彼氏いるみたいね。見せてもらってびっくりしちゃった」
「へえ! 物好きさんが居るのね!! 写真あったんだ」
「適当に雑誌モデルの写真見せて来たかと思ったけど、メッセージアプリでちゃんとやり取りしてるのよ。人は見た目によらないのね」
「ふーん、今度見せてもらおうっと」
休憩時間の終わったらしい里木は、場を後にした。
(婚活をオープンにしてる人は居ても、全員じゃないだろうし。私から見て全然若くても、学生さんに囲まれてると思う所があるかもしれないよね)
ゆず子は婚活パーティーの話は、口にしなかった。
数日後。従業員トイレの掃除をしていると、名城がニヤニヤしつつやって来た。
「アナスティーマフィリアって、知ってますか?」
「え、ええ? 何でしょう?」
聞き取れずに戸惑うゆず子に、名城は得意げに語った。
「実は、週に1・2回、夕方にサラリーマンが店に来て、いつもお菓子買っていくんですよ。結構背が高くて、アラサーぐらいかな? まあまあイケメンで」
「ああ、常連さんが居るのね」
言いつつ、先に言った外来語を思い出そうとするゆず子へ、名城は続けた。
「その人、私がレジ打ちの時に限って来るんです」
「そうなんだ」
「何かネットで調べたら、アナスティーマフィリアって言う『身長差フェチ』って人が居るみたいで。私、152しかないからそれかもしれないと思って」
(ほほう、随分ポジティブなのね…)
愛想笑いを浮かべゆず子は言った。
「いいわね、常連さんが付くなんて」
「こないだの婚活パーティーも、声掛けて来たのは確かに背の高い人ばかりだったんですよね。星弥167しかないから、今まで背の高い人って範囲外だったんですよ~。見下ろされると怖いから。
でもあの人、あまり怖さを感じないって言うか。笑顔も品があるので」
「…乗り換えちゃう?」
とうとう面倒くさくなって返事したゆず子を気にせず、名城は続けた。
「うーん、どうしよっかな。恋愛経験乏しい人しか、身近に居ないから、誰に相談しよう? 推し友のグループSNS入ってるんですけど、みんな彼氏居ないしなぁ。
モテ期って人生で3回あるって言うけど、これがそれなのかな?」
名城は言いつつ、トイレに来たのに使う事無く何処かへ行った。
(あー。これ、完全に私を『話し相手』としてロックオンしたな…)
ゆず子は苦笑いで掃除を再開した。
翌週。従業員休憩室を掃除していると、名城がすり寄って来た。
「鳴瀬さん、私決めました」
「お疲れ様です。何かしたの?」
「やっぱり、星弥を裏切る事になるので、婚活パーティーで言い寄って来た人と、常連さんを切ります」
(切るも何も、連絡取り合ってたのかしら?)
ゆず子が返事しようとすると、先に口を開いた人物が居た。
「ああ、やっぱり婚活パーティー、行ってたんだ」
そこに居たのは、ラーメン店のパート従業員:末永だった。昼食なのか手製の弁当を食べている。
ハテナマークの浮かぶ2人に、末永が口の中の物を飲み込み、口を開く。
「うちの若い子が舞花ちゃんと仲良くて、この前一緒にパーティー行った時に、おたくを見たって言っててさ。
あなたまだ高校生? いっててハタチくらいでしょ、行く訳なくないって言ったんだけど、本当だったんだね」
ゆず子は末永に尋ねた。
「へえ、行った話聞いたんだ」
「うん。婚活パーティーに興味あるけど、怖いって話したら『友達の会社がやってるとこ、試しに行ってみよう』って言われて、行ったんだって。
『おかげで雰囲気とか流れとか、怪しい業者の見分け方教えてもらって為になった』って、喜んでてさ。おたくはどうだった?」
話を振られた名城は、うつむき加減で声も小さくなる。
「え…。何か、私には合わないと言うか…」
「そうなんだ。まあ、おたくにとっては年上しか居ないから、退屈だろうね」
「…あ、居た居た」
更にやって来たのは、里木。里木は名城に言った。
「厚島店長に報告してきて、訊いたら休憩だって言われたからさ。…えっとね、報告なんですけど、私、再来月にここを退職します。昨夜、入籍しました」
呆気に取られた3人だが、ゆず子を末永は間髪入れず拍手をした。
「「おめでとう!!」」
「どういたしまして」
照れくさそうに笑う里木に、末永は笑顔で言った。
「え、じゃああの味噌ラーメンが大好きな彼氏と? やったわね!」
「そうです。向こうの仕事の出向が終わるのに合わせて、地元に戻る事になりました」
ゆず子もニコニコで言った。
「えー、末永さんお相手知ってるの? どんな人? ねえねえ、馴れ初めは?」
「あのねえ、舞花ちゃんの夕方上がりに合わせてココに来て、一緒にラーメン食べて帰るんだよね。背が高くって笑顔が素敵なの」
「元々、地元の同級生で。何とも思ってなかったけど、こっちで再会して始まりました。付き合って2年ぐらいかな?」
時が止まっている名城に、里木は言った。
「ごめんねえ、驚かせて。初売り終わってから、有休消化に入るからね」
時の流れが再開した名城は、顔を強張らせつつ言った。
「…彼氏に内緒で婚活パーティー行ったんですか? それ、ヤバくないですか?」
「勿論、言ってあるよ。目的はハルキちゃんに体感してもらう事だったし」
名城は踵を返すと、険しい表情で振り返り言った。
「彼氏居るのに婚活パーティー行くような人に、私は祝福の言葉なんか言えません。期待しないで下さい!」
別の意味で呆気に取られるゆず子達を残し、名城は去って行った。
(あらあら、自分だって彼氏居るのに婚活パーティー行ったじゃない…)
「ああ彼氏っていうか夫、私の仕事上がり待つために、うちのお店で時間潰しよくしてたね。流石に気まずいから、私がメインでレジ打ちの時は買い物しなかったみたいだけど」
後日、ポジティブ変換した名城の話を伝える事なく、さり気なくゆず子が質問すると、里木はこう答えた。
「そうそう、鳴瀬さんこのアプリ知ってる?」
里木が表示したのはラブリーなアイコンのアプリ。里木は続けた。
「ハルキちゃんが遊んでたんだけど、『AIで仮想彼氏を作ってメッセージをやり取り出来る』ってゲームなんだよね」
「へえ、これって自動返信かなんかなの?」
「そうなの。好みの彼氏の特徴や性格とかを設定していくと、それっぽい男の子を合成して顔写真も作ってくれて、メッセージ送ると色々返してくれるんだって。
試しに遊んでみたら、思ったよりバリエーションあって面白かった。やってみる?」
(…何か、このメッセージ画面見た事あるかも?)
既視感を覚えつつ、ゆず子は笑って答えた。
「いいわ。ハマっちゃうと怖いから」
そして、名城と里木の話は最終章に続くのだつた。
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