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年末調整
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「年末調整の書類もらうと、今年ももうすぐ終わっちゃうって思うんですよね~」
カップ焼きそばを食べつつ言ったのは、バラエティ雑貨店従業員:里木。ゆず子も頷いた。
「分かる。『あれ?この前書いたばっかりなのに』って私も思うよ。で、年々その間隔が短くなってる気がするの」
齢を取ると1年が早い。子供は1年に新しい事を経験するから、思い出が多く発生しその分、1年を長く感じると聞く。
が、大人だってやる事や経験する事も多い。やる事が多いのに1年が早いとは、一体どういうシステムの不具合なのか。
そんなゆず子と里木の所に、バラエティ雑貨店:店長の厚島がやって来た。
「あー、休憩中の所すいませんね。里木さんの提出してもらった、年末調整の書類なんですけど…」
「え、何か間違えて…?」
ギョッとする里木に、厚島は両手で大きな丸を作った。
「その逆! 完璧ですね~」
その言葉に、里木は眉を少々ひくつかせた。
「あ、そうですか」
(店長、問題無いなら紛らわしい言い方しなくてもいいのに…)
ゆず子は里木の心情を汲み取り、苦笑する。厚島はこう言った。
「それで、良ければ学生さん達に、記入見本として里木さんのコレ、見せてあげたいんですね」
ゆず子と里木が呆気に取られた表情をすると、厚島は意外そうな顔をした。
「ん? だから、記入の仕方分からないって人に、コレ使って教えてあげたいんですよ」
「それはやめて貰えます?」
里木は眉をひそめて言った。厚島はキョトンとする。
「何で? よく出来てるのに」
「いや、コレ個人情報の塊ですよ。学生さんが悪用なんかする訳ないけど、個人情報を他の人に見せるの、嫌なんですけど」
「えー、ダメ?」
(おいおい…!)
思わずゆず子は口を挟んだ。
「店長さん、これ『他の人に教えちゃいけない』って前提のマイナンバーも住所も書いてあるじゃない? 色々厳しくなってる昨今なんだから、ちゃんと守った方がいいと思うよ」
「えー、コンプライアンスを盾にされちゃうと、守らざるを得ないよなあ。…分かりましたぁ」
厚島はすごすごと退散した。姿が見えなくなると、里木は憤慨した。
「何なのアイツ! 普通に考えておかしいじゃん!」
「本当よね。変わってるというか、何と言うか…」
厚島は、どこか『子供』というか『常識が1歩足りない』ところが見受けられる。
副店長の安川も『厚島さん、ここの店だから店長職どうにか出来てるけど、他店に行ったら絶対通用しないよ』と、酷評していた。
里木は言った。
「まあね、店長の言いたい事も分かるんですよ。今年何人か入った学生さんの1人は、バイト未経験の子だから、マイナンバー記入欄に自分の携帯番号を書いちゃったし」
「あら。『マイナンバー』って、そっちの番号?」
「そうなの。ちょっと微笑ましいけどね」
里木は苦笑いで返した。
別の日。ゆず子がバック通路の清掃業務をしていると、厚島が通りかかった。
「お疲れ様でーす」
「お疲れ様です」
「姐さん姐さん、ネット株って知ってます?」
厚島は謎の高いテンションでゆず子に話しかけてきた。
(何なの姐さんて…。株の話、勧誘か何かかしら)
「ネットも株もやらないから、分からないんだ」
ゆず子は牽制気味にそう答えると、厚島は笑顔でこう言った。
「そうですよね、自分もそうだったんですよ。うちの学生さんでね、19なのにネット株でかなりの額を儲けている子が居ましてね。ネット株ってすごいなあって思って」
「え、10代でもネット株を買う事って出来るの?」
「ええ、らしいですよ。勿論違法じゃないんです。その子いわく『ちょっと経済に興味があれば可能』なんですって! 頭いい子って違いますね~」
厚島は言うだけ言うと、その場を後にした。
「そちらのお店って、商品だけじゃなく、店員さんもユニークな人が多いんですね」
従業員休憩室で安川と会ったゆず子は、世間話がてらこう述べた。
「まあ、店長がああいう感じだからね。…もしやネット株の話でもされたの?」
安川の答えに、ゆず子は一瞬たじろぐも、尋ねた。
「ネット株?」
「何かさぁ、通信制大学に通う子が『ネット株始めたら1000万近く儲けた』って話をしてんのね。嘘か本当かは知らないけど、厚島さんは真に受けててその子に『すごいなあ』『出来る子だね~』ってべた褒めしてるんだ」
「へえ。ちなみに安川さんは、利益出たの本当だと思う?」
「俺? …いやぁ、どうだろ」
安川が苦笑いで首を竦めてみせた。
(あー、つまり『疑わしい』と思っているのね…)
ゆず子もつられて苦笑いになった。
ネット株は10代でも購入が可能で、手続きも簡単らしい。相場を見るコツを掴めば、年齢関係なく利益を得る事も可能だ。
(まあ、10代でも起業する子も居るって言うし…)
別の日、ゆず子がバック通路を掃除していると、厚島が誰かと立ち話しているのを見かけた。
「本当、名城さんはすごいですよねー! 今回のテストも満点ばかりですか!」
「いいえー、私いつもだいたい満点なんですよ。通信制行ったのも、全日制の授業がつまらないのが理由だったんです」
(『通信制』?…もしかして例の『ネット株で儲けた子』かしら)
チラッとその声の主である女性を観察すると、ボサッとしたショートカットに、黒いスエットの上下(毛玉が目立つ)、化粧っ気の無い若い女が居た。
(何か、いい意味で素朴、悪い意味で若いのに身だしなみ適当な子ね)
すると、バラエティ雑貨店の出入口の戸が開き、ゴミ袋を持った里木が出て来るのが見えた。
厚島が少し離れたとこから手招きして、声を上げる。
「里木さん、名城さんの今週の利益聞いた? プラス300万だって! 19歳にして資産1300万越えてるよ、すごくない?」
里木は無表情の後、パッと笑顔になって返した。
「へえ、すごいなあ。あたしもそんな大金持ってみたいなあ!」
名城はニヤニヤしつつ、小声で呟く。
「…まあ、そんなはした金、大金の内に入らないけどね」
(あら~、そういう子なのね)
聞こえてしまったゆず子がそう思うと、運搬しつつやって来た里木は厚島にこう言った。
「そう言えば、名城さんの年末調整ってもう提出したんですか?」
「年末調整? 名城さんはもうとっくに書いて、先週の内に本社に送ってあるよ?」
「そうですか。ちなみに名城さん、ネット株で1000万の利益出たのいつだっけ?」
里木が尋ねると、名城は当然の表情で答えた。
「先々週ですよ。言ってませんでしたっけ?」
「1000万のその所得って、ちゃんと記入した? ネット株だと『雑所得』。書いてないと『所得隠し』になるんだけど…」
里木の言葉に、厚島と名城の表情が凍る。里木は続けた。
「厚島店長は仲村くんの件で『記載ミスが無いか徹底しろ』って、マネージャーに厳重注意されたとこですから、勿論書類の見落としは無いですよね?」
「…え、うん。大丈夫、と思うよ」
厚島の目が泳ぐ。
(あらあら、店長…?)
里木は続けた。
「名城さんも勿論、大丈夫だよね? 1000万もの大金だもの、書かなかったら年齢関係なく一発で悪質って判断されるんだから、ちゃんと書いてるよね?」
「え…、勿論ですよ。あ、でも、記入時点だとまだ800万くらいしか利益出てなかったので『800万』で申告してますけどね!」
名城は挙動不審で答えた。里木は言った。
「それでも『800万』かぁ…。そうなると『親の扶養』から外れるよね、アレは『年間所得103万未満』だから。
『親の扶養』から抜ける場合って、また別に手続きしないといけないんですよね?」
「え⁈ そ、そうなの?」
厚島は口をあんぐりさせた。里木は深刻そうな表情をした。
「私、ネット株も年間1000万越える所得も無いのでわかりませんが、店長は名城さんから逐一収益の話、聞かされてたし、皆にも言うぐらいだから、てっきり…。
大丈夫なんですか? 名城さんもそんなに収益上げるくらいの手腕なのに、まさか知らなかったとか…?」
すると、名城は引き攣り笑いを浮かべた。
「まさか、知ってますよ。だから今日シフト入ってないのにここに来て、貰って無かった書類、貰いに来たんですよ!」
里木は、にこやかな笑みで言った。
「そうなんだ、じゃあ心配無いね! そういう学生さんこれまで居なかったし、厚島さん書類関係苦手だから、気になっていたんだよね。
じゃあ、私はこれで」
(ほ~う?)
里木が去った後、厚島と名城は深刻そうにコソコソ話すと、店舗裏に入って行った。
ゆず子が突き当りの角まで進むと、してやったりの表情の里木が隠れるようにそこに居た。
「…あいつら、物知らなすぎ! ウケる」
「自分、以前に2年ほど行政の臨時職員してた事あるんです。確定申告シーズンには年配の方の書類作成の手助けをやっていたんで、そういうの少し自信あるんです」
別日に会った里木は、ゆず子にそう言った。
「そうなのね…。あの後、大丈夫だった?」
「店長が本社に『意味不明』な質問した挙句、社会人を20年以上やってるのに年末調整の事、ちゃんと分かってないから更に怒られたみたいで、グチグチ文句言ってきました。
けど『収入の事を書くの年末調整だ、なんて一言も言ってない』って言い返したら黙ってしまいました」
「あらあら…」
「それに名城さん、結局利益7000円しか出てなかったみたいで!
『本当は7000円なので、書かなくても平気ですよね⁈』って、本社にテンパって電話したみたい。盛りすぎ~!!」
里木は大笑いしていた。
社会人を数年しかしてなくとも、得られる知識や経験はある。得手不得手関係なく、得たものが身に付くか否かで、その後の人生に差が出るのだ。
人生100年時代。齢を取ると新しい事が覚えにくくなるだろう。それでも、覚える努力を続ける事は重要なのである。
カップ焼きそばを食べつつ言ったのは、バラエティ雑貨店従業員:里木。ゆず子も頷いた。
「分かる。『あれ?この前書いたばっかりなのに』って私も思うよ。で、年々その間隔が短くなってる気がするの」
齢を取ると1年が早い。子供は1年に新しい事を経験するから、思い出が多く発生しその分、1年を長く感じると聞く。
が、大人だってやる事や経験する事も多い。やる事が多いのに1年が早いとは、一体どういうシステムの不具合なのか。
そんなゆず子と里木の所に、バラエティ雑貨店:店長の厚島がやって来た。
「あー、休憩中の所すいませんね。里木さんの提出してもらった、年末調整の書類なんですけど…」
「え、何か間違えて…?」
ギョッとする里木に、厚島は両手で大きな丸を作った。
「その逆! 完璧ですね~」
その言葉に、里木は眉を少々ひくつかせた。
「あ、そうですか」
(店長、問題無いなら紛らわしい言い方しなくてもいいのに…)
ゆず子は里木の心情を汲み取り、苦笑する。厚島はこう言った。
「それで、良ければ学生さん達に、記入見本として里木さんのコレ、見せてあげたいんですね」
ゆず子と里木が呆気に取られた表情をすると、厚島は意外そうな顔をした。
「ん? だから、記入の仕方分からないって人に、コレ使って教えてあげたいんですよ」
「それはやめて貰えます?」
里木は眉をひそめて言った。厚島はキョトンとする。
「何で? よく出来てるのに」
「いや、コレ個人情報の塊ですよ。学生さんが悪用なんかする訳ないけど、個人情報を他の人に見せるの、嫌なんですけど」
「えー、ダメ?」
(おいおい…!)
思わずゆず子は口を挟んだ。
「店長さん、これ『他の人に教えちゃいけない』って前提のマイナンバーも住所も書いてあるじゃない? 色々厳しくなってる昨今なんだから、ちゃんと守った方がいいと思うよ」
「えー、コンプライアンスを盾にされちゃうと、守らざるを得ないよなあ。…分かりましたぁ」
厚島はすごすごと退散した。姿が見えなくなると、里木は憤慨した。
「何なのアイツ! 普通に考えておかしいじゃん!」
「本当よね。変わってるというか、何と言うか…」
厚島は、どこか『子供』というか『常識が1歩足りない』ところが見受けられる。
副店長の安川も『厚島さん、ここの店だから店長職どうにか出来てるけど、他店に行ったら絶対通用しないよ』と、酷評していた。
里木は言った。
「まあね、店長の言いたい事も分かるんですよ。今年何人か入った学生さんの1人は、バイト未経験の子だから、マイナンバー記入欄に自分の携帯番号を書いちゃったし」
「あら。『マイナンバー』って、そっちの番号?」
「そうなの。ちょっと微笑ましいけどね」
里木は苦笑いで返した。
別の日。ゆず子がバック通路の清掃業務をしていると、厚島が通りかかった。
「お疲れ様でーす」
「お疲れ様です」
「姐さん姐さん、ネット株って知ってます?」
厚島は謎の高いテンションでゆず子に話しかけてきた。
(何なの姐さんて…。株の話、勧誘か何かかしら)
「ネットも株もやらないから、分からないんだ」
ゆず子は牽制気味にそう答えると、厚島は笑顔でこう言った。
「そうですよね、自分もそうだったんですよ。うちの学生さんでね、19なのにネット株でかなりの額を儲けている子が居ましてね。ネット株ってすごいなあって思って」
「え、10代でもネット株を買う事って出来るの?」
「ええ、らしいですよ。勿論違法じゃないんです。その子いわく『ちょっと経済に興味があれば可能』なんですって! 頭いい子って違いますね~」
厚島は言うだけ言うと、その場を後にした。
「そちらのお店って、商品だけじゃなく、店員さんもユニークな人が多いんですね」
従業員休憩室で安川と会ったゆず子は、世間話がてらこう述べた。
「まあ、店長がああいう感じだからね。…もしやネット株の話でもされたの?」
安川の答えに、ゆず子は一瞬たじろぐも、尋ねた。
「ネット株?」
「何かさぁ、通信制大学に通う子が『ネット株始めたら1000万近く儲けた』って話をしてんのね。嘘か本当かは知らないけど、厚島さんは真に受けててその子に『すごいなあ』『出来る子だね~』ってべた褒めしてるんだ」
「へえ。ちなみに安川さんは、利益出たの本当だと思う?」
「俺? …いやぁ、どうだろ」
安川が苦笑いで首を竦めてみせた。
(あー、つまり『疑わしい』と思っているのね…)
ゆず子もつられて苦笑いになった。
ネット株は10代でも購入が可能で、手続きも簡単らしい。相場を見るコツを掴めば、年齢関係なく利益を得る事も可能だ。
(まあ、10代でも起業する子も居るって言うし…)
別の日、ゆず子がバック通路を掃除していると、厚島が誰かと立ち話しているのを見かけた。
「本当、名城さんはすごいですよねー! 今回のテストも満点ばかりですか!」
「いいえー、私いつもだいたい満点なんですよ。通信制行ったのも、全日制の授業がつまらないのが理由だったんです」
(『通信制』?…もしかして例の『ネット株で儲けた子』かしら)
チラッとその声の主である女性を観察すると、ボサッとしたショートカットに、黒いスエットの上下(毛玉が目立つ)、化粧っ気の無い若い女が居た。
(何か、いい意味で素朴、悪い意味で若いのに身だしなみ適当な子ね)
すると、バラエティ雑貨店の出入口の戸が開き、ゴミ袋を持った里木が出て来るのが見えた。
厚島が少し離れたとこから手招きして、声を上げる。
「里木さん、名城さんの今週の利益聞いた? プラス300万だって! 19歳にして資産1300万越えてるよ、すごくない?」
里木は無表情の後、パッと笑顔になって返した。
「へえ、すごいなあ。あたしもそんな大金持ってみたいなあ!」
名城はニヤニヤしつつ、小声で呟く。
「…まあ、そんなはした金、大金の内に入らないけどね」
(あら~、そういう子なのね)
聞こえてしまったゆず子がそう思うと、運搬しつつやって来た里木は厚島にこう言った。
「そう言えば、名城さんの年末調整ってもう提出したんですか?」
「年末調整? 名城さんはもうとっくに書いて、先週の内に本社に送ってあるよ?」
「そうですか。ちなみに名城さん、ネット株で1000万の利益出たのいつだっけ?」
里木が尋ねると、名城は当然の表情で答えた。
「先々週ですよ。言ってませんでしたっけ?」
「1000万のその所得って、ちゃんと記入した? ネット株だと『雑所得』。書いてないと『所得隠し』になるんだけど…」
里木の言葉に、厚島と名城の表情が凍る。里木は続けた。
「厚島店長は仲村くんの件で『記載ミスが無いか徹底しろ』って、マネージャーに厳重注意されたとこですから、勿論書類の見落としは無いですよね?」
「…え、うん。大丈夫、と思うよ」
厚島の目が泳ぐ。
(あらあら、店長…?)
里木は続けた。
「名城さんも勿論、大丈夫だよね? 1000万もの大金だもの、書かなかったら年齢関係なく一発で悪質って判断されるんだから、ちゃんと書いてるよね?」
「え…、勿論ですよ。あ、でも、記入時点だとまだ800万くらいしか利益出てなかったので『800万』で申告してますけどね!」
名城は挙動不審で答えた。里木は言った。
「それでも『800万』かぁ…。そうなると『親の扶養』から外れるよね、アレは『年間所得103万未満』だから。
『親の扶養』から抜ける場合って、また別に手続きしないといけないんですよね?」
「え⁈ そ、そうなの?」
厚島は口をあんぐりさせた。里木は深刻そうな表情をした。
「私、ネット株も年間1000万越える所得も無いのでわかりませんが、店長は名城さんから逐一収益の話、聞かされてたし、皆にも言うぐらいだから、てっきり…。
大丈夫なんですか? 名城さんもそんなに収益上げるくらいの手腕なのに、まさか知らなかったとか…?」
すると、名城は引き攣り笑いを浮かべた。
「まさか、知ってますよ。だから今日シフト入ってないのにここに来て、貰って無かった書類、貰いに来たんですよ!」
里木は、にこやかな笑みで言った。
「そうなんだ、じゃあ心配無いね! そういう学生さんこれまで居なかったし、厚島さん書類関係苦手だから、気になっていたんだよね。
じゃあ、私はこれで」
(ほ~う?)
里木が去った後、厚島と名城は深刻そうにコソコソ話すと、店舗裏に入って行った。
ゆず子が突き当りの角まで進むと、してやったりの表情の里木が隠れるようにそこに居た。
「…あいつら、物知らなすぎ! ウケる」
「自分、以前に2年ほど行政の臨時職員してた事あるんです。確定申告シーズンには年配の方の書類作成の手助けをやっていたんで、そういうの少し自信あるんです」
別日に会った里木は、ゆず子にそう言った。
「そうなのね…。あの後、大丈夫だった?」
「店長が本社に『意味不明』な質問した挙句、社会人を20年以上やってるのに年末調整の事、ちゃんと分かってないから更に怒られたみたいで、グチグチ文句言ってきました。
けど『収入の事を書くの年末調整だ、なんて一言も言ってない』って言い返したら黙ってしまいました」
「あらあら…」
「それに名城さん、結局利益7000円しか出てなかったみたいで!
『本当は7000円なので、書かなくても平気ですよね⁈』って、本社にテンパって電話したみたい。盛りすぎ~!!」
里木は大笑いしていた。
社会人を数年しかしてなくとも、得られる知識や経験はある。得手不得手関係なく、得たものが身に付くか否かで、その後の人生に差が出るのだ。
人生100年時代。齢を取ると新しい事が覚えにくくなるだろう。それでも、覚える努力を続ける事は重要なのである。
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