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二話「ジョブ:ホスト」
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異世界に迷い込み、人間種専門の案件斡旋所である「ギルド」に案内されたルイはどこか気楽にギルドの内装をぐるっと一周見回していた。ベースは石造りで、一部木材が使用されている。なんだかド〇クエやら、そのあたりのゲームの世界みたいでちぐはぐな印象を受けたルイだったが、リリアの「ちゃんと話を聞きなさい」という説教で現実に引き戻された。
「ふぅん、人間で間違いはなさそうだし、こりゃ異邦人だな」
老人めいた男は長くのばされた白いひげを指先に絡めながら呟いた。この男はスキル鑑定師と呼ばれる者らしく、リリアはルイの首根っこを引っ張ってこの男の前に引きずり出した。
「さっきそこで拾ったのよ、私初めて見たわ、異邦人」
「まぁ、この異邦人保護課は閑古鳥が鳴いとるからのぉ」
ギルドの受付はいくつかのブースに分かれていて、現代のハローワークや市役所を彷彿させるような雰囲気だ。異邦人は一応珍しいらしく、レアジョブやスキルを保有している可能性が高いことから、このローザリア王国では保護対象となりしばらくの間生活に困らないよう一定額の給付金が支給されるそうだ。ルイも例外ではなく、給付対象となった。
ひと月に十五万ゴールド、なんとか節約すれば生活には困らない額だとリリアは語った。さらにこちらでの生活基盤を整えるために最初の申請月は四十万ゴールドという太っ腹具合だ。
この申請は国営ギルドを通して行われる。ギルドは種族によって分けられ、各種族に向いた案件を国で管理し各ギルドに斡旋する。人間種であるルイは取りあえずのところ人間種ギルド所属の申請を行うべく、ジョブ・スキル鑑定を受けなければいけないためこの白髭の前に座らされている。
「なぁじぃさん。俺これからどうしたらええん?」
「ジョブ次第じゃな。異邦人は勇者や魔導士、そんなレアなジョブのやつが多いからのぉ、お前さんもそんなところじゃろ」
「勇者!? ムリやろマジで」
「かぁぁぁぁぁぁぁぁぁつ!!!!!! 鑑る前からそんなんでどうするんじゃ! 早く手を出すのだよ!!!!」
「クリスさん、流石にまだこの世界に慣れてないひとにそれはちょっと」
急に大声を出したクリスに驚いて椅子から飛び上がったるいた、一瞬だけ宙に浮いて再び椅子の上に着地した。
「なんやこのじぃさんクソ怖いねんけど!」
「悪い人じゃないんだけどね……久しぶりの異邦人にテンション上がってるのかしら?」
「そんなんで俺しばかれる勢いやったん? 怖すぎやろ」
「まぁ早くジョブとスキル見てもらいなよ、じゃないと何も始まらないし」
リリアに促されて右手を恐る恐るクリスの前に出したが、ルイの予想は的中し、握力ゴリラじゃないかと突っ込みたくなるほどの力で握り締められた。
「いだぁだだだだだだだだ」
「黙れ!」
「理不尽ーーーあーーーっ!」
痛みに耐えること数秒間、ルイの目の前にはいわゆるゲームなんかでおなじみのステータス画面が現れた。いくらオタクコンテンツに疎いとはいえど、ルイも幼少期は友人らとポケ〇ンやス〇ブラに勤しんでいた。目の前に浮かび上がった謎の文字の羅列がゲームでよく見るあれだということは理解できた。
鑑定自体は無事に終わったようで、ルイの右手は握力ゴリラから解放された。しかし、クリスとリリアはどこかすっきりしない様子でステータス表示を眺めていた。
「ちょいちょい、なんで俺の鑑定なのに俺だけ置いてけぼりなわけ?」
「いや、あの」
「な、なんじゃこのジョブは……?」
自身のステータス画面に視線を落としたルイは、ひとつずつ情報を拾っていく。
「えーっと、レベルは一、出身はニホン……職業、ホスト」
ルイがそう言い放った途端、リリアとクリス首を傾げながらさらにルイのステータスから目を離そうとはしなかった。
「ホストって、何……? そんなジョブあったのね」
「わしも初めてじゃ、ホストとは、なんじゃ」
「ホストはホストっすよ! スキルは……飲料の生成?」
「なにこれ、レアとか以前に意味が分からないわ」
「え、この世界ってホストってないんすか?」
困惑を通り越した様子のリリアと、平常テンションのルイは対照的だった。元来楽観的でアホなルイはそもそもこの世界にホストという職業が存在していないと予想することは不可能だった。だって彼はホストである。いくらまだ四か月といえどミナミでしごかれて、路上キャッチで無視されることや暴言を吐かれることには慣れている。何より肝だけは妙に座っているのだ。
そんなルイが、この世界にホストというジョブが存在しないと言われたところで、彼がホストを辞める理由にはならない。
――え、ホストがないなら、俺が作ればいいやん!
「でも実際ジョブんとこにホストって書いてるし、俺ホストやるで」
ルイの瞳には頭のネジが数本足りていないことを忘れさせるほどの情熱が宿っていた。ホストとして異世界でやっていこう、なんて高尚な意志が彼に存在しているかどうかは不明だが、現時点ではホストをやらないという選択肢はルイの脳内に存在していない。
「なんか変なの拾っちゃったかも……」
「リリア、お前も災難じゃな」
川崎信彦、源氏名「ルイ」
異世界でも職業「ホスト」
ローザリア王国初のホストが誕生した瞬間でもあり、この先のことはまだ誰も知る由もなかった。
「ふぅん、人間で間違いはなさそうだし、こりゃ異邦人だな」
老人めいた男は長くのばされた白いひげを指先に絡めながら呟いた。この男はスキル鑑定師と呼ばれる者らしく、リリアはルイの首根っこを引っ張ってこの男の前に引きずり出した。
「さっきそこで拾ったのよ、私初めて見たわ、異邦人」
「まぁ、この異邦人保護課は閑古鳥が鳴いとるからのぉ」
ギルドの受付はいくつかのブースに分かれていて、現代のハローワークや市役所を彷彿させるような雰囲気だ。異邦人は一応珍しいらしく、レアジョブやスキルを保有している可能性が高いことから、このローザリア王国では保護対象となりしばらくの間生活に困らないよう一定額の給付金が支給されるそうだ。ルイも例外ではなく、給付対象となった。
ひと月に十五万ゴールド、なんとか節約すれば生活には困らない額だとリリアは語った。さらにこちらでの生活基盤を整えるために最初の申請月は四十万ゴールドという太っ腹具合だ。
この申請は国営ギルドを通して行われる。ギルドは種族によって分けられ、各種族に向いた案件を国で管理し各ギルドに斡旋する。人間種であるルイは取りあえずのところ人間種ギルド所属の申請を行うべく、ジョブ・スキル鑑定を受けなければいけないためこの白髭の前に座らされている。
「なぁじぃさん。俺これからどうしたらええん?」
「ジョブ次第じゃな。異邦人は勇者や魔導士、そんなレアなジョブのやつが多いからのぉ、お前さんもそんなところじゃろ」
「勇者!? ムリやろマジで」
「かぁぁぁぁぁぁぁぁぁつ!!!!!! 鑑る前からそんなんでどうするんじゃ! 早く手を出すのだよ!!!!」
「クリスさん、流石にまだこの世界に慣れてないひとにそれはちょっと」
急に大声を出したクリスに驚いて椅子から飛び上がったるいた、一瞬だけ宙に浮いて再び椅子の上に着地した。
「なんやこのじぃさんクソ怖いねんけど!」
「悪い人じゃないんだけどね……久しぶりの異邦人にテンション上がってるのかしら?」
「そんなんで俺しばかれる勢いやったん? 怖すぎやろ」
「まぁ早くジョブとスキル見てもらいなよ、じゃないと何も始まらないし」
リリアに促されて右手を恐る恐るクリスの前に出したが、ルイの予想は的中し、握力ゴリラじゃないかと突っ込みたくなるほどの力で握り締められた。
「いだぁだだだだだだだだ」
「黙れ!」
「理不尽ーーーあーーーっ!」
痛みに耐えること数秒間、ルイの目の前にはいわゆるゲームなんかでおなじみのステータス画面が現れた。いくらオタクコンテンツに疎いとはいえど、ルイも幼少期は友人らとポケ〇ンやス〇ブラに勤しんでいた。目の前に浮かび上がった謎の文字の羅列がゲームでよく見るあれだということは理解できた。
鑑定自体は無事に終わったようで、ルイの右手は握力ゴリラから解放された。しかし、クリスとリリアはどこかすっきりしない様子でステータス表示を眺めていた。
「ちょいちょい、なんで俺の鑑定なのに俺だけ置いてけぼりなわけ?」
「いや、あの」
「な、なんじゃこのジョブは……?」
自身のステータス画面に視線を落としたルイは、ひとつずつ情報を拾っていく。
「えーっと、レベルは一、出身はニホン……職業、ホスト」
ルイがそう言い放った途端、リリアとクリス首を傾げながらさらにルイのステータスから目を離そうとはしなかった。
「ホストって、何……? そんなジョブあったのね」
「わしも初めてじゃ、ホストとは、なんじゃ」
「ホストはホストっすよ! スキルは……飲料の生成?」
「なにこれ、レアとか以前に意味が分からないわ」
「え、この世界ってホストってないんすか?」
困惑を通り越した様子のリリアと、平常テンションのルイは対照的だった。元来楽観的でアホなルイはそもそもこの世界にホストという職業が存在していないと予想することは不可能だった。だって彼はホストである。いくらまだ四か月といえどミナミでしごかれて、路上キャッチで無視されることや暴言を吐かれることには慣れている。何より肝だけは妙に座っているのだ。
そんなルイが、この世界にホストというジョブが存在しないと言われたところで、彼がホストを辞める理由にはならない。
――え、ホストがないなら、俺が作ればいいやん!
「でも実際ジョブんとこにホストって書いてるし、俺ホストやるで」
ルイの瞳には頭のネジが数本足りていないことを忘れさせるほどの情熱が宿っていた。ホストとして異世界でやっていこう、なんて高尚な意志が彼に存在しているかどうかは不明だが、現時点ではホストをやらないという選択肢はルイの脳内に存在していない。
「なんか変なの拾っちゃったかも……」
「リリア、お前も災難じゃな」
川崎信彦、源氏名「ルイ」
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