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第9話 ステータス

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「・・・・・・ところが、妾が封印されてからは、『七つの大罪』以外は愚かなバカ共のせいで世界に散らばってしまった。覇王具は危険じゃ。心なき者達が使えば、なかなかにヤバいことになる。」

「え、でも今は大半がユステイツが管理してるからその心配はないだろ?」

「ばかもん、ユステイツは全魔族を滅ぼすことを最終目的としておるのじゃぞ? 我が覇王具で民草を殺される可能性だって大いにあるのじゃ。故に、妾は覇王具を全て取り返す。・・・・・・妾の目的は、全て話したぞ?」

「えーっと・・・・・・」

 頭をかきながら目をそらす。

 どうしよう。

 本当にどうしよう。

 エアリの考えていることは特にイカレてはいない。民の身の安全を心配するのは王様として当然だろうしね。

 ・・・・・・だが、問題は人族の中で最大規模の国を相手にすると言うことだ。

 もし、僕がエアリの味方であることがユステイツにバレたら、非常にアカンことになる。

 裏切り者のレッテルを貼られ、絞首刑台まっしぐらだ。

 こんなやりとりをするのは3回目だけど、具体的な目的を聞いたら、さらに恐怖が増してきた。うん、普通に死ぬだろコレ。

「・・・・・・あのーもし断ったら?」

「泣くぞ。」

 真顔で言われた。

「泣いてやる、妾は年相応の女子のようにびーびー泣くぞ。」

「おまえ外見年齢13歳くらいだろ!? びーびー泣くなや!」

 がばっっと足にしがみついてきたエアリを、必死に引きはがしにかかる。

「しょうがないではないか! ここは妾の国からもんのすごく離れておるし! 頼れるヤツは蛍しかおらんのじゃ! どんな手を使っても協力してもらわなくては困るのじゃ! それに、願いも叶えてやったであろう!?」

 筋力値は僕の方が上の筈なのに、エアリはがっちり腕を回して、簡単にはがれない。

 て言うか、先程から何か当たっているんですけど!?

「願いってったて、エアリって呼び捨てOKってだけだろ!? そんなケチ臭いことで命張れるかい!」

「お主は死なぬ! 妾が守るからの!」

「エヴァネタ!?」

 そうか、アニメはこの世界にも浸透しているのか・・・・・・

「・・・・・・ぐぬぬ、強情な奴め。王たる妾の言うことが聞けんというのか。」

「涙目ですがりついてくる王様って聞いたことねえよ・・・・・・」

「びええええええええん!」

「泣くなー!」

 予告通り泣き出したエアリに、酷く狼狽した。

 女の子を泣かせたとかそんなことではない。

 問題は、エアリの音量だ。

 こいつ、泣くときの声がものすげーうるさい。

 絶対、外に聞こえている!

「お願いじゃあ~! えっぐひっぐ、何でもするから~!」

「オイィィィィィィィィィ! なんかヤバいことみたいに聞こえるから黙れえェェェェェェ!」



 数分後。



 結局、根負けした。

 優柔不断だの流されやすいだの、前の世界で妹に言われてたけど、今回ばかりはそれを否定できないな・・・・・・

「・・・・・・分かったよ。協力してやる。」

「本当か!?」

 ぱあっとエアリの表情が輝いた。

「本当本当・・・・・・断り続けてたら一生ひっついたままのような気がしたからな。」

「ふっふっふ、分かっておるではないか。」

「自慢すんな。腕を組むな。不敵に笑うな!」

 そういうのは強敵に立ち向かうとか、そんなシリアスなシチュエーションでするものであって、駄々をこねた後にするものでは断じてない。

「でも、さすがに条件はつけるぞ。」

 折れたとは言え、僕にも絶対に譲れないものはある。

「ほほう? なんじゃ言うてみい。」

「僕は人族の捕虜として表向きでは扱って欲しい。」

「は?」

 ぽかんと、エアリは口を呆けた顔で開けている。

 虫入るぞー?

「僕が捕まっても、捕虜扱いだったら、要するに脅されて協力してましたーってことになったら一応、僕の身の安全は確保されるだろ?」

 少し、いやかなりクズい条件だが、こればっかりはしょうがないよな。

 我が身大事。

「ふむう・・・・・・まあそれくらいは致し方ないの。合い分かった、お主に万が一のことがあったら、捕虜という形で扱えば良いのじゃな。ふふ、蛍。お主も、悪よのぉ。」

「いやいや、エアリ様程では・・・・・・」

「ふっふっふ。」

「へっへっへ。」

 と、どこぞの悪代官と、そいつに賄賂を渡す商人の会話みたいになっていた。

「さて、お主を完全に引き入れたのはいいんじゃが、ここで少し困ったことがあるんじゃ。」

「はい? 困ったこと?」

 うむ、とエアリは首肯した。

「困ったことばかりじゃ。困ったことしかない。困らないことが無くて困っちゃう~みたいな感じじゃ。」

 何回困った言うつもりだ?

「その1は、活動するための資金じゃ。」

 やっぱり金か。

 まあ予想はしていたけど。

「そうだな。金無くちゃ何も出来ないし。」

 残念ながら、僕は自分のことで精一杯な状態なので、この件に関しては余り力になれそうもない。

「あ、でもさ、エアリが高難度のクエストをこなしていけば、かなり良い稼ぎにはなるんじゃないかな。」

「そんなこと知っとるわ。問題は、お主なんじゃよ。蛍。」

「僕?」

 びしっと指されても、心当たりが無い。

「これは困ったことその2なんじゃが、それは蛍、お主の冒険者としての実力じゃ。お主の今のステータスではのう・・・・・・なかなかに難しいぞ?」

「ぐっ・・・・・・」

 痛いところを突かれた。

 今の僕のステータスは、 筋力D(24) 耐久E(13) 敏捷C(41) 魔力E(5) 幸運D(12) 知力B(74)と、お世辞にも強いとは言えない。

 ステータスを上昇させるには、モンスターを倒すか、身体を鍛えるかの2通りあって、効率が良いのは強いモンスターを狩ることなんだけど、小型モンスターを狩ってばっかりの僕はそこまで上昇していないのだ。

「・・・・・・ていうか、エアリだってそこまで強くないだろ? 人のこと言えないじゃないか。」

「妾には覇王具があるからいいんじゃ! それに妾の場合、もう限界が来てしまっているしの、これ以上の上昇は望めんのじゃ。」

 ステータスが上がるからと言って、それにも限界がある。

 その限界には個人差があるが、エアリはそれに達してしまっているらしい。

「じゃが、妾は武具強化スキルと達人スキルを持っておるぞ? それで十分じゃ。」

「うそだろ!? 両方、稀少スキルじゃん!」

「本当じゃ、ほれ見てみよ。」

 エアリから手渡されたメモリアの画面を眺める。 



エアリーズ・ソルレヴェンテ 

 種族 魔族・夢魔

 クラス 魔王

 レベル5

 筋力E(14) 耐久E(12) 敏捷C(42) 魔力D(31) 幸運A(94) 知力C(60) 

 武具強化スキル 自身の武器の威力を数倍に跳ね上がらせることが出来るスキル

 達人スキル 1回も扱ったことの無い武器を使いこなすことが可能になるスキル。これは、数多の武器の修練をした者に発現する

 幻惑スキル  夢魔の共通スキル、エロい夢は元よりショック死するレベルの悪夢を見せることができる。幻を見せることが出来ないので、夢魔としてはあまりこの能力は高いとは言えない。



「うへー・・・・・・」

 驚きが過ぎて言葉も出ない。

 ステータスは僕の方が上なのに、スキルは圧倒的に敗北している。しかもさらっと、レベルが最高の5だし。

 僕が持ってるのは、隠密スキルと逃げ足スキル、そして短剣スキルという、今ひとつぱっとしない者ばかりだ。

「そうかの? 逃げ足スキルは逃げるときのみ敏捷がAに上昇するやつじゃろ? かなり便利ではないか。」

「それはそうなんだけどさあ・・・・・・」

 逃げ足スキルを発現させるのは簡単、モンスターから何回も逃げるだけ。そのような条件のため、冒険者の恥スキルトップ3に食い込んでいる代物だ。

「ま、お主のステータスは中々に伸びしろがありそうじゃ。明日から、妾がみっちり鍛えてやるわい。」

「はい?」

 な、なんだろう、この背筋を這い回るような嫌な予感は・・・・・・!

「蛍、明日から、歯ごたえのあるモンスターを討伐してもらうぞ!」

「嫌だ。」

 予想通りの言葉を、タイムラグゼロで撃墜した。

「駄目じゃ。」

 と思ったら今度はこっちが撃墜。

「やっぱそういうのは、もう少し易しめのクエストで地道にやっていったほうが良いと思うんだけど・・・・・・」

 ささやかな抵抗を試みるが、やる気マックスの魔王様の耳には届かない。

「甘い! お主も妾の臣下ならば、それくらいは耐えないと務まらんぞ!」

今にも竹刀を取り出しそうな勢いのエアリは、再びベッドに飛び乗ると、僕をにらみ据え、宣言した。

「覇王具の回収の第一段階として、お主を午の月までにレベル2に上げる。覚悟いたせ? 妾はなかなかに厳しいぞ?」

 うひゃー!

 と、悲痛な叫びが夜の宿にこだました。

 ……次回から、スポ根ものになります。(泣)
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