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トラウマを超えて

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  一度だけにとどまらず、何度も何度も執拗に叩き付ける。

 壁に罅が入る程に。

「テメェ……いい加減にしやがれよ! 俺の天使を離しやがれ!」

『妾の天使じゃぞ!』

「それじゃあ間を取って二人の天使でどうだ!」

『異議なし!』

 奴は今シャイタに気を取られている。

 役割があべこべになっているが、そこは臨機応変に対応するのができる冒険者って奴だ。

 見てろよ俺の活躍を――!

 ぶちぃっ

「『はい?』」

 触手がちぎれた。

 誰がちぎった?

 俺とエテルノではない。

 ミシルでもない。

 あいつはやるべきことがあるとかほざいて、アナグマを決め込んでいる真っ最中だ。

 では誰かなんて、考えるまでも無い。

「ふう……すごいぞ。なかなかの威力だ。やはりミシルのゴーレムには毎回驚かされるな」

 シャイタが、これくらいのことでやられる訳がない。

  俺としたことが、こんな簡単なことを失念してたなんてな。

 ぬかったぜ。

 機械に自我は無いはずだが、ミシルデストロイが僅かにたじろいだように見えた。

 そりゃそうか。

 普通だったら死んでもおかしくないくらいのダメージだ。

 が、シャイタは普通じゃない。

 あれくらいデコピンを食らった程度のダメージしか無いんだろうな。

 いや、俺は分かってましたよ?

  慌てたように見えたのはあれだから、演出だから。

「打ってもだめなら斬って見ろ、か……よし。作戦変更だ千草。触手は私が対処する。おまえが核を斬ってくれ」

「お、オーケイ。任せとけ!」

 シャイタの頼みは断らない主義だからな。

『勝算はあるのじゃ?』

「知ラネ」

『不安じゃ……』

 殺到する触手を、シャイタは難なくさばいていく。

 巻き付こうものなら引きちぎり、貫かんとすれば爪で抉り飛ばす。

「こっちもうかうかしてらんねえな……!」

 腰を落とし、獣の構えをとる。

 地を蹴り、ミシルデストロイ向かって駆けだした。

 まだ気付かれていない。

 跳躍。

 一撃で決めてやるよ――!

『あ、これビームも撃つんで気をつけでくださいねー』

 細い閃光が、脾腹を貫いた。

「ぎっ……」

 それを、早く、言いやがれよ……!

 体勢が崩れる。

 さらにミシルデストロイのコアが赤く煌めいた。

 あ、マズい。

 心臓を打ち抜かれれば詰む――

『――咲き誇れ!』

 眼前に展開された氷の花が、ミシルデストロイの光線を受け止めた。

 エテルノの精霊術……!

 こんな使い方もあるのか。

『ギリギリまで妾が維持する。消えた瞬間技を叩き込むのじゃ!』

「オーケイ……!」

 ミシルデストロイは次々と光線を打ち出すが、すべてエテルノの盾に阻まれた。

 距離が二メートルまで縮まったところで、盾が霧散しその魔力はすべて氷竜エテルノの刀身に集まった。

「あばよなんちゃらブルーメもどき! 俺のトラウマごと砕け散れ!」

 四宮流鳥ノ型――!

  初撃の回転切りで外装を切り裂く。

 ブヨブヨと傷を埋めようとするが、すぐに凍ったのでそれは敵わない。

 そして、もう一撃。

 回転した勢いを乗せた渾身の突きを、コアにたたき込む――!

「――偽籠鳥逸出プロラプスレイド!」

 外装とは異なる、確かな手応え。

 ガラスが割れるような音と共に、コアは砕け散った。
 
 本体を失った巨体は崩れ落ち、触手も無造作に地面に投げ出される。

 着地した俺は、そのまま地面に体を投げ出した。

「ふぃーっ、うまくいったな」

 ビーム撃たれた時にはもうダメかと思ったが、エテルノの盾のおかげで勝つことが出来た。

「やったな千草。素晴らしい剣技だったぞ」

「お褒めにあずかり光栄です……つかこれ、シャイタが爪で抉ったら良かったんじゃ無いか?」

「だが、千草は触手が苦手なのだろう? 今回は私が触手を担当するのが最善手だったと思うぞ」

 う、確かにそうかもしれない。

 服の下では冷や汗ダラダラ鳥肌ブツブツだったからな。

「シャイタは大丈夫だったのか? 何度も打ち付けられてたけど」

「なに、少し骨に罅が入ったくらいだ。どうということはない」

「快活に言ってるが、普通に大怪我な件について。あんま無理すんなよ? 俺みたいにすぐ修復できる訳じゃないんだから」

 ビームで撃ち抜かれた傷は既に完治しているが、内臓が焼ける感覚はしばらく味わいたくないもんだ。

 と、エテルノが倒れている俺を扇子でつついた。

「千草千草。妾に何か言うことがあるのではないかの?」

「おまえ結構大人なパンツ履いてんだな」

「ぶっ殺すぞ愚物が!」

 うがあと食ってかかられた。

 大方、さっき使った精霊術のことだろう。

「魔力を凍らせ作った氷の盾か……高位の防壁魔法にも引けを取らない防御力とは、さすがだなエテルノ」

「ふっふん、そうじゃろう? すごいじゃろ妾」

 よしよしとエテルノ頭をなでるシャイタ。

 まるで姉妹のような光景だが、年齢的にはシャイタの方がぶっちぎりで年下だ。

 やっぱり精神は外見に引っ張られるものなかもな。

 そんなことを考えてると、風呂敷に色々詰め込んで往年のドロボースタイルになったミシルが、ラボから飛び出してきた。

「逃げますよ皆さん!」

「は? もうこいつ倒したんだし、逃げる必要なくね? もう少しのんびりしてもいいだろ」

「こいつを倒したからですよ!」

 どういうことだ?

「ミシルデストロイの敗北は、このラボの終わりを意味します! 敵に奪われるならばと盛大に自爆するプログラムがミシルデストロイには搭載されているんですとも!」

「……つまりこのままじゃ?」

「全員まとめてドカーンですとも。さながら新ルパン三世の最終回のごとし!」

 合図もしてないのにみんな揃って逃げ出した。

 が、俺の体はぐらりと揺れ、地面に倒れた。

 力が入らない。

 そう言えば、あの氷の盾って俺の魔力を使ったものだよな。

 エテルノの精霊術は協力だが、魔力を食うデメリットを抱えている。

 もしあの盾が、予想を上回る魔力だとしたら……

「じゃああああ!? なんじゃこれはぁ!」

 はて、なんでエテルノまで?

 見てみれば、エテルノの足下にはミシルデストロイの触手が絡みついていた。

 いやどういうことだ!?

 触手って本体倒しても動くのかよそんなの聞いてねえぞ!

「千草ああああああ!」

「お、落ち着け! 取り乱したら逆効果だ……ってぎゃー! こっちにも絡みついたああああ!」

「どーするんじゃ! 引きずり込まれとるぞ妾達!」

「シャイター! シャイタ様ー! 助けてくれえええええええええええええ!」



 ……その後、シャイタに間一髪で救出された俺とエテルノは、この恐怖を忘れまいと『反触手同盟』を結成した。
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