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二章 覚悟

第33話 騎士団

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「今、彼女の魔法を間近で見ていたけど、何一つ怪しいことはなかったわ。」

 ロッティは教授たちに向かって毅然とした態度で言い放った。声に秘めた強い意志が周囲に響き渡る。彼女はその後、ほとんど聞こえないほどの小声で呟いた。

「その術式⋯⋯」

「え?」

「いや、何でもないの。そこのあなた、私の友人への侮辱は、私自身への侮辱と見なします。」

 ロッティは騒ぎ立てていた貴族の女に鋭い視線を向けた。冷静かつ断固たる口調で言い放つその姿は、まるで凍りつく刃のように冷たく、周囲に静寂をもたらした。息が詰まるような緊張が漂い、ロッティの存在感がその場を支配していた。

「そ、それは──」

 さすがに彼女もロッティには逆らえないらしい。この国の貴族の階級には詳しくないが、いくら彼女たちが貴族といってもロッティは御三家トライヴァーン。格が違うのだろう。

 ロッティは静かにその場を収め、騒ぎ立てていた女も黙り込んだ。

「ロッティ、さっきは助けてくれてありがとう。」

「お礼なんていらないわ。」

 彼女の正義感に満ち溢れた行動には頭が上がらない。

「なんだか私がモヤモヤするわ。そうだ!すみれ、午後から予定ある?今日はもう講義はないから、よければ家に来ない?気分転換しようよ。」

「それってロッティの家だよね?」

 ロッティとは気さくに会話する仲だが、彼女は中位ミドルロードの身分を持つ。マナーも何も身につけていない私が行くのは緊張する。それに庶民の私と交流していると知ったら、ロッティのご家族も怒るかもしれない。

「心配しなくてもすみれが考えているようなことはないわよ。うちの家族はそんな堅苦しい感じじゃないから。」

「本当?」

「あの女たちのせいで貴族と聞いたら面倒な人間とかルールとか多いように思えるかもしれないけど、中位ミドルロードの私たちはそんなことないの。すごく自由に生きてる。」

「もしかして、ロッティも他人の思考が読めるの?」

「残念ながらそんな高度な魔法は使えないわね。私の兄や父ならできるけど──って、誰か他に使える人でも知ってるの?」

 ロッティは一瞬探るように私を見つめた。

 だが、ここでローウェンの名前を出すべきか分からない。一旦とぼけよう。

「いや、ただの言葉のあやだよ。」

「そっか⋯⋯それならいいんだけど。」

 ロッティは微妙な表情を浮かべた。もしかして、彼女は何か気づいているのだろうか。

「あ、忘れてた!兄に渡さなきゃいけないものがあったんだ!すぐ終わると思うんだけど一緒について来てくれない?それから私の家に行こ!」

「別にいいけど、どこまでいくの?」

「私の兄、騎士団長なのよ。だから騎士団の練習場にいると思う。ここから歩いて行ける距離にあるんだけどいい?イケメンもいっぱいいるよ。」

「騎士団長?!さすが中位ミドルロードの長男⋯⋯。行くのは全然いいよ。イケメンも見たいし。」

 なんだか騎士団と聞くとアニメや漫画の世界の話のようで、見れると思うとワクワクする。それに鍛えられたイケメンを見逃すわけにはいかない。

「じゃあ、もう特にすることもないし今から行こう。」

 こうして私たちはロッティの兄がいるという訓練場にやってきた。

 だが、そこは私が予想していたところとは全く違っていた。

「ちょっと、騎士団の練習場って王宮にあったの?」

「え?当然じゃない?王国騎士団なんだから。」

 ここにはいい思い出がないから来たくなかった。しかもローウェンの影響力が強い場所だ。
 彼に何も言わずにここに来たのもあり、どこか後ろめたい気持ちがある。バレたらどうしよう。

「と、とにかくお兄さんに早く会って帰ろう。」

「分かった。探してくる!ここでイケメンでも口説いて待ってて。」

「え!私を置いて行くの?!それはちょっと──」

「すぐ戻るから!」

 そういうと、ロッティは足早に私の視界から消えた。私は彼女に言われた場所で立ち尽くしている。

「ほんとロッティって自由すぎる⋯⋯。仕方ない。ここで目立たないように待っていよう⋯⋯。」

 私はロッティを待ちながら、陰からひっそりと騎士団員たちの練習を見ていた。やはり、騎士団というだけあって皆鍛えられた逞しい体をしている。

 だが、練習というのになぜあんな動きにくそうな格好で訓練をしているのだろうか。かなりフォーマルな格好をしているように見える。

「あれ、こんなのところになんで女の子がいるの?」

 物陰から騎士団の練習を覗いていると、突然背後から声をかけられた。背の高い、栗毛の男は私を不思議そうな目で見つめてきた。

「あ、えっと、ロッティ、中位ミドルロードシャーロット様の付き添いで私はここに来てまして、そのすぐに戻るからここで待てって言われて──」

「あー、エイドリアンの妹だね。あいつ忘れ物でもしたのかな。」

「そこまでは分かんないですけど⋯⋯ははは⋯⋯。」

 なんだかうまく話せない。人見知り特有の笑って場を繋ぐ癖がここでも出てしまった。特に男性だといつにも増して話せなくなる。

「それならそんなところで見てないで、せっかくなんだから近くで訓練でも見て待ってたら?」

「いや、それは──」

「いいじゃん。行こう。」

 私は男に引っ張られるような形で、訓練場まで連れていかれた。
 
 なぜか彼は、初対面で素性も知らない私に妙に優しかった。
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