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二章 覚悟
第30話 優しさ
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私はエラと共に、イエローのワンピースを選んだ。繊細なレースが施されており、とても女性らしい装いである。着替えを終えた私は、少しドキドキしながらローウェンのところへ向かった。
「ローウェン、服ありがとう。さっそく着てみたんだけど、どうかな?」
「とてもお似合いです。本当に美しい。やはり私のすみれは何でも似合いますね。いくつか用意しましたが気に入っていただけるものはありましたか?」
「いくつかじゃなくてすごい量だったけど、全部私好みだったよ。本当にありがとう。でも、私の好きなものは心の中を見たから知ってたでしょ?」
私は照れ隠しに、少し尖った態度をとってしまった。素直にありがとうと言えばよかったのに。昔から私はなかなか素直になれない。
「すみれの好きなこと、望むことなら、あなたの心を見なくとも何でもわかります。愛していますから。」
だが、ローウェンは一枚上手だった。むしろ彼は私の態度を楽しんでいるように見えた。彼は私の性格を完全に理解している。そして私が恥ずかしがっているのを分かって、わざともっと赤面する言葉を選んでいるのだ。
これ以上彼に遊ばれるのは勘弁だと思い、私は話を変えた。
「そ、それより今日はどこに行くの?」
「まずはカフェにでも行きませんか?お昼はまだ召し上がっていないでしょう。きっとすみれも気に入ってくれると思います。」
「おすすめのカフェがあるの?それなら行こう!お腹ぺこぺこだよ。」
改めて思えば、ただ彼との時間を純粋に楽しむ外出は初めてだ。今までずっと一緒にいたが、すべて他の目的のための外出だった。そして、彼の気持ちを信じてから初めての外出でもある。改めて意識すると、どう接していいのかわからない。
────だめだ。しっかりするんだ。いつも通り、普通に接するのだ。それしかない。
私は自分に言い聞かせて落ち着きを取り戻した。そして、召使いたちが私たちを玄関で見送る姿を見て、私は以前から抱いていた疑問が浮かんだ。
「ねぇ、ローウェンほどの身分の人が護衛なしで出かけていいの?」
私がローウェンに疑問を投げかけると、エラは驚いたように私を見て、口を開いた。
「護衛をお付けしても、かえって旦那様のご負担になるかと存じます。」
「それはつまり、ローウェンに勝てる人はいないから大丈夫ってことですか?」
「左様でございます。」
ローウェンの話になると、みんながこう言う。彼に勝てる者はいない、最強だと。しかし、他人が戦いのために魔法を使ったところを見たことがないから比較ができない。そのため、彼の凄さがいまいち実感できない。
「エラ、君は僕を買い被りすぎだよ。じゃあ、僕たちはそろそろ行こうか。すみれ、慣れない靴を履くと疲れるでしょう。何かあればすぐに言ってくださいね。」
「うん。ありがとう。」
彼にエスコートをされながらしばらく歩いていると、風に乗って甘い香りが漂ってきた。オシャレなカフェが目に入る。
「いらっしゃいませ、ローウェン様、すみれ様。お待ちしておりました。」
店長はローウェンと知り合いらしく、深々と頭を下げ、丁寧に迎え入れてくれた。
そして、私たちは一番眺めのいいテラス席に案内された。目の前には色とりどりの花が咲き乱れる庭園が広がっている。
「ここのカフェ、本当に内装も庭も綺麗だね。よく来るの?」
「以前はよく来ていましたが、今はあまり行きませんね。しかし今でも私のお気に入りのカフェの一つです。」
「そうなんだ。」
「誰と?」という質問が喉まで出かかったが、飲み込んだ。そういえば彼の昔話を全く聞いたことがない。昔話に限らず、彼の家族や友人のこともだ。
私、ローウェンのことを何も知らない。
「今嫉妬してくれたのですか?」
「そ、そんなんじゃ──。」
「そうですね。私の思い上がりでした。このカフェには同性の友人とよく来ていました。一人で来たこともありますよ。」
「私はただの会話を広げるために、誰と来たか聞きたかっただけだからね。」
「それは勘違いをしました。申し訳ありません。」
私が少し拗ねた態度をとると、すぐに宥めるように優しい声で続けた。彼は微笑みを浮かべていて、本当に嬉しそうな顔をしている。私が少し嫉妬したことに彼は気づいているのだろう。
その後、世間話を続けるうちに、今朝彼に頼もうと思っていたお願いを切り出した。
「ねぇ、ローウェン。私に魔法を教えて欲しい。」
「もちろんいいですが、いきなりどうされたのですか?」
「せっかく魔法が使える世界にいるなら、やっぱり基本的な魔法くらいは使えるようになりたいなって思ったの。」
それと何かされた時に少しでも自分で身を守れるようにしたいと、大学で意地悪された経験から思ったのだ。この理由は彼には言えないため、伏せておくが。
「なるほど。そういうことでしたらいつでも協力しますよ。」
「え?いいの?ありがとう!」
アニメや漫画の世界の話であった魔法を使えるのだと思うと、私は興奮を抑えることができなかった。
「ローウェン、服ありがとう。さっそく着てみたんだけど、どうかな?」
「とてもお似合いです。本当に美しい。やはり私のすみれは何でも似合いますね。いくつか用意しましたが気に入っていただけるものはありましたか?」
「いくつかじゃなくてすごい量だったけど、全部私好みだったよ。本当にありがとう。でも、私の好きなものは心の中を見たから知ってたでしょ?」
私は照れ隠しに、少し尖った態度をとってしまった。素直にありがとうと言えばよかったのに。昔から私はなかなか素直になれない。
「すみれの好きなこと、望むことなら、あなたの心を見なくとも何でもわかります。愛していますから。」
だが、ローウェンは一枚上手だった。むしろ彼は私の態度を楽しんでいるように見えた。彼は私の性格を完全に理解している。そして私が恥ずかしがっているのを分かって、わざともっと赤面する言葉を選んでいるのだ。
これ以上彼に遊ばれるのは勘弁だと思い、私は話を変えた。
「そ、それより今日はどこに行くの?」
「まずはカフェにでも行きませんか?お昼はまだ召し上がっていないでしょう。きっとすみれも気に入ってくれると思います。」
「おすすめのカフェがあるの?それなら行こう!お腹ぺこぺこだよ。」
改めて思えば、ただ彼との時間を純粋に楽しむ外出は初めてだ。今までずっと一緒にいたが、すべて他の目的のための外出だった。そして、彼の気持ちを信じてから初めての外出でもある。改めて意識すると、どう接していいのかわからない。
────だめだ。しっかりするんだ。いつも通り、普通に接するのだ。それしかない。
私は自分に言い聞かせて落ち着きを取り戻した。そして、召使いたちが私たちを玄関で見送る姿を見て、私は以前から抱いていた疑問が浮かんだ。
「ねぇ、ローウェンほどの身分の人が護衛なしで出かけていいの?」
私がローウェンに疑問を投げかけると、エラは驚いたように私を見て、口を開いた。
「護衛をお付けしても、かえって旦那様のご負担になるかと存じます。」
「それはつまり、ローウェンに勝てる人はいないから大丈夫ってことですか?」
「左様でございます。」
ローウェンの話になると、みんながこう言う。彼に勝てる者はいない、最強だと。しかし、他人が戦いのために魔法を使ったところを見たことがないから比較ができない。そのため、彼の凄さがいまいち実感できない。
「エラ、君は僕を買い被りすぎだよ。じゃあ、僕たちはそろそろ行こうか。すみれ、慣れない靴を履くと疲れるでしょう。何かあればすぐに言ってくださいね。」
「うん。ありがとう。」
彼にエスコートをされながらしばらく歩いていると、風に乗って甘い香りが漂ってきた。オシャレなカフェが目に入る。
「いらっしゃいませ、ローウェン様、すみれ様。お待ちしておりました。」
店長はローウェンと知り合いらしく、深々と頭を下げ、丁寧に迎え入れてくれた。
そして、私たちは一番眺めのいいテラス席に案内された。目の前には色とりどりの花が咲き乱れる庭園が広がっている。
「ここのカフェ、本当に内装も庭も綺麗だね。よく来るの?」
「以前はよく来ていましたが、今はあまり行きませんね。しかし今でも私のお気に入りのカフェの一つです。」
「そうなんだ。」
「誰と?」という質問が喉まで出かかったが、飲み込んだ。そういえば彼の昔話を全く聞いたことがない。昔話に限らず、彼の家族や友人のこともだ。
私、ローウェンのことを何も知らない。
「今嫉妬してくれたのですか?」
「そ、そんなんじゃ──。」
「そうですね。私の思い上がりでした。このカフェには同性の友人とよく来ていました。一人で来たこともありますよ。」
「私はただの会話を広げるために、誰と来たか聞きたかっただけだからね。」
「それは勘違いをしました。申し訳ありません。」
私が少し拗ねた態度をとると、すぐに宥めるように優しい声で続けた。彼は微笑みを浮かべていて、本当に嬉しそうな顔をしている。私が少し嫉妬したことに彼は気づいているのだろう。
その後、世間話を続けるうちに、今朝彼に頼もうと思っていたお願いを切り出した。
「ねぇ、ローウェン。私に魔法を教えて欲しい。」
「もちろんいいですが、いきなりどうされたのですか?」
「せっかく魔法が使える世界にいるなら、やっぱり基本的な魔法くらいは使えるようになりたいなって思ったの。」
それと何かされた時に少しでも自分で身を守れるようにしたいと、大学で意地悪された経験から思ったのだ。この理由は彼には言えないため、伏せておくが。
「なるほど。そういうことでしたらいつでも協力しますよ。」
「え?いいの?ありがとう!」
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