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一章 出会いそして真実

21話 制裁

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 全ての記憶が蘇った。

 王都に行くまでの道のりで誘拐されたこと。誘拐犯に怪我をさせられたこと。ローウェンが目の前で犯人の首を刎ねて殺害したこと。

 今の状況は、誘拐された時と同じだ。あの時も、ローウェンは私が傷つけられた怒りから、犯人を殺害した。私が必死に止めたのにも関わらず、彼は聞かなかった。

「ああ、左手の中指にタコがあるね。左利きだったのか。間違えてしまったよ。」

 ローウェンが再び剣を構える姿勢をとった。私は咄嗟に声を上げた。

「ローウェン!!もういいからやめて!!」

 彼は一度動きを止めたが、剣は手放さなかった。鋭い眼差しが冷酷さを際立たせている。

「しかし、私のすみれを傷つけたのですよ?許されるわけないでしょう。」

 普段は私が言ったことは絶対に聞くのに、彼は止まらなかった。私が傷つけられることに関して、彼は怒りを抑えることができないのだ。

 もう誰でもいい。誰か彼を止めてくれ。

 私は咄嗟に頭に浮かんだ名前を叫んだ。

「ハロルド!!!!お願い!!助けて!!!」

 ローウェンの意識が明らかに私に向いた。彼の眼差しは冷酷さから嫉妬の色に変わった。

「ハロルド?ハロルドとは誰のことですか?今誰の助けを呼んだのですか?」

 この際、怒りの矛先が私に向いて、彼の暴走を止められるならそれでいい。もっと彼の嫉妬心を煽ってやる。

「私の好きな人!」

 彼は黙ってこちらにやってきた。ある意味、先ほどの女たちより怖い。彼の存在感が部屋を支配し、空気が一層重く感じられた。

「少し離れていただけで、思い人ができたとでも言うのですか?」

「そう。彼はローウェンとは違って、私の言うことなら何でも聞いてくれるもん!」

「私以上にあなたのわがままを聞いてあげる男はこの世にいるわけないでしょう。もし貴方が国が欲しいと望んだ時、その男は叶えられるのですか?」

 なんで私が国が欲しいと言うなんて思ってるんだ。せめて宝石とか服とかだろう。規模が大きすぎて怖い。

「国は欲しいって言わな──」

 突然、ローウェンは扉の方に向かって光魔法を放った。閃光が部屋を照らし、眩しさに目を細める。

「おい、誰が動いていいと言った。」

 どうやら主犯の女がこの間に逃げ出そうとしたらしい。彼女は震えながら膝をついた。

「ゆ゛、許し゛て゛下さい゛!も゛う゛二度と彼女に゛近づきませ゛ん゛から!!」

 せっかく彼の気を私に向けさせたのに、どうしてくれるんだ。左の手も切り落とされたいのか。

「すみれ、先に終わらせて参りますね。」

「ちょっと!!待ってローウェン!!!!まだ話が終わってない!!!」

 すると、誰かがこの教室に入ってきた。

 新たな人物が緊張感を一層高めた。

「すみれ、大丈夫か?!」

 私の目の前にハロルドが現れた。

「ハロルド!!なんでここが分かったの?!」

「すみれが俺に助けを求めたんだろ。せっかく図書館で勉強していたのに。あとでこの借りは返してもらうからな。」

 本当に助かった。

 しかし、ハロルドは図書館にいたと言ったが、ここは地下一階。図書館は三階の南側にある。私の声が聞こえるはずがない。一体どういうことなのか。

 ハロルドの表情はいつも通り冷静だが、その瞳には緊張が見え隠れしている。

「ローウェン様。なぜあなたがこのような所に。フォーイルに来る予定は明日だったはず。」

「ハロルドとはお前のことだったのか。いろいろ事情が変わったんだよ。」

「ここは大学です。騒ぎを起こすのはよろしくないかと。その剣をお納めください。」

 ハロルドの助けを呼んだものの、今度は彼の身が危ない。ローウェンは人を殺すことに何の躊躇いもないのだ。きっと、私を誘拐した男を簡単に殺してしまったように、ハロルドのことも殺してしまう。どうにかしてこの現状を打破しなければいけない。

 必死に考えを巡らせていた時、私はあることに気づいた。もし私の考えが正しければ、ハロルドを助けることができるかもしれない。そして、私が元の世界に帰ることも。確信はないが、この仮説には矛盾がない。

「ローウェン、聞いて。あなたは私のことが必要なんでしょう?」

「はい。」

「さっきも言ったけど、私はハロルドのことが好きなの。でも、もし私の今からいう願い事を三つ叶えてくれるなら、あなたのものになる。」

 ハロルドを見ると、「いったい何を言っているんだ」という顔でこちらを見ている。これは作戦なんだ。後で謝るから、今は黙って見ていてほしい。

「分かりました。なんでも望み通り叶えて差し上げましょう。」

 よし、食いついた。やはり彼は何かに利用するために私が欲しいんだ。

「その条件というのは?」

「一つ目は、もうその女の子たちに危害を加えないこと。もちろん彼女の周りの人たちにも。彼女たちの傷も治してあげて。でも腹が立つのは同じから、彼女たちに何をして欲しいかは後から私が頼む。」

「分かりました。」

 ローウェンはあっという間に彼女たちの傷を治した。まさか、切り落とされた手まで治すことができるとは思わなかった。

 私が目配せをすると、彼女たちは一目散にこの部屋から出て行った。私の懐の大きさに感謝してほしい。

「二つ目は、”私を異世界から召喚したのは誰?”という質問に嘘をつかずに答えること。」

「はい。それは私です。」

「じゃあ、三つ目は、

──────今ここでハロルドを殺すこと。」
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