66 / 66
2章
2-4
しおりを挟む尋ねたあと、ああ、愚問だったなと後悔した。聞くんじゃなかった。答えを待つ間の数秒が、まるで地獄のように長く感じる。
ノアの本心を聞いてしまったら、もう戻れないと本能的に悟ってしまったのだ。俺が聞いてはいけないような、何かに触れてしまうかのようで。ノアが、俺の知るノアじゃなくなってしまような気がして。
怖いと、強く感じてしまった。
「僕が欲しいもの?」
「あ……うん、そう。ほら、最近お前ずっと頑張ってるから。何か目標でもあるのかな、と思ってさ」
我ながら酷い言い訳だと思う。知らなければこのまま平和でのんびりとした日常を過ごすことが出来る。知ってしまえば、きっと俺はノアの目標のために動いてしまうだろう。
自分の願いか、ノアの願いか。
そんなの、迷う暇もなく俺は後者を選んでしまうんだ。
「目標っていうと少し違うかもしれないけど」
「う、うん」
「僕ね」
ノアは小さな手で、ぎゅうとミーティアを抱きしめた。ミーティアのまん丸で大きな目がノアを見つめている。
そうして、ノアはゆっくりとこちらを見て。
「強くなりたいんだ、僕」
「え?」
何かを決意するかのように、ノアはそう言った。幼さの残る顔立ちに、声変わりもしていない高い声で。ふわふわの髪を風になびかせながら、ノアは噛み締めるようにそう言った。
その言葉を聞いて、目の前にいるノアがいつの間にか遠いところに行ってしまったようなら気持ちになっていた。
「強くなって、どうするんだ」
「どちらかと言うと、弱いままが嫌だって気持ちかなぁ」
「……お前は弱くないだろ」
「えへ、そうかな」
嬉しそうに頬を緩ませてはいるが、きっとノアは本当に自分のことを弱い人間だと思っている。そりゃ、魔法も剣術もまだまだ成長途中だけど。
俺とは違って強い魔力を持っていることは間違いない。独学で光魔法を習得したし、剣術だってサボることなく毎日続けている。
それに。
ノアは、どこまでも真っ直ぐだ。諦めることなく、努力を続けることができる。たすけて、と他人に言うことができる。それが「強さ」じゃないとしたら、一体なんだと言うんだろうか。
「ジョシュアにそう言ってもらえることは嬉しいよ。でも、もっと強くなりたいんだ」
「どうして」
「ううん、そうだなぁ」
その時のノアは、まるで遠い未来が見えているかのように、穏やかな顔をしていた。
「僕と、ジョシュアのため、かな」
その言葉に、今まで胸の内にたまっていたモヤモヤとした気持ちが消え去っていくのを感じた。ノアが、俺のために努力をしている。詳しいことはわからないけれど、確かにノアの中には俺がいるんだ。
だったら俺に出来ることは一つしかない。
「どこまでもお供します、ノア王子殿下」
俺は、従者だ。そしてノアにとって唯一の騎士でもある。今はまだそこまでの力はないけれど、きっと、いつか、ノアを守ってみせる。
だからその時まで。どうか、どうか、俺の前から居なくならないでくれ。
「えぇ、なに? 急にどうしたの?」
「決意表明だ」
「変なの」
もっとたくさんノアのことを知りたい。理解したい。今までのことも、これからのことも。俺が一番近くでノアのことを見ていきたい。
たとえどんな結末になったとしても。
21
お気に入りに追加
148
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
転生先がハードモードで笑ってます。
夏里黒絵
BL
周りに劣等感を抱く春乃は事故に会いテンプレな転生を果たす。
目を開けると転生と言えばいかにも!な、剣と魔法の世界に飛ばされていた。とりあえず容姿を確認しようと鏡を見て絶句、丸々と肉ずいたその幼体。白豚と言われても否定できないほど醜い姿だった。それに横腹を始めとした全身が痛い、痣だらけなのだ。その痣を見て幼体の7年間の記憶が蘇ってきた。どうやら公爵家の横暴訳アリ白豚令息に転生したようだ。
人間として底辺なリンシャに強い精神的ショックを受け、春乃改めリンシャ アルマディカは引きこもりになってしまう。
しかしとあるきっかけで前世の思い出せていなかった記憶を思い出し、ここはBLゲームの世界で自分は主人公を虐める言わば悪役令息だと思い出し、ストーリーを終わらせれば望み薄だが元の世界に戻れる可能性を感じ動き出す。しかし動くのが遅かったようで…
色々と無自覚な主人公が、最悪な悪役令息として(いるつもりで)ストーリーのエンディングを目指すも、気づくのが遅く、手遅れだったので思うようにストーリーが進まないお話。
R15は保険です。不定期更新。小説なんて書くの初めてな作者の行き当たりばったりなご都合主義ストーリーになりそうです。
買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます
瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。
そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。
そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。
やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜
ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。
短編用に登場人物紹介を追加します。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
あらすじ
前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。
20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。
そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。
普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。
そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか??
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。
前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。
文章能力が低いので読みにくかったらすみません。
※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました!
本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!
奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。
拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ
親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。
え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか
※独自の世界線
完結【BL】紅き月の宴~Ωの悪役令息は、αの騎士に愛される。
梅花
BL
俺、アーデルハイド伯爵家次男のルーカス・アーデルハイドは悪役令息だった。
悪役令息と気付いたのは、断罪前々日の夜に激しい頭痛に襲われ倒れた後。
目を覚ました俺はこの世界が妹がプレイしていたBL18禁ゲーム『紅き月の宴』の世界に良く似ていると思い出したのだ。
この世界には男性しかいない。それを分ける性別であるα、β、Ωがあり、Ωが子供を孕む。
何処かで聞いた設定だ。
貴族社会では大半をαとβが占める中で、ルーカスは貴族には希なΩでそのせいか王子の婚約者になったのだ。
だが、ある日その王子からゲームの通り婚約破棄をされてしまう。
攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました
白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。
攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。
なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!?
ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。
乙女ゲームのモブに転生したようですが、何故かBLの世界になってます~逆ハーなんて狙ってないのに攻略対象達が僕を溺愛してきます
syouki
BL
学校の階段から落ちていく瞬間、走馬灯のように僕の知らない記憶が流れ込んできた。そして、ここが乙女ゲーム「ハイスクールメモリー~あなたと過ごすスクールライフ」通称「ハイメモ」の世界だということに気が付いた。前世の僕は、色々なゲームの攻略を紹介する会社に勤めていてこの「ハイメモ」を攻略中だったが、帰宅途中で事故に遇い、はやりの異世界転生をしてしまったようだ。と言っても、僕は攻略対象でもなければ、対象者とは何の接点も無い一般人。いわゆるモブキャラだ。なので、ヒロインと攻略対象の恋愛を見届けようとしていたのだが、何故か攻略対象が僕に絡んでくる。待って!ここって乙女ゲームの世界ですよね???
※設定はゆるゆるです。
※主人公は流されやすいです。
※R15は念のため
※不定期更新です。
※BL小説大賞エントリーしてます。よろしくお願いしますm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
いい子になるなんて可愛い🩷