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2章

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    尋ねたあと、ああ、愚問だったなと後悔した。聞くんじゃなかった。答えを待つ間の数秒が、まるで地獄のように長く感じる。
    ノアの本心を聞いてしまったら、もう戻れないと本能的に悟ってしまったのだ。俺が聞いてはいけないような、何かに触れてしまうかのようで。ノアが、俺の知るノアじゃなくなってしまような気がして。
    怖いと、強く感じてしまった。
「僕が欲しいもの?」
「あ……うん、そう。ほら、最近お前ずっと頑張ってるから。何か目標でもあるのかな、と思ってさ」
    我ながら酷い言い訳だと思う。知らなければこのまま平和でのんびりとした日常を過ごすことが出来る。知ってしまえば、きっと俺はノアの目標のために動いてしまうだろう。
    自分の願いか、ノアの願いか。
    そんなの、迷う暇もなく俺は後者を選んでしまうんだ。
「目標っていうと少し違うかもしれないけど」
「う、うん」
「僕ね」
    ノアは小さな手で、ぎゅうとミーティアを抱きしめた。ミーティアのまん丸で大きな目がノアを見つめている。
    そうして、ノアはゆっくりとこちらを見て。
「強くなりたいんだ、僕」
「え?」
    何かを決意するかのように、ノアはそう言った。幼さの残る顔立ちに、声変わりもしていない高い声で。ふわふわの髪を風になびかせながら、ノアは噛み締めるようにそう言った。
    その言葉を聞いて、目の前にいるノアがいつの間にか遠いところに行ってしまったようなら気持ちになっていた。
「強くなって、どうするんだ」
「どちらかと言うと、弱いままが嫌だって気持ちかなぁ」
「……お前は弱くないだろ」
「えへ、そうかな」
    嬉しそうに頬を緩ませてはいるが、きっとノアは本当に自分のことを弱い人間だと思っている。そりゃ、魔法も剣術もまだまだ成長途中だけど。
    俺とは違って強い魔力を持っていることは間違いない。独学で光魔法を習得したし、剣術だってサボることなく毎日続けている。
    それに。
    ノアは、どこまでも真っ直ぐだ。諦めることなく、努力を続けることができる。たすけて、と他人に言うことができる。それが「強さ」じゃないとしたら、一体なんだと言うんだろうか。
「ジョシュアにそう言ってもらえることは嬉しいよ。でも、もっと強くなりたいんだ」
「どうして」
「ううん、そうだなぁ」
    その時のノアは、まるで遠い未来が見えているかのように、穏やかな顔をしていた。
「僕と、ジョシュアのため、かな」
    その言葉に、今まで胸の内にたまっていたモヤモヤとした気持ちが消え去っていくのを感じた。ノアが、俺のために努力をしている。詳しいことはわからないけれど、確かにノアの中には俺がいるんだ。
    だったら俺に出来ることは一つしかない。
「どこまでもお供します、ノア王子殿下」
    俺は、従者だ。そしてノアにとって唯一の騎士でもある。今はまだそこまでの力はないけれど、きっと、いつか、ノアを守ってみせる。
    だからその時まで。どうか、どうか、俺の前から居なくならないでくれ。
「えぇ、なに?    急にどうしたの?」
「決意表明だ」
「変なの」
    もっとたくさんノアのことを知りたい。理解したい。今までのことも、これからのことも。俺が一番近くでノアのことを見ていきたい。
    たとえどんな結末になったとしても。
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みんなの感想(1件)

マリア
2023.12.13 マリア

いい子になるなんて可愛い🩷

解除

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