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美味しい絵日記
朝ごはんの卵焼き
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昔から、我が家の卵焼きはとても甘い。俺が生まれ育った福岡は、甘い卵焼きが主流らしい。大学生の時にその話をしたら、関西出身の友達に驚かれたことがある。曰く、しょっぱい卵焼きはご飯に会わないとのこと。
しかし幼い頃から甘い卵焼きに慣れていて、お弁当にも入っていたからご飯に合わないとも思わない。そんなわけで、自分で作るときも自然と甘い卵焼きになってしまう。
「おみ、着替えたら朝ごはんだぞ」
「さむさむ」
「川で遊ぶから……」
朝の修行で冷たい川の中を泳いでいたが、その後なぜか水面に浮いていた葉っぱを追いかけて泳ぎ始めてしまった。どうやら紅葉の形がお気に召したらしい。楽しそうに泳いでいるのはいいけど、そんなことをしたら体が冷えるというのに。
俺の想像通り、「さむ!」と半べそをかきながら川から上がってきた。だから言ったのに。
「おにゃかすいた……」
「お風呂入っておいで。半纏も着るんだぞ」
「うぃ」
「卵焼き作ってやるから」
濡れてぐっしょりとした尻尾を引きずりながら、おみは脱衣所へと向かった。事前にお風呂を沸かしておいてよかった。夏場はそのままでもいいけど、秋になってからはそうもいかなくなってきた。
おみがお風呂に入っている間に、俺は手早く朝ごはんの用意だ。
朝から凝ったものは作れないので、簡単なものをたくさん作る。ご飯は昨日の夜から炊いていたから大丈夫。お味噌汁には豆腐とわかめを入れて、あとは納豆をボウルに入れてよくかき混ぜる。ネギもたくさん入れるとご飯によく合う。
あとは、卵焼きだけだ。
「俺も随分慣れてきたなぁ」
卵を四つ、ボウルに割り入れる。醤油を少し入れて、塩を少々。我が家では砂糖を入れていたけれど、俺は代わりに蜂蜜をたっぷりと。こっちの方が甘さがくどくない気がする。
菜箸でよく混ぜたら卵液の完成だ。
「りょーた、しらたきがいないー!」
「ちゃぶ台のところにいるよ」
「わはー」
お風呂から上がってきたのか、おみの声が聞こえてきた。最近は手伝ってくれることが多くなってきたけれど、朝はまだまだ眠たいのか甘えたがる様子を見せることが多い。
今日は特に川で遊びすぎたせいか、眠たくなってきたんだろう。今日はお昼寝をしっかりさせないとな。
「今日はバターにしよう」
そんなおみを見ていると、今日の卵焼きはいつもよりうんと甘くしたくなった。だから、普段なら油を使うところを贅沢にバターを使うことにする。卵に、蜂蜜に、バターなんて。それこそお菓子みたいだ。
でも、この甘くて甘くて頭が痺れてしまいそうな卵焼きが、俺は大好きだった。
「いーにおいがするー」
「卵焼き作ってるんだ」
「じゅるり」
美味しそうな匂いに釣られたのか、おみがふんふん鼻を動かしながら台所にやってきた。ちゃぶ台に座っていたしらたきを両手で抱きしめてご機嫌だ。
「すぐできるからな」
「おみ、なっとーもってく」
「ありがとう、優しいな、おみ」
「ふふん」
フライパンに卵液を流し込み、菜箸でさっとかき混ぜる。端に寄せて、もう一回。ジュワジュワ、甘い香りが立ち上がってきる。三回に分けて卵液を流し込み、完成した卵焼きはふんわりと湯気を上げていた。
一口サイズに切って、お皿に乗せたら、はい完成。
「わー! おみ、りょーたのたまごやき、だいすきー!」
「今日はいつもより甘いぞ」
「やったー!」
たくさんたくさん、召し上がれ。
しかし幼い頃から甘い卵焼きに慣れていて、お弁当にも入っていたからご飯に合わないとも思わない。そんなわけで、自分で作るときも自然と甘い卵焼きになってしまう。
「おみ、着替えたら朝ごはんだぞ」
「さむさむ」
「川で遊ぶから……」
朝の修行で冷たい川の中を泳いでいたが、その後なぜか水面に浮いていた葉っぱを追いかけて泳ぎ始めてしまった。どうやら紅葉の形がお気に召したらしい。楽しそうに泳いでいるのはいいけど、そんなことをしたら体が冷えるというのに。
俺の想像通り、「さむ!」と半べそをかきながら川から上がってきた。だから言ったのに。
「おにゃかすいた……」
「お風呂入っておいで。半纏も着るんだぞ」
「うぃ」
「卵焼き作ってやるから」
濡れてぐっしょりとした尻尾を引きずりながら、おみは脱衣所へと向かった。事前にお風呂を沸かしておいてよかった。夏場はそのままでもいいけど、秋になってからはそうもいかなくなってきた。
おみがお風呂に入っている間に、俺は手早く朝ごはんの用意だ。
朝から凝ったものは作れないので、簡単なものをたくさん作る。ご飯は昨日の夜から炊いていたから大丈夫。お味噌汁には豆腐とわかめを入れて、あとは納豆をボウルに入れてよくかき混ぜる。ネギもたくさん入れるとご飯によく合う。
あとは、卵焼きだけだ。
「俺も随分慣れてきたなぁ」
卵を四つ、ボウルに割り入れる。醤油を少し入れて、塩を少々。我が家では砂糖を入れていたけれど、俺は代わりに蜂蜜をたっぷりと。こっちの方が甘さがくどくない気がする。
菜箸でよく混ぜたら卵液の完成だ。
「りょーた、しらたきがいないー!」
「ちゃぶ台のところにいるよ」
「わはー」
お風呂から上がってきたのか、おみの声が聞こえてきた。最近は手伝ってくれることが多くなってきたけれど、朝はまだまだ眠たいのか甘えたがる様子を見せることが多い。
今日は特に川で遊びすぎたせいか、眠たくなってきたんだろう。今日はお昼寝をしっかりさせないとな。
「今日はバターにしよう」
そんなおみを見ていると、今日の卵焼きはいつもよりうんと甘くしたくなった。だから、普段なら油を使うところを贅沢にバターを使うことにする。卵に、蜂蜜に、バターなんて。それこそお菓子みたいだ。
でも、この甘くて甘くて頭が痺れてしまいそうな卵焼きが、俺は大好きだった。
「いーにおいがするー」
「卵焼き作ってるんだ」
「じゅるり」
美味しそうな匂いに釣られたのか、おみがふんふん鼻を動かしながら台所にやってきた。ちゃぶ台に座っていたしらたきを両手で抱きしめてご機嫌だ。
「すぐできるからな」
「おみ、なっとーもってく」
「ありがとう、優しいな、おみ」
「ふふん」
フライパンに卵液を流し込み、菜箸でさっとかき混ぜる。端に寄せて、もう一回。ジュワジュワ、甘い香りが立ち上がってきる。三回に分けて卵液を流し込み、完成した卵焼きはふんわりと湯気を上げていた。
一口サイズに切って、お皿に乗せたら、はい完成。
「わー! おみ、りょーたのたまごやき、だいすきー!」
「今日はいつもより甘いぞ」
「やったー!」
たくさんたくさん、召し上がれ。
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