このたび、小さな龍神様のお世話係になりました

一花みえる

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美味しい絵日記

焼きそば

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    毎日毎食頑張って自炊をし始めてからもうすぐ一年。最初の頃と比べると随分と手慣れてきたし、レパートリーも増えてきたと思う。なんせこのお山にはコンビニもスーパーも、ファミレスもない。出前で簡単に済ませよう、という手抜きが出来ないのだ。
    いくら一人暮らしが長く、それなりに自炊をしてきたと言ってもたまにはサボりたい時もある。簡単に作れて、美味しくて、腹持ちがするものは無いだろうかと考えてしまうことも、たまにはあるのだ。
「よし、今日は手抜きだ」
    冷蔵庫の前で、そう固く決意する。
    幸いにも冷蔵庫にはちょうどいいものが揃っていた。さっそく準備をしよう。きっとおみも喜ぶはず。



「やたいだー!」
「屋台もどきだけどな」
「おみもやる、おみもやる!」
    去年の夏、お山のふもとで催される花火大会に行こうと計画していた。その時は台風の影響でおみが寝込んでしまい、その看病をした俺も疲労で倒れてしまった。 
    結局、屋台巡りは断念してお山の頂上から花火を見ることになった。その時に「せめてもの屋台気分を」と思い作ったのが焼きそばだった。それ以来、おみはホットプレートで作る焼きそばを見る度に「やたい!」とはしゃいでいる。
「ホットプレートだと一気に作れるから楽だなぁ」
「ほぐほぐ」
「おみ、麺ほぐれた?」
「ほぐれたー!」
    美味しい焼きそばには、下ごしらえが重要だ。袋麺はしっかりとほぐしておく。野菜は炒めると水分が出るからしっかり焼いて、豚肉代わりのソーセージはパリッとするまで火を通す。
    たっぷりの油をプレートで熱して、たくさんの材料を一気に炒めていく。麺は少しカリカリが美味しいから時間をかけて焼いていく。
「おみもまぜまぜする」
「熱いぞ」
「へーき」
    自分の椅子を持ってきて、そこに乗りヘラで焼きそばを混ぜ始めた。全体に火が通るよう頑張っているけれど、生憎おみの腕は平均よりも短い。
    あっという間に涙目になった。
「あちゅい……」
「おみには他のお手伝いをお願いしようかな」
「み……」
    焼きそばを混ぜるのは、お前がもう少し大きくなってからだな。その頃、俺たちはどんな風になっているんだろう。
    どんなに時間が経っても、どんなに見た目が変わっても。今みたいに二人で冷たい麦茶を飲みながら料理をしていたい。
「はい、じゃあ最後の仕上げ」
「むん」
    付属の粉が入った袋を渡す。まんべんなくかけてもらい、固まらないよう手早く混ぜていく。焦げたソースの香りが部屋中に広がっていった。
    ああ、これこれ。やっぱり夏といえばこれだよな。
「おいしそ」
「うん。おみのおかげだ」
「むふん!」
    出来たてホカホカの焼きそばをお皿に入れる。青のりと鰹節を乗せると、熱気でふわふわ揺れていた。
    まるで嬉しい時のおみみたい。
「まよねずかける」
「屋台っぽいなぁ」
「じゅるり」
    最後に紅しょうがを乗せて、はい完成。
    たくさんたくさん、召し上がれ。
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