このたび、小さな龍神様のお世話係になりました

一花みえる

文字の大きさ
上 下
268 / 276
美味しい絵日記

チーズと枝豆の揚げ春巻き

しおりを挟む
   我が家の畑では、毎年夏になるとたくさんの枝豆が採れる。その量は驚くもので、毎日大きなかごがいっぱいになる。おみが水をやると通常よりも成長が良い気がするのは、やっぱり毎朝「おっきくなれー」と声をかけているからなのかもしれない。
    枝豆は茹でるだけで十分美味しいおかずになる。ビールにも合うし、ほどよく塩気が効いていて熱中症対策にもなる。冷凍すれば保存も効くからたくさん収穫できても困らないと思っていたけれど。
「さすがに増えすぎたな……」
「あらー」
    冷凍庫を圧迫している枝豆たちを見て、深くため息をついた。ファミリータイプの冷蔵庫は、そこまで冷凍室が大きくない。本家から送られてくる食材は冷凍しないといけないものはないが、野菜や魚、肉など冷凍保存することは多くある。
    滅多に食べられない肉や魚は、大切に食べないと。
「とりあえず一袋は蒸し焼きにするとして、それでもパンパンだなぁ」
「ぱんぱかぱん?」
「そう。食べすぎたおみのお腹みたい」
「おお……たいへん」
    よかった、今の危機的状況が正しく伝わってくれて。枝豆を使った料理は何かあっただろうか。ずんだ餅を作るには少し手間がかかるな。
    それは明日のおやつにしよう。
    今は夕飯のおかずにできそうなものがいい。
    うーん。
「あ、そうだ」
「み?」
    冷蔵庫に入っていた餃子の皮とチーズが目に入って、昔居酒屋で食べたことのあるメニューを思い出した。作り方は、多分、そこまで難しくないはず。
    まあ、失敗は成功のもと、とも言うし。とりあえず作ってみよう。
「おみ、お手伝いしてくれる?」
「する!    おみ、おてつだいする!」
「よし。じゃあ手を洗おうか」
「うぃ」
    さっそく冷凍の枝豆を解凍すべく、電子レンジに放り込んだ。

「枝豆を中身をボウルに入れて欲しいんだ」
「おみにおまかせ」
「頼りになるなぁ」
    黄色い踏み台に乗って、得意げに胸を張られた。解凍した枝豆はまだ熱いから、火傷しないように念を押す。  
    どうせつまみ食いするだろうから、少し多めに解凍しておいた。おみと暮らし始めて一年以上経つ。俺も、それなりにおみのことがわかってきたような気がする。
「むん、むん」
    おみは不思議な掛け声と共に、枝豆の中身をボウルに出してくれている。よしよし、いい感じ。その間に俺は次の用意をしておこう。
    プロセスチーズを四等分して、枝豆と同じくらいの大きさにする。枝豆とチーズが交互になるよう餃子の皮に乗せていき、最後の仕上げはおみに任せることにする。
「りょーたぁ……つかれた……」
「おお、もう半分以上終わったのか」
「そだよ、おみ、えだまめしょくにん」
   どんな職人だ、それは。
    半分とはいえ、ボウルの中は枝豆の中身でいっぱいになっている。これだけあれば十分だろう。
「じゃあ次の仕事を任せていいか?    職人さん」
「うぃ!」
    口の端に枝豆の欠片をくっつけた職人ことおみは、楽しそうに手を挙げた。

「こうやって、くるくるって巻く」
「ほほー」
「で、端っこを折りたたむようにして……水でくっつける」
「おあー……むずかしそ」
「難しかったらクルクルするだけでいいよ」
    不安そうにはしているが、おみは意外にも手先が器用だ。ウカさんの結婚祝いに香袋を縫ったこともある。コツを掴めば時分で出来るようになるだろう。
    まずは、させてみる。
    助けを求めてきたら手伝ってやる。
    時間はかかるけど、その方がおみのためにもなるだろう。
「くるくるー」
「うん、上手」
「おりおり」
「そうそう」
「……つぎ、なにするんだっけ」
    それに、こっちの方がおみとたくさん話が出来る。二人で料理をすることが増えたのも、会話の機会を増やすためだ。
    危ないことはさせられないが、楽しそうに料理をするおみは見ていてこちらも楽しくなる。
「水をつけてくっつけるんだよ」
「むん」
    小さな手でスティックを作るおみを見ていると、疲れも吹き飛んでいきそうだった。

「ごっはん、ごっはん!」
「はい、お待たせ。揚げたてだから火傷しないように」
「ふーふーするからへーき」
    そう言って今まで何度口の中を火傷してきたと思っている。その度に大泣きしたのはどこの誰だ。
    念の為、冷たい麦茶を用意しておいてやろう。
「おいしそー!」
「おみが作ってくれたからな」
「えへえへ」
    大きなお皿に乗っているのは、餃子の皮で枝豆とチーズを巻いて揚げたもの。サクサクの食感はきっとおみも気に入るだろう。
    味付けはシンプルに塩と胡椒だけ。ケチャップをつけても美味しそうだから、後で持ってこよう。
「りょーた、たべよー」
「うん」
    それじゃあ、手を合わせて。
「いただきます!」
    たくさんたくさん、召し上がれ。
しおりを挟む
感想 231

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】領地に行くと言って出掛けた夫が帰って来ません。〜愛人と失踪した様です〜

山葵
恋愛
政略結婚で結婚した夫は、式を挙げた3日後に「領地に視察に行ってくる」と言って出掛けて行った。 いつ帰るのかも告げずに出掛ける夫を私は見送った。 まさかそれが夫の姿を見る最後になるとは夢にも思わずに…。

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。