上 下
260 / 276
喜雨【7月長編】

22

しおりを挟む
「りょーたー!    できたよー!」
「すごいなぁ、おみ」
「むふん」
    おきつさんから手取り足取り教えてもらい、ついにおみの手作り料理が完成した。色とりどりのパプリカに、お手製の肉種が詰められている。こんがりと焼かれた後にじっくり蒸されたおかげで、甘みが強くなっているのだとか。
    ふにゃふにゃ説明するおみの頭を撫でてやる頃には、もうすっかり空は夕方の色合いになっていた。
「おみがおにくこねこねしたの!」
「へぇ。大変だった?」
「んー、はんばぐみたいだった」
「そっか」
    そういえば最近はハンバーグを作ってないな。帰ったらまた二人で作ってみるのも悪くない。大きなお皿に乗せられたパプリカを一つ、取り皿に移す。じゅわりと肉汁が溢れ、見ているだけで生唾が湧いてきそうだ。
    各々飲み物(ほぼアルコール)を持ち、元気に仲良く「いただきます」と言ったあと。
「ぱぷりかは、ぴまんじゃないからだいじょぶ……」
「がんばれ、おみ」
「んあー!」
    自分に言い聞かせながら、おみはついにパプリカを口にした。分かってはいてもやはり見た目がピーマンそっくりなせいで、いつもみたいに大きな口を開けてはいない。
    それでも泣くことなく、パクリと齧り付いて。
「ん、んむ、む」
「どう?」
「んー……あまいー!」
「おお」
「おいしー!」
「おお!」
    どうやら気に入ったようで、今度は半分ほど一気にかぶりつく。口の周りが肉汁で汚れているが、それも気にせずパクパクと食べていく。
    あっという間に一つ平らげ、今度は三つも自分の皿に乗せる。どんだけ気に入ったんだ。
「りょーたもたべて、あーん」
「じゃあもらおうかな」
    よほど出来栄えに自信があるのか、早く早くと急かされる。差し出されたパプリカを口に入れてもらうと、なるほど、これは絶品だと思わされる。
    おみが作った、ということもあるかもしれないが、それを抜きにしてもパプリカの肉厚な食感、肉の旨み、絶妙な味付け。そのどれもがマッチしていて思わず唸り声をあげそうになる。
    しかもパプリカはどれも色が鮮やかで、見ているだけで気持ちが明るくなりそうだ。
「どう?    どう?」
「おいしい!    おみ、すごいな!」
「えへへー」
    パプリカってこんな食べ方もあるんだな。勉強になる。
「おみ、パプリカ美味しいやろ」
「おいしー!    いーしゃ、それなぁに?」
「私たち三人で作ったものだ」
    ずらりと並べられたお皿には、たぎさん、おいちさん、俺の三人で作ったおつまみ、もとい料理が入れられていた。もやしと人参のナムル、ゴマサバ、おきゅうとに豚バラ串。
    そして、その中にこっそりとピーマンの塩昆布炒めが紛れ込んでいる。パプリカを克服した今、果たしておみはピーマンも食べられるのだろうか。
「グランピングの醍醐味は、やはり外で食べることだな」
「前もしませんでしたっけ」
「あれはあれ、これはこれだ」
「なるほど……?」
    まあ、みんなでワイワイ食べるのは楽しいよな。それは間違いなく事実だ。
「あー、ちびちゃ!    ちびちゃもごはんたべる?」
「みゃーん」
「ぼくも!    ぼくも食べます、ししょー!」
    いい匂いにつられたのか、背中にちびすけを乗っけた海鈴がふんふん鼻を鳴らしながらこちらにやってきた。海鈴は眷属なので基本的に何を食べても問題ないが、ちびすけは(今のところ)ただの子猫だ。
    食べちゃダメなものとかあるのかな。
「やいたおさかなたべる?」
「にゃん!」
「おみがほぐほぐしてあげるね」
「みゃぁん」
    優しいおみは、自分の分だった焼き魚を食べやすいように解してあげている。熱くないよう冷ましてやり、至れり尽くせりだ。
    隣で海鈴は「ごちそーです!」とはしゃぎながら、パプリカやピーマンをぱくぱく食べていた。どれも美味しそうに食べるものだから俺もつられて食欲が湧いてくる。
「みんなでたべるとたのしーねー」
「帰ったら坂口さんや織田さんと食事をしようか」
「するするー!」
    二人でのご飯も美味しいけど、たまには大勢で食べるのも悪くない。夕方の涼しい風が頬を撫でる。
    賑やかな夜は、まだまだこれからだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【泣き虫龍神様】干天の慈雨

一花みえる
キャラ文芸
雨乞いのため生贄にされた柚希は、龍神様のいるという山奥へと向かう。そこで出会ったのは、「おみ」と名乗る不思議な子供だった。 泣き虫龍神様の番外編です!

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【未完】妖狐さんは働きたくない!〜アヤカシ書店の怠惰な日常〜

愛早さくら
キャラ文芸
街角にある古びた書店……その奥で。妖狐の陽子は今日も布団に潜り込んでいた。曰く、 「私、元は狐よ?なんで勤労なんかしなきゃいけないの。働きたいやつだけ働けばいいのよ」 と。そんな彼女から布団を引っぺがすのはこの書店のバイト店員……天狗と人のハーフである玄夜だった。 「そんなこと言わずに仕事してください!」 「仕事って何よー」 「――……依頼です」 怠惰な店主のいる古びた書店。 時折ここには相談事が舞い込んでくる。 警察などでは解決できない、少し不可思議な相談事が。 普段は寝てばかりの怠惰な陽子が渋々でも『仕事』をする時。 そこには確かに救われる『何か』があった。 とある街の片隅に住まう、人ならざる者達が人やそれ以外所以の少し不思議を解決したりしなかったりする短編連作。 ……になる予定です。 怠惰な妖狐と勤勉な天狗(と人とのハーフ)の騒がしかったりそうじゃなかったりする日常を、よろしれば少しだけ、覗いていってみませんか? >>すごく中途半端ですけど、ちょっと続きを書くのがしんどくなってきたので2話まででいったん完結にさせて頂きました。未完です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。