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喜雨【7月長編】
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おみに飛びかかり顔中舐め回した海鈴は、意外なことにおいちさんの命令でこの周辺を視察していたらしい。あの小さい豆柴が視察とは。それなりに認められているんだな。
しかし、おみと再会した海鈴はそんな威厳などどこにもなく。
「海鈴、早く風呂に行ってこい」
「きゅーん……」
「かいちゃ、おみもいっしょにいくー」
外ではしゃぎまくり、身体中泥だらけになり。おいちさんの叱られ、無理やりお風呂に押し込まれていた。
眷属とはいえ水は苦手らしく、ぷるぷる震えている海鈴だったが、おみが一緒に行くと言ってくれたおかげでなんとか大事は避けられた。
しかし。
しかし、なぁ。
「なぁんで俺は駄目なんでしょうねぇ」
「おー、愚痴? 珍しいやん」
「あらあらまあまあ。お顔が真っ赤よ」
「ううー……」
二人が楽しそうに風呂へと向かったあと、宗像の地酒を飲んだことが間違いだった。きりりとした辛口の日本酒はスルスルと消えていき、あっという間に頭がほわほわしていった。
そしてほわほわした頭から浮かんでくるのは、我ながらみっともない子供じみた愚痴だったのだ。
「俺もおみと風呂に入りたいのに……」
「それはさすがに難しいだろうな」
「宗像三女神の力でどうにかならないんですか」
「そこは自分でどうにかせんと」
「ううー……」
別にさ。ちっこい豆柴に妬いているわけじゃないんだ。一緒に入浴出来なくても、俺はおみと四六時中共に過ごしているし。何かあればすぐ俺のところに来るし。
嬉しいこととか、楽しいこととか、泣きたい時は真っ先に俺の名前を呼んでくれる。だから別に今更お風呂の一つや二つ。
ううーでもなぁ。
「おれもおみとおふろはいりたい……」
「想像以上に溺愛しているんだな」
「あたりまえですよ、おみはおれに、ひかりをくれたんだから」
目標も目的もなくただ惰性で生きていた日々に、光が差し込んだ。室生の家が特殊だったからとか、俺の体質が変わっていたとか、偶然が重なった結果だとは分かっている。
それでも、それでも俺は。
「おみのいちばんになりたいんですよぉ」
「一番だと思うわよ」
「んんー……そうだと、いいんですけど」
俺の一番はいつだっておみだ。おみのためなら何だってできる。でもおみは違う、かもしれない。
わからない。わからないなぁ。
だって頭がグラグラするんだ。眠たくてしょうがない。気持ちよくてあったくて。なんだかいい匂いもする。
もうこのまま寝てしまおうかな。
「りょーたー! おみ、おふろはいったよー!」
「おみ……」
遠くで、おみの声がした。
思わず体を起こし、視線を向ける。風呂上がりでほこほこになったおみが走りよってきた。反射的に腕を伸ばすと、迷うことなく飛びついてくる。
小さくて、暖かくて、柔らかい。
「りよーた、ねむたい?」
「ちょっとね」
「かみのけかわかしてー」
「もちろん」
バスタオルで頭をワシワシ拭きあげる。タオルの下ではしゃぐ声が響いた。
「わはーりょーた、きもちー!」
「うんうん、おみは可愛いなぁ」
「えへー」
まあ、難しいことは置いておくとして。
今は、この小さな龍神様を愛でることにしよう。周りで「やはり室生殿が一番なんだな」とか「デレデレやん」とか、「愛らしいわぁ」なんて声が聞こえてきたけど。
それは俺の特権なんだと、今は胸を張ることにしよう。
しかし、おみと再会した海鈴はそんな威厳などどこにもなく。
「海鈴、早く風呂に行ってこい」
「きゅーん……」
「かいちゃ、おみもいっしょにいくー」
外ではしゃぎまくり、身体中泥だらけになり。おいちさんの叱られ、無理やりお風呂に押し込まれていた。
眷属とはいえ水は苦手らしく、ぷるぷる震えている海鈴だったが、おみが一緒に行くと言ってくれたおかげでなんとか大事は避けられた。
しかし。
しかし、なぁ。
「なぁんで俺は駄目なんでしょうねぇ」
「おー、愚痴? 珍しいやん」
「あらあらまあまあ。お顔が真っ赤よ」
「ううー……」
二人が楽しそうに風呂へと向かったあと、宗像の地酒を飲んだことが間違いだった。きりりとした辛口の日本酒はスルスルと消えていき、あっという間に頭がほわほわしていった。
そしてほわほわした頭から浮かんでくるのは、我ながらみっともない子供じみた愚痴だったのだ。
「俺もおみと風呂に入りたいのに……」
「それはさすがに難しいだろうな」
「宗像三女神の力でどうにかならないんですか」
「そこは自分でどうにかせんと」
「ううー……」
別にさ。ちっこい豆柴に妬いているわけじゃないんだ。一緒に入浴出来なくても、俺はおみと四六時中共に過ごしているし。何かあればすぐ俺のところに来るし。
嬉しいこととか、楽しいこととか、泣きたい時は真っ先に俺の名前を呼んでくれる。だから別に今更お風呂の一つや二つ。
ううーでもなぁ。
「おれもおみとおふろはいりたい……」
「想像以上に溺愛しているんだな」
「あたりまえですよ、おみはおれに、ひかりをくれたんだから」
目標も目的もなくただ惰性で生きていた日々に、光が差し込んだ。室生の家が特殊だったからとか、俺の体質が変わっていたとか、偶然が重なった結果だとは分かっている。
それでも、それでも俺は。
「おみのいちばんになりたいんですよぉ」
「一番だと思うわよ」
「んんー……そうだと、いいんですけど」
俺の一番はいつだっておみだ。おみのためなら何だってできる。でもおみは違う、かもしれない。
わからない。わからないなぁ。
だって頭がグラグラするんだ。眠たくてしょうがない。気持ちよくてあったくて。なんだかいい匂いもする。
もうこのまま寝てしまおうかな。
「りょーたー! おみ、おふろはいったよー!」
「おみ……」
遠くで、おみの声がした。
思わず体を起こし、視線を向ける。風呂上がりでほこほこになったおみが走りよってきた。反射的に腕を伸ばすと、迷うことなく飛びついてくる。
小さくて、暖かくて、柔らかい。
「りよーた、ねむたい?」
「ちょっとね」
「かみのけかわかしてー」
「もちろん」
バスタオルで頭をワシワシ拭きあげる。タオルの下ではしゃぐ声が響いた。
「わはーりょーた、きもちー!」
「うんうん、おみは可愛いなぁ」
「えへー」
まあ、難しいことは置いておくとして。
今は、この小さな龍神様を愛でることにしよう。周りで「やはり室生殿が一番なんだな」とか「デレデレやん」とか、「愛らしいわぁ」なんて声が聞こえてきたけど。
それは俺の特権なんだと、今は胸を張ることにしよう。
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