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喜雨【7月長編】
【スイカ割り】
しおりを挟むスイカ柄のビーチボールで遊んだせいか、おみではないが俺もなんだか本物のスイカを食べたい気持ちになっていた。今日も宗像は快晴で、日差しも強い。潮風が心地よいけれど、やっぱり暑いものは暑いのだ。
パラソルの下で冷たい麦茶を飲んでいると、たぎさんとおきつさんが大きなクーラーボックスを持ってきた。二人とも細身なのに、力が強い。
「おみー! スイカばい!」
「すいかー!」
「うふふ、スイカ割りしましょ」
「わるー!」
さっきまで舌を出し、尻尾をぷらぷらさせパラソルの下でへばっていたのに。スイカと聞いた途端ぴょん! と元気になる。
さすがおみ。おみが嬉しそうな姿を見ると俺も嬉しくなる。
「ねーりょーた。すいかわりってなに?」
「したことなかったか」
「おみのおてて、ちっちゃいからわれるかな」
「大丈夫だよ、多分」
ちゃんと割れたらたくさん食べられる、というおいちさんの言葉に、おみは俄然やる気だ。短い腕でパンチ(らしきなにか)の練習までする始末。
頑張れ、おみ。
気合いは十分だぞ。
「ぬあああめがまわるるる」
「あと三回!」
「むあああ」
「たぎさん、勢いがいいですね」
しっかりと目隠しをされ、棒を持ち、たぎさんに抱き抱えられたおみは「ふにゃああ」と鳴きながらされるがままになっていた。確かに十回くらい回る、とは聞くけれど。
こんなにも勢いよく、そしてエネルギッシュな回し方は初めて見た。しっぽが遠心力で吹き飛ぶんじゃないだろうか。
「よーし、おみ、行け!」
「あわわわじめんがゆれるるる」
「真っ直ぐ、真っ直ぐだぞ、おみ!」
「ますぐだよ、おみ、ます、ふにぁああ」
棒切れを掴んでふらふら、よろよろ歩くおみの数十メートル先には、大きくて美味しそうなスイカが置かれている。がんばれ、おみ。あれを割ったらお前のものだぞ。
「おみ、もっと右だ!」
「みぎ、みぎってどっち」
「お箸を持つ方」
「おはし、おみ、おはしこっちでもつ、ふにゃああ」
おぼつかない足取りで、それでも本能が呼び寄せるのか確実にスイカの方へと近づいている。間違ってしっぽを踏みそうになりながら、転びそうになりながら、一歩一歩前へと進んでいる。
そうして。
棒の先がスイカに触れて。
「おみー! 思い切り、振りかぶれ!」
「むあーん!」
奇妙な鳴き声と共に、振りかぶった棒がスイカに落とされた。
「んままー!」
「よかったなぁ、おみ」
「あまいー!」
見事、スイカに棒を叩きつけたはいいが力が弱すぎたせいで何度もぺちぺち叩き続け、ようやく割れた。約束通りそのスイカは丸ごとおみのものになり、顔を突っ込む勢いで食べている。
俺たちは綺麗に切られたスイカを食べて、のんびりと海を眺めている。ちなみにおいちさんはずっと動画を撮っていたらしく、それを見返しながら「ああ……かわいい……」と呟いているが。
「おみ、今日がんばったね!」
「頑張ったな」
「りょーた、あたまなでて」
「よしよし」
「むふん」
口の周りにスイカの種をつけて、にこにこ笑うおみは太陽よりもずっとずっと眩しかった。
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