このたび、小さな龍神様のお世話係になりました

喜雨【7月長編】

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「みえぇぇぇえ！    おみのおやつー！」
「あーあ……」
    もうすぐ宗像から迎えが来る。荷物も準備できたし、忘れ物がないか何度も確認した。あとは空飛ぶ車が来るだけという時に。
    我が家の周りは大雨に襲われていた。
    理由はもちろん、この泣き虫な龍神様だ。
「おみの、おやつ……たべちゃった……」
「昨日のお前がな」
「……ばにゃにゃ」
「おいしいー！    って食べてたじゃないか」
「おいしかった……」
    車の中で食べる！    と意気込んでバナナを一房用意していたが、そんなことをすっかり忘れていたのか昨晩ぱくぱく食べてしまっていた。俺は何度も聞いたからな。明日の分、無くなるぞって何度も言ったからな。
     それでも自分の空腹に勝てず食べたのはお前だからな。俺は甘やかさないぞ。絶対に。
「ぐしゅ……おいしーばにゃにゃ……たべずにはいられない……っ」
「もう少し本能に抗え」
「みえぇぇえおやつー！」
「ううっ……」
    自分のせいだとは分かっているのだろうが、おやつが無いことが悲しくてしょうがないらしい。床にコロコロし始め、しらたきを抱きしめて泣き始めてしまった。
    うーん、困った。もうすぐ迎えが来るというのに。前回はおやつの梅ヶ枝餅を貰ったが、今回もそれに甘えてはいけない。おみも、一瞬とはいえ、龍神になったんだ。これからはもっとちゃんと育てていかないといけない。
「って、わかってるんだけどなぁ」
「みえぇぇええ……！」
「あーもう、ほら、おみ」
「みっ？」
    ぐじゅぐじゅ泣くおみに、こっそり隠しておいたタッパーを差し出した。中には半分に切ったキウイが入っている。途中で食べられるかなと思って用意しておいたものだ。
    本当はもっと後で食べるつもりだったけど。天候不良で車が飛ばない、ということになっても大変だ。だからこれは甘やかしじゃない。断じて違う。違うのだ。
「これ、食べていいから」
「まー！    きゅーい！」
「キウイ」
「りょーた、ありがとー」
「いえいえ」
    すっかり泣き止んだおみが、嬉しそうにキウイを手に取る。ゴールデンキウイだから甘いはずだ。
    世の親というのは、どうやって子供を甘やかすことを我慢しているんだろう。俺にはまだ難しすぎる。
「みゃー！    にがい！」
「皮ごと食べるな！」
「みえぇ……」
    今日も相変わらず腹ぺこで泣き虫なおみを、俺は抱き上げて優しく頭を撫でるのだった。