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木の芽雨【5月長編】
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しおりを挟む「それじゃあ、おみの両親って……」
「つまりはそういうことだ。おみが納得するかは別として」
「そう、だな……」
掻い摘んで教えてもらったおみの出生について、俺は思わず言葉を失った。元々「人の願いによって生まれた」存在であることは聞かされていた。だから他の龍神様よりも随分と幼く、そのくせ本来持ち合わせる力は強い。
その力を育て、正しく生きる道を教えるのが室生に託された使命である。しかし両親についてまでは聞かされていなかった。正直、あまり想像はつかずにいたが。
「まさか、そういうことだったなんて」
「おみにとっては予想外だろう。でも、これが事実だ」
「……うん」
俺は一体、おみにどう説明すればいいんだろう。うやむやにすることは難しくない。知らない、と言えば済む話だ。
しかし俺にとっておみは大切な存在で、自分の持っているものは何でも与えたいとさえ思っている。例えそれがおみを驚かせることだとしても。
「まあ、無理に話す必要はないさ。時が来れば必然的に伝えることになる」
「もし、もしもだけど」
あたりの結界が弱まってきた。木々のざわめきが大きくなっていく。じいちゃんと話が出来るのもあと少しだろう。こういう時、俺にもう少し霊力があれば、と悔しく思う。
ざざ、と足元の草がざわめく。
それに紛れて、俺の声は宙に広がっていく。
「もしも、じいちゃんが俺の立場だったら。そしたらどうする?」
「そうだなぁ」
あと数十年じいちゃんが長生きをしてたら。もしかしたら同じ質問をされていたかもしれない。その時じいちゃんは何と答えたのだろう。
俺みたいに悩んだりはしないだろうか。
それとも、何日も頭を抱えたあと伝えるのだろうか。せめて何かヒントが欲しいと思い尋ねてみたけれど。
「私もお前と同じことをするよ」
「同じ?」
「うん。誰かに助けを求めて、そして言われるんだ」
お前のおみだろう。ちゃんと前を向け。
その言葉こそ俺にとっての救いであり、また枷でもあった。ああ、くそ。分かってるよ。他の誰でもない、この俺こそが今のおみを守れる唯一の人間なんだ。
「自信を持ちなさい。昔と同じ目をしているよ」
「昔って?」
「お前と初めて話した時だ」
あの頃と今では、俺も成長したはず。少しは前に進めているはず。少なくとも今は俺の事を待ってくれる存在がいる。
だからこそ、一歩前に進めるんだ。
「じいちゃん、俺、やってみるよ」
「それでこそ我が孫! 今度たくさん頭を撫でてやろう」
「期待しとく。ありがとう、じいちゃん」
半透明に輝く花びらが空を舞った。
そして瞬きをした瞬間、目の前には一輪の花が落ちているだけだった。
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