このたび、小さな龍神様のお世話係になりました

一花みえる

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藤の雨【5月短編】

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「んみぃー……ねむ……」
「今日もたくさん遊んだなぁ」
「あそんだー」
 お風呂上がりのおみは、いつにも増してふにゃふにゃしている。昼間にたくさん遊んだせいか髪を乾かしている間にうつらうつら始めるし、布団を敷くときは半分近く眠っている。それでもしらたきは絶対に手放さないし、俺に読んでもらう絵本は必ず持ってくる。
 今日もはらぺこな青虫が描かれた絵本を持ってきていた。腹ペコかぁ。おみそっくりだな。
「ううーおふとん……おふとんしゅき……」
「全人類ほとんどが好きだよ、お布団」
 俺も布団は大好きだ。できることならずっとこもっていたい。そうも言っていられない現実があるが、昔よりは随分と楽になった。これも全ておみのおかげだ。
 枕元のライトをつけて、それ以外は全部消す。こうしていれば眠たくてしょうがないおみはすぐに寝落ちてしまう。ウニャウニャ言いながらおみが布団を捲る。そのまま横になろうとして。
「みゃっ!?」
「えっ?」
 驚いたような悲鳴が響いた。何か変なものでも入っていただろうか。いや、湯たんぽはもう使っていないから驚くものはない、はず。
 一体どうしたんだろう。
「みぃー! ちびちゃ!」
「え? ちびすけ?」
「なんでこんなとこにいるの!?」
 おみがめくった毛布の下には、まん丸になって寝ているちびすけがいた。一体いつの間に潜り込んできたんだろう。前までは庭先で眠ることはあっても、こうして布団に入ってくることはなかった。外はそこまで寒いわけではない。そもそも最初は懐いていなかったから、同じ部屋で眠ることさえなかったのに。
 いつの間にここまで懐いたんだろう。
「ちびちゃ、ここ、おみのおふとん!」
「にゃぅ……みぅ……」
「ねてるー……」
 ちびすけは小さなお腹を膨らまらせながら、気持ちよさそうに眠っている。こうやって丸まっていると本当に小さい。でも、想像以上に伸びるから驚くこともある。猫は液体なんだとか、そうじゃないとか。不思議な生き物だ。
「りょーたぁ……おみ、ねれない……」
「しょうがない。こっちにおいで」
「みぅ」
 間違いなくおみは龍神だというのに。どうしてもちびすけには勝てないようだ。
 結局ちびすけに布団を譲ったおみは、俺としらたきを抱きしめながらあっという間に眠ってしまった。絵本はいいのかと思ったが、どうやら今日は必要なかったようだ。
「二人とも、おやすみ」
「みぃ……」
「にゃぅ……」
 同じような寝方で、似たような返事をする小さな生き物を見て、俺も幸せな夢が見られそうだと瞼を閉じた。
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