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花時雨【4月短編】

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 明け方、まだ朝日が登るには早い時間。
 夜闇を切り裂く稲光で目を覚ました。
「か、雷?」
 遠くでゴロゴロと音が聞こえる。しばらくして、どぉん、と雷の落ちる音がした。続いて土砂降りの雨が降り始める。普段なら、雨が降る前にこめかみがジクジクと痛む。しかし今は頭全体が殴られたように痛んでいた。こんな天気は初めてだ。
 一体どうして、何が起きたんだろう。慌てて隣に寝ているおみを探すと、毛布がこんもりと盛り上がっていた。
「おみ、どうした? 怖い夢でも見たか?」
「みぃー……」
「おみ?」
 雨が降っている、ということは、おみが泣いているということだ。しかし雷が鳴るとは。こんなことは一度もなかった。
 ぽんぽん背中を撫でてやると、しばらくしてひょこっと顔を出してきた。案の定、顔をぐしゃぐしゃにして泣いている。握り締められたしらたきも、どこか悲しそうな顔をしていた。
「みぇー……りょーたー……」
「よしよし」
 もそもそ布団から這い出てきて、ぎゅうと抱きついてくる。今までも怖い夢を見て泣いたり、夜中にトイレに行きたくなってベソをかいたことはあるが。
「うにゃ、みぃ」
「雷が鳴るって、一体どうしたんだ? お腹が痛い?」
「おなか……いたくない……」
「うーん、じゃあどうしたんだろう」
「いたくない、けど」
「けど?」
 おみが何か言おうと口を開いた瞬間、「ぐううううう」と大きな音が響いた。まるで雷が鳴り響くような。そんな音が、おみから鳴っていた。
 これって、もしかして。
「おみ……お腹空いたのか?」
「しゅいたー……」
「それでか……」
 確かに今日は少し晩ごはんの量が少なかった。うどんとちょっとした小針だけで、デザートもなかった。というのも今朝は二人とも寝坊して、朝ごはんと昼ごはんが一緒になってしまったのだ。しかも食べた時間が少し遅かったから、晩御飯は軽めにしておいたのだ。
 それがまさか、こんなことになるなんて。
「お腹が空いて泣いていたのか」
「ごめんー……」
「いいよ。ほら、台所に行こう」
「みぃ」
 グジュグジュ泣き続けるおみを抱っこしたまま、台所へと向かう。
 外では、まだ雷が鳴り響いていた。

「はい、これ飲んで」
「み」
 マグカップいっぱいに注いだのは、ミルクと甘酒を混ぜて温めたものだ。これなら体もポカポカになって眠りやすいし、お腹にも溜まりやすい。何より元がお米だから、おみの気持ちも落ち着きやすいのだ。
 すん、と鼻を啜りながら、おみはマグカップを持っている。どうやら自分が泣いてしまったことに対して罪悪感を抱いているようだ。
「それ飲んだらまた寝よう。眠たいだろ?」
「りょーた、おこってないの?」
「なんで怒るんだよ。お腹が空くのは元気な証拠だ」
「みぃ」
「明日からは、寝る前に牛乳飲もうな。そしたら寝ている間にお腹が空くことも無くなるだろ」
 静かに頷いたあと、おみは甘酒をゆっくりと飲み始めた。少しずつ外の雨音が小さくなっていく。お腹が満たされたことで気持ちも落ち着いたのだろう。
「りょーた、ありがと」
「どういたしまして」
「くあああ……」
「あはは、眠たそう」
「みぃー……ねむたい……」
 再び眠たそうに欠伸をしたおみを抱き上げ、二人でもう一度布団へと戻ることにした。
 歩いている間におみは眠ってしまい、穏やかな寝息が聞こえ始めた。雷の音は、もう聞こえなくなっていた。
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