180 / 276
花時雨【4月短編】
9
しおりを挟む
明け方、まだ朝日が登るには早い時間。
夜闇を切り裂く稲光で目を覚ました。
「か、雷?」
遠くでゴロゴロと音が聞こえる。しばらくして、どぉん、と雷の落ちる音がした。続いて土砂降りの雨が降り始める。普段なら、雨が降る前にこめかみがジクジクと痛む。しかし今は頭全体が殴られたように痛んでいた。こんな天気は初めてだ。
一体どうして、何が起きたんだろう。慌てて隣に寝ているおみを探すと、毛布がこんもりと盛り上がっていた。
「おみ、どうした? 怖い夢でも見たか?」
「みぃー……」
「おみ?」
雨が降っている、ということは、おみが泣いているということだ。しかし雷が鳴るとは。こんなことは一度もなかった。
ぽんぽん背中を撫でてやると、しばらくしてひょこっと顔を出してきた。案の定、顔をぐしゃぐしゃにして泣いている。握り締められたしらたきも、どこか悲しそうな顔をしていた。
「みぇー……りょーたー……」
「よしよし」
もそもそ布団から這い出てきて、ぎゅうと抱きついてくる。今までも怖い夢を見て泣いたり、夜中にトイレに行きたくなってベソをかいたことはあるが。
「うにゃ、みぃ」
「雷が鳴るって、一体どうしたんだ? お腹が痛い?」
「おなか……いたくない……」
「うーん、じゃあどうしたんだろう」
「いたくない、けど」
「けど?」
おみが何か言おうと口を開いた瞬間、「ぐううううう」と大きな音が響いた。まるで雷が鳴り響くような。そんな音が、おみから鳴っていた。
これって、もしかして。
「おみ……お腹空いたのか?」
「しゅいたー……」
「それでか……」
確かに今日は少し晩ごはんの量が少なかった。うどんとちょっとした小針だけで、デザートもなかった。というのも今朝は二人とも寝坊して、朝ごはんと昼ごはんが一緒になってしまったのだ。しかも食べた時間が少し遅かったから、晩御飯は軽めにしておいたのだ。
それがまさか、こんなことになるなんて。
「お腹が空いて泣いていたのか」
「ごめんー……」
「いいよ。ほら、台所に行こう」
「みぃ」
グジュグジュ泣き続けるおみを抱っこしたまま、台所へと向かう。
外では、まだ雷が鳴り響いていた。
「はい、これ飲んで」
「み」
マグカップいっぱいに注いだのは、ミルクと甘酒を混ぜて温めたものだ。これなら体もポカポカになって眠りやすいし、お腹にも溜まりやすい。何より元がお米だから、おみの気持ちも落ち着きやすいのだ。
すん、と鼻を啜りながら、おみはマグカップを持っている。どうやら自分が泣いてしまったことに対して罪悪感を抱いているようだ。
「それ飲んだらまた寝よう。眠たいだろ?」
「りょーた、おこってないの?」
「なんで怒るんだよ。お腹が空くのは元気な証拠だ」
「みぃ」
「明日からは、寝る前に牛乳飲もうな。そしたら寝ている間にお腹が空くことも無くなるだろ」
静かに頷いたあと、おみは甘酒をゆっくりと飲み始めた。少しずつ外の雨音が小さくなっていく。お腹が満たされたことで気持ちも落ち着いたのだろう。
「りょーた、ありがと」
「どういたしまして」
「くあああ……」
「あはは、眠たそう」
「みぃー……ねむたい……」
再び眠たそうに欠伸をしたおみを抱き上げ、二人でもう一度布団へと戻ることにした。
歩いている間におみは眠ってしまい、穏やかな寝息が聞こえ始めた。雷の音は、もう聞こえなくなっていた。
夜闇を切り裂く稲光で目を覚ました。
「か、雷?」
遠くでゴロゴロと音が聞こえる。しばらくして、どぉん、と雷の落ちる音がした。続いて土砂降りの雨が降り始める。普段なら、雨が降る前にこめかみがジクジクと痛む。しかし今は頭全体が殴られたように痛んでいた。こんな天気は初めてだ。
一体どうして、何が起きたんだろう。慌てて隣に寝ているおみを探すと、毛布がこんもりと盛り上がっていた。
「おみ、どうした? 怖い夢でも見たか?」
「みぃー……」
「おみ?」
雨が降っている、ということは、おみが泣いているということだ。しかし雷が鳴るとは。こんなことは一度もなかった。
ぽんぽん背中を撫でてやると、しばらくしてひょこっと顔を出してきた。案の定、顔をぐしゃぐしゃにして泣いている。握り締められたしらたきも、どこか悲しそうな顔をしていた。
「みぇー……りょーたー……」
「よしよし」
もそもそ布団から這い出てきて、ぎゅうと抱きついてくる。今までも怖い夢を見て泣いたり、夜中にトイレに行きたくなってベソをかいたことはあるが。
「うにゃ、みぃ」
「雷が鳴るって、一体どうしたんだ? お腹が痛い?」
「おなか……いたくない……」
「うーん、じゃあどうしたんだろう」
「いたくない、けど」
「けど?」
おみが何か言おうと口を開いた瞬間、「ぐううううう」と大きな音が響いた。まるで雷が鳴り響くような。そんな音が、おみから鳴っていた。
これって、もしかして。
「おみ……お腹空いたのか?」
「しゅいたー……」
「それでか……」
確かに今日は少し晩ごはんの量が少なかった。うどんとちょっとした小針だけで、デザートもなかった。というのも今朝は二人とも寝坊して、朝ごはんと昼ごはんが一緒になってしまったのだ。しかも食べた時間が少し遅かったから、晩御飯は軽めにしておいたのだ。
それがまさか、こんなことになるなんて。
「お腹が空いて泣いていたのか」
「ごめんー……」
「いいよ。ほら、台所に行こう」
「みぃ」
グジュグジュ泣き続けるおみを抱っこしたまま、台所へと向かう。
外では、まだ雷が鳴り響いていた。
「はい、これ飲んで」
「み」
マグカップいっぱいに注いだのは、ミルクと甘酒を混ぜて温めたものだ。これなら体もポカポカになって眠りやすいし、お腹にも溜まりやすい。何より元がお米だから、おみの気持ちも落ち着きやすいのだ。
すん、と鼻を啜りながら、おみはマグカップを持っている。どうやら自分が泣いてしまったことに対して罪悪感を抱いているようだ。
「それ飲んだらまた寝よう。眠たいだろ?」
「りょーた、おこってないの?」
「なんで怒るんだよ。お腹が空くのは元気な証拠だ」
「みぃ」
「明日からは、寝る前に牛乳飲もうな。そしたら寝ている間にお腹が空くことも無くなるだろ」
静かに頷いたあと、おみは甘酒をゆっくりと飲み始めた。少しずつ外の雨音が小さくなっていく。お腹が満たされたことで気持ちも落ち着いたのだろう。
「りょーた、ありがと」
「どういたしまして」
「くあああ……」
「あはは、眠たそう」
「みぃー……ねむたい……」
再び眠たそうに欠伸をしたおみを抱き上げ、二人でもう一度布団へと戻ることにした。
歩いている間におみは眠ってしまい、穏やかな寝息が聞こえ始めた。雷の音は、もう聞こえなくなっていた。
14
お気に入りに追加
567
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【泣き虫龍神様】干天の慈雨
一花みえる
キャラ文芸
雨乞いのため生贄にされた柚希は、龍神様のいるという山奥へと向かう。そこで出会ったのは、「おみ」と名乗る不思議な子供だった。
泣き虫龍神様の番外編です!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【未完】妖狐さんは働きたくない!〜アヤカシ書店の怠惰な日常〜
愛早さくら
キャラ文芸
街角にある古びた書店……その奥で。妖狐の陽子は今日も布団に潜り込んでいた。曰く、
「私、元は狐よ?なんで勤労なんかしなきゃいけないの。働きたいやつだけ働けばいいのよ」
と。そんな彼女から布団を引っぺがすのはこの書店のバイト店員……天狗と人のハーフである玄夜だった。
「そんなこと言わずに仕事してください!」
「仕事って何よー」
「――……依頼です」
怠惰な店主のいる古びた書店。
時折ここには相談事が舞い込んでくる。
警察などでは解決できない、少し不可思議な相談事が。
普段は寝てばかりの怠惰な陽子が渋々でも『仕事』をする時。
そこには確かに救われる『何か』があった。
とある街の片隅に住まう、人ならざる者達が人やそれ以外所以の少し不思議を解決したりしなかったりする短編連作。
……になる予定です。
怠惰な妖狐と勤勉な天狗(と人とのハーフ)の騒がしかったりそうじゃなかったりする日常を、よろしれば少しだけ、覗いていってみませんか?
>>すごく中途半端ですけど、ちょっと続きを書くのがしんどくなってきたので2話まででいったん完結にさせて頂きました。未完です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。